風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~
王都の混乱
「風司の53番【風は姿なき者と侮る勿れ、集えば破城槌のごとく、高き城壁も砕く】」
刀を振り下ろすと、風の塊が三本の首を持つ犬のような魔獣、バーゲストにぶち当たった。
バーゲストがたたらを踏んで後退する。長い爪が大通りの赤と白の石畳を砕いて、破片が飛び散った。
威嚇するようにバーゲストの三つの首が咆哮を上げる。空気が震えて、バーゲストを囲むようにして槍を構えた兵士たちが一歩下がった。
周りの市民からも悲鳴が上がる。見物してないで逃げてほしいんだがな。
長い牙が生えた口から赤黒く光る涎のようなものが滴って石畳を濡らした。
さっきの一撃はあまり効いてないらしい。
姿勢が低くなった。突っ込んでくるかと思ったが。
後ろをちらりと見ると、テレーザが頷いた。
「『ここは最果て北端の城郭、此の地にて炎の燃ゆるは禁じられし行い。全ては凍てつき永久に眠るべし、其は王命なり』術式解放!」
テレーザの詠唱が終わって、白い吹雪がバーゲストをとらえる。
吹雪が消えると、真っ白い氷に覆われたバーゲストが砕け散った。
◆
俺の横で剣を構えていた男が、剣をおろしてため息をついた。
「助けられたな、すまない」
そう言って男が軽く微笑む。
俺より少し年上っぽい。後ろに奇麗になでつけた栗色の髪と整えられた髭に、穏やかな目つき。上品な感じで戦士というより文官って感じだ。
恩恵は持っているようだが、戦い慣れている感じではないな。
付き従っている兵士たちと茶色の鎧がお揃いだ。
騎士か貴族か知らないが冒険者ではないことは間違いないだろう。
「見事な腕だ、君たちは冒険者……?」
言いかけて、その男の顔がこわばった。俺の衣裳に入った師団の紋章をにらんでいる。
そいつのマントには王冠を象った文様が入っていた。
「余計なことを……我々だけでも倒せた」
そいつがそっけなく言った。
多分いわゆる国王派の貴族なのか、それとも騎士かってところだろうか。
まあ確かに普通の魔族程度なら其処まで強力な魔法は必要ないから手出しするまでもなかったのかもしれないが。
「あれは対魔族魔導士団の風使いと魔術導師様ですよね」
「宰相殿の師団は流石に頼れるな」
周りからそんな声が聞こえた……今はあんまりそういう話はしてほしくないな。
ただでさえ、国王派だの宰相派だの余計な波風が立っているっていうのに。
男が露骨に嫌な顔をして市民を一瞥した。
「俺は師団員ではあるが、家柄も何もない元冒険者だ。
今大事なのは敵を倒すことだろ。恩恵持ち同士でいがみ合うことじゃない、そうは思わないか?」
そういうと、男の顔が硬い表情が少し緩んだ。
「冒険者……君が、そうか。風使いオルランド公か」
口調が少し柔らかくなった。
こういう時は変に家柄とかが無い方が話が通しやすい気がする。
そいつがテレーザの方に視線をやるが、テレーザは特に表情を変えなかった。
「ふむ……君が言うなら……そうだな。尤もだ。支援に礼を言う。行くぞ」
男がそう言って兵士たちに合図すると、兵士たちが敬礼して男に付き従って歩き去っていった。
テレーザが物憂げにため息をつく。
家柄で意地を張りあうのも貴族のサガなのか。
全く面倒なことだな。
「このような状況を見たことがあるか?」
「いや、無いな。少なくとも俺の知る限りでは無い」
あのザブノクとの戦いから10日ほどが経った。
同時に、魔獣が市内に現れ始めた、という報告が上がってきて、師団の内無事な奴らで市内巡回と討伐をしている。
ヴァルメーロは王都だけあって腕利きの冒険者も多い。
魔獣が現れる程度なら、冒険者が対処してくれるし国王派を称する貴族の私兵が対応しているらしい。
今の所大きな犠牲は出ていないのは幸いだが。
ヴァルメーロの城壁の中にまで魔獣が現れているこの状況は明らかに普通じゃない。
◆
「戻りました」
市内巡回を始めてからすっかり師団の詰め所と化した団長の屋敷に戻ると、団長とルーヴェン副団長、其れに何人かの武装した師団員が迎えてくれた。
「ご苦労」
団長は傷もすっかり癒えていて、いつも通り男性の正装に身を固めている。
「どうだった?」
「やっぱり出ました。今日はバーゲスト」
「そうか……まったく、おかしな話だな」
団長が首を振る。ルーヴェン副団長と顔を見合わせて何か言葉を交わした。
「だが、今のところ原因は分からん。分からんことは考えても仕方ない。それをわかるものが考えるだろう」
淡々とした口調で団長が言う。
「それにザブノクのこともある」
そういうと、皆の表情が引き締まった。
今日のバーゲストとかそのくらいなら、経験を積んだ冒険者で十分に対応できるからどうとでもなる。
だが、よりによって、王都のしかも王宮のど真ん中に魔族が現れたということは、次どこに何が現れても不思議じゃないってことだ。
しかもあれほど強力な奴だ。
師団総がかりでどうにか倒せたレベルだったし、テレーザの魔法にも耐えた。
あれに対峙するのは冒険者には無理だろう。
となると次の可能性も考えざるを得ない。
つまり、王宮内にザブノクが突然現れたように、魔獣だけじゃなく魔族も現れるかもしれない。
「市内の様子はどうだ?」
「冒険者ギルドの手配で例の魔族を切る剣が少しづつ配備されているようです。一応此方にも何本が回してもらいました」
「貴族と騎士もそれぞれ独自に従士と市内の巡回をしていますが……」
そこまで言って団員が言葉を濁した。
「なんだ、はっきり言え」
「なんというか、国王陛下に従う方と宰相殿に従う方が時折小競り合いを起こしているとのことで……」
「まったく。この状況で、呆れたものだ」
団長が言う。
ルーヴェン副団長達、貴族組が複雑な表情を浮かべて首を振った。
師団自体は宰相派とみなされているっぽいが、師団員全員がそうというわけではないらしい。
この辺も色々とややこしいな。
「まあいい。しばらくは遠征もないだろう。探知の網にも魔族が掛かっているという話は聞かん。引き続き市内の巡回に当たれ。
我々が宰相派がどうだのということはどうでもいいことだ。魔獣であれ、魔族であれ。現れたら倒す、それが我らのなすべきことだ」
そういうと全員が頷いた。
「では下がっていい。休息を取り次に備えよ」
「了解です」
「失礼します」
◆
団長の部屋から出た。
巡回が終わったから今日はもう帰ってもいいはずだ。
オードリーはまだ魔法塾だろう。
まだ弱いが攻撃系の魔法を使えたらしく、嬉しそうに報告してくれた。どうやら恩恵はバランス型の攻撃魔法使いらしい。
メイはレオノーラさんと留守番しているはずだ。
「ライエル」
「なんだ?」
「新しいカフェを見つけたのだ……その店のオリジナルのケーキが中々に美味いらしい」
「そうなのか?」
魔獣が出て市街での戦いが時折起こったりしているが。
それでも人は生きて行かなければいかないから、店とかは普通にやっている。
「きっとオードリーとメイも気に入ると思うが……とはいえ、自分の目で見ておくことは大事だ。
一応下見に行った方が良いと思うのだが、どうだ?」
テレーザが俯き加減で言う……こんな回りくどく言う必要があるんだろうか。
「そうだな、先に確認しておくのは大事だと思うぜ」
「よし、では行こう」
嬉しそうに笑ってテレーザが門の方に歩いて行った。
刀を振り下ろすと、風の塊が三本の首を持つ犬のような魔獣、バーゲストにぶち当たった。
バーゲストがたたらを踏んで後退する。長い爪が大通りの赤と白の石畳を砕いて、破片が飛び散った。
威嚇するようにバーゲストの三つの首が咆哮を上げる。空気が震えて、バーゲストを囲むようにして槍を構えた兵士たちが一歩下がった。
周りの市民からも悲鳴が上がる。見物してないで逃げてほしいんだがな。
長い牙が生えた口から赤黒く光る涎のようなものが滴って石畳を濡らした。
さっきの一撃はあまり効いてないらしい。
姿勢が低くなった。突っ込んでくるかと思ったが。
後ろをちらりと見ると、テレーザが頷いた。
「『ここは最果て北端の城郭、此の地にて炎の燃ゆるは禁じられし行い。全ては凍てつき永久に眠るべし、其は王命なり』術式解放!」
テレーザの詠唱が終わって、白い吹雪がバーゲストをとらえる。
吹雪が消えると、真っ白い氷に覆われたバーゲストが砕け散った。
◆
俺の横で剣を構えていた男が、剣をおろしてため息をついた。
「助けられたな、すまない」
そう言って男が軽く微笑む。
俺より少し年上っぽい。後ろに奇麗になでつけた栗色の髪と整えられた髭に、穏やかな目つき。上品な感じで戦士というより文官って感じだ。
恩恵は持っているようだが、戦い慣れている感じではないな。
付き従っている兵士たちと茶色の鎧がお揃いだ。
騎士か貴族か知らないが冒険者ではないことは間違いないだろう。
「見事な腕だ、君たちは冒険者……?」
言いかけて、その男の顔がこわばった。俺の衣裳に入った師団の紋章をにらんでいる。
そいつのマントには王冠を象った文様が入っていた。
「余計なことを……我々だけでも倒せた」
そいつがそっけなく言った。
多分いわゆる国王派の貴族なのか、それとも騎士かってところだろうか。
まあ確かに普通の魔族程度なら其処まで強力な魔法は必要ないから手出しするまでもなかったのかもしれないが。
「あれは対魔族魔導士団の風使いと魔術導師様ですよね」
「宰相殿の師団は流石に頼れるな」
周りからそんな声が聞こえた……今はあんまりそういう話はしてほしくないな。
ただでさえ、国王派だの宰相派だの余計な波風が立っているっていうのに。
男が露骨に嫌な顔をして市民を一瞥した。
「俺は師団員ではあるが、家柄も何もない元冒険者だ。
今大事なのは敵を倒すことだろ。恩恵持ち同士でいがみ合うことじゃない、そうは思わないか?」
そういうと、男の顔が硬い表情が少し緩んだ。
「冒険者……君が、そうか。風使いオルランド公か」
口調が少し柔らかくなった。
こういう時は変に家柄とかが無い方が話が通しやすい気がする。
そいつがテレーザの方に視線をやるが、テレーザは特に表情を変えなかった。
「ふむ……君が言うなら……そうだな。尤もだ。支援に礼を言う。行くぞ」
男がそう言って兵士たちに合図すると、兵士たちが敬礼して男に付き従って歩き去っていった。
テレーザが物憂げにため息をつく。
家柄で意地を張りあうのも貴族のサガなのか。
全く面倒なことだな。
「このような状況を見たことがあるか?」
「いや、無いな。少なくとも俺の知る限りでは無い」
あのザブノクとの戦いから10日ほどが経った。
同時に、魔獣が市内に現れ始めた、という報告が上がってきて、師団の内無事な奴らで市内巡回と討伐をしている。
ヴァルメーロは王都だけあって腕利きの冒険者も多い。
魔獣が現れる程度なら、冒険者が対処してくれるし国王派を称する貴族の私兵が対応しているらしい。
今の所大きな犠牲は出ていないのは幸いだが。
ヴァルメーロの城壁の中にまで魔獣が現れているこの状況は明らかに普通じゃない。
◆
「戻りました」
市内巡回を始めてからすっかり師団の詰め所と化した団長の屋敷に戻ると、団長とルーヴェン副団長、其れに何人かの武装した師団員が迎えてくれた。
「ご苦労」
団長は傷もすっかり癒えていて、いつも通り男性の正装に身を固めている。
「どうだった?」
「やっぱり出ました。今日はバーゲスト」
「そうか……まったく、おかしな話だな」
団長が首を振る。ルーヴェン副団長と顔を見合わせて何か言葉を交わした。
「だが、今のところ原因は分からん。分からんことは考えても仕方ない。それをわかるものが考えるだろう」
淡々とした口調で団長が言う。
「それにザブノクのこともある」
そういうと、皆の表情が引き締まった。
今日のバーゲストとかそのくらいなら、経験を積んだ冒険者で十分に対応できるからどうとでもなる。
だが、よりによって、王都のしかも王宮のど真ん中に魔族が現れたということは、次どこに何が現れても不思議じゃないってことだ。
しかもあれほど強力な奴だ。
師団総がかりでどうにか倒せたレベルだったし、テレーザの魔法にも耐えた。
あれに対峙するのは冒険者には無理だろう。
となると次の可能性も考えざるを得ない。
つまり、王宮内にザブノクが突然現れたように、魔獣だけじゃなく魔族も現れるかもしれない。
「市内の様子はどうだ?」
「冒険者ギルドの手配で例の魔族を切る剣が少しづつ配備されているようです。一応此方にも何本が回してもらいました」
「貴族と騎士もそれぞれ独自に従士と市内の巡回をしていますが……」
そこまで言って団員が言葉を濁した。
「なんだ、はっきり言え」
「なんというか、国王陛下に従う方と宰相殿に従う方が時折小競り合いを起こしているとのことで……」
「まったく。この状況で、呆れたものだ」
団長が言う。
ルーヴェン副団長達、貴族組が複雑な表情を浮かべて首を振った。
師団自体は宰相派とみなされているっぽいが、師団員全員がそうというわけではないらしい。
この辺も色々とややこしいな。
「まあいい。しばらくは遠征もないだろう。探知の網にも魔族が掛かっているという話は聞かん。引き続き市内の巡回に当たれ。
我々が宰相派がどうだのということはどうでもいいことだ。魔獣であれ、魔族であれ。現れたら倒す、それが我らのなすべきことだ」
そういうと全員が頷いた。
「では下がっていい。休息を取り次に備えよ」
「了解です」
「失礼します」
◆
団長の部屋から出た。
巡回が終わったから今日はもう帰ってもいいはずだ。
オードリーはまだ魔法塾だろう。
まだ弱いが攻撃系の魔法を使えたらしく、嬉しそうに報告してくれた。どうやら恩恵はバランス型の攻撃魔法使いらしい。
メイはレオノーラさんと留守番しているはずだ。
「ライエル」
「なんだ?」
「新しいカフェを見つけたのだ……その店のオリジナルのケーキが中々に美味いらしい」
「そうなのか?」
魔獣が出て市街での戦いが時折起こったりしているが。
それでも人は生きて行かなければいかないから、店とかは普通にやっている。
「きっとオードリーとメイも気に入ると思うが……とはいえ、自分の目で見ておくことは大事だ。
一応下見に行った方が良いと思うのだが、どうだ?」
テレーザが俯き加減で言う……こんな回りくどく言う必要があるんだろうか。
「そうだな、先に確認しておくのは大事だと思うぜ」
「よし、では行こう」
嬉しそうに笑ってテレーザが門の方に歩いて行った。
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