風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~
面倒事の顛末・上
「決着はついた。オルランド公。君がとがめられることはない」
広間の椅子に深く腰掛けたアマラウさんが書簡を見ながらそう言うと、俺の横で息を詰めていたテレーザが安どのため息をついた。
フェルナンを切ったあの日から10日が経った。
魔法で援護してくれたアマラウさんは魔法の負荷で血を吐いて倒れ、その間にいつの間にかマヌエル達は居なくなっていた。
屋敷からも何人か使用人やメイドさんが消えていたらしい。
一体どれだけの数を送り込んでいたんだか。
周りをフェルナンの手の者に囲まれていては、アマラウさんもまともに療養どころじゃなかったのかもしれない。
俺達は問題が解決するまでここに居るようにと言われて留め置かれた。
意識を取り戻したアマラウさんが王都への奏上やフェルナンのグアラルダ家との折衝をやってくれて、結局決着がついたらしい。
この辺はどういうことが起きたのかは俺にはよくわからない。
「今回の事は公式には貴族同士の正当な決闘の末のことということになった。決闘の末のことだから君に咎めはない
弟の家……グアラルダ家は貴族身分を一時停止され彼の家の者は他家の預かり、領土は当分は王陛下の代官の管理下に置かれる。君に手出しはもうできない」
そこで一度疲れたようにアマラウさんが言葉を切った。
「君に咎めが行かないことを最優先したが……この結果は、君には不満かもしれない……」
済まなそうな口調でアマラウさんが言うが。
「いえ、俺は気にしてません。有難うございます」
咎めも覚悟のうえでフェルナンを切ったが、結果的には大ごとにならなくてよかった。
さすがに貴族を切ったのだから、普通に考えれば騎士どころじゃないだろ
うし、師団にもいられないだろう。
あの家がどうなるかは正直言うとあまり関心が無い。
ただ、マヌエルはどうなったんだろうか。それは少しだけ気がかりだ。
「ただ、あれが正式な決闘なんてするタイプですかね」
正々堂々と決闘をして片方が倒れてもおとがめなし、というのは一昔前の習わしだ。
冒険者同士がやるとギルドから処罰されるが、貴族社会にはまだそう言うのが残っているのかもしれない。
ただ、こんな話で落ち着くとはとても思えないんだが。
「誰もがそんなことは分かっているとも……だが記録ではそう留められる。残るのは結果だけだ。それが貴族社会というものだ」
自嘲気味にアマラウさんが言った。
◆
部屋を出ると、廊下でオードリーとメイが待っていた。
不安げな目で俺を見上げてくるが。
「大丈夫だ、何も変わらないよ」
そういうとオードリーたちがうれしそうに笑った。
「あの家にまだいていいの?」
「お姉ちゃんもまた来てくれる?さよならじゃない?」
「心配いらないぞ、二人とも。我が父上が上手く収めてくださった」
テレーザが言うと、二人が安心したようため息をついた。
「怖くなかったか?」
この質問は何度もしたんだが。なんとなく心配でまたしてしまう。
「叔父さんとお姉ちゃんが絶対助けてくれると思ったもんね」
「ねー」
「それに、冒険者は勇気が無いとダメなんでしょ?」
「そうだよ、怖がってちゃダメなんだよ」
二人が顔を見合わせて言った。
強いのか、単なる強がりなのか分らんが、今のところあの戦いの時の影響はない。傷は治癒術で治せても心の傷はそう簡単にはいかない。
そう言うのが無くてとりあえずは一安心だな。
「あ、お姉ちゃん。時間だよ」
「そうだ、行かないと」
「どうしたんだ?」
「あのね、毎日この時間にお菓子を貰えるの」
「今日はクッキーなんだよ」
「甘くておいしいの」
「じゃあね、叔父さん、お姉ちゃん」
そう言って二人が手を振って廊下を歩いて行った
◆
二人が行ってしまって廊下に静けさが戻った。
「今回は……すまなかったな」
テレーザが申し訳なさそうに言うが。
「終わりよければすべてよし、だ。生きて帰れたら、まずやることは酒場で一杯、幸運を寿げ。省みれるは命あるものの特権」
「また冒険者の格言か?」
「ああ」
反省は大事だが、それも命あってのものだ。
ミスは起きるし、死と紙一重の時もある。
生きて帰れたらまずはツキがあったこととをよろこぶ。負のオーラを引きずっていてもいいことはない。反省はその後でもできる。
「幸運の鳥は飛んでいるからな、足元にはいないぞ。前を向いていないと見逃すぜ」
「だが……私は何もできなかった」
俯いたままテレーザが言う。
あの乱戦状況では詠唱の長いテレーザの魔法は使えなかっただろう。
気にするな、と言おうと思ったが……本気で気にしているっぽいのがなんとなく伝わってきた。
「なんでも一人でできる必要はない。何のために冒険者や騎士がパーティを組むと思ってるんだ?」
冒険者は、よほどの高ランク帯でない限り、一人での討伐任務は受けない。
ギルドが止めるし、そもそもそんな命知らずな真似は誰もしない。
「俺達は戦う以上強くならないといけないが、それは1人で戦えるようになるのとは違う。やれることをやればいい」
あの化け物じみて強い……恐らく師団全員を返り討ちにしかねない団長ですら一人で魔族は倒せない。
ある場面では役立たずでも、別の場面では素晴らしい力を発揮するなんてことは珍しくない。
一人で成し遂げれることは多くはない。だから冒険者はパーティを組み戦う。
「ふん……いつものもってまわった冒険者の格言はどうした?」
テレーザが小さく笑った。落ち込んだような空気が少し和らぐ。
「今俺が思ったことだ。何か悪いか?」
何か言おうかと思ったんだが生憎と上手くこの状況に合う格言が無かった。
「いや……その方がいい」
テレーザが歩み寄ってきて俺の胸にこつんと額を当てた。
……見られてないだろうな。
「そういえば、すぐに助けなくて悪かったな」
あの状況ならテレーザを殺すような真似はしなかっただろう。こういう言い方は何だが、フェルナンにとってテレーザやアマラウさんは利用価値はあった。
とっさの判断で後回しにしてしまったし、判断が間違っていたとは思わないんだが。少し後ろめたい気持ちはある
「いや……あの局面だ。オードリーたちを優先するのは当然の判断だろう」
俺の胸にもたれかかったままでテレーザが言う。
「でも……お前は私の護衛なのだぞ……だから、次は私を守ってくれるな」
「ああ、分かってるさ」
広間の椅子に深く腰掛けたアマラウさんが書簡を見ながらそう言うと、俺の横で息を詰めていたテレーザが安どのため息をついた。
フェルナンを切ったあの日から10日が経った。
魔法で援護してくれたアマラウさんは魔法の負荷で血を吐いて倒れ、その間にいつの間にかマヌエル達は居なくなっていた。
屋敷からも何人か使用人やメイドさんが消えていたらしい。
一体どれだけの数を送り込んでいたんだか。
周りをフェルナンの手の者に囲まれていては、アマラウさんもまともに療養どころじゃなかったのかもしれない。
俺達は問題が解決するまでここに居るようにと言われて留め置かれた。
意識を取り戻したアマラウさんが王都への奏上やフェルナンのグアラルダ家との折衝をやってくれて、結局決着がついたらしい。
この辺はどういうことが起きたのかは俺にはよくわからない。
「今回の事は公式には貴族同士の正当な決闘の末のことということになった。決闘の末のことだから君に咎めはない
弟の家……グアラルダ家は貴族身分を一時停止され彼の家の者は他家の預かり、領土は当分は王陛下の代官の管理下に置かれる。君に手出しはもうできない」
そこで一度疲れたようにアマラウさんが言葉を切った。
「君に咎めが行かないことを最優先したが……この結果は、君には不満かもしれない……」
済まなそうな口調でアマラウさんが言うが。
「いえ、俺は気にしてません。有難うございます」
咎めも覚悟のうえでフェルナンを切ったが、結果的には大ごとにならなくてよかった。
さすがに貴族を切ったのだから、普通に考えれば騎士どころじゃないだろ
うし、師団にもいられないだろう。
あの家がどうなるかは正直言うとあまり関心が無い。
ただ、マヌエルはどうなったんだろうか。それは少しだけ気がかりだ。
「ただ、あれが正式な決闘なんてするタイプですかね」
正々堂々と決闘をして片方が倒れてもおとがめなし、というのは一昔前の習わしだ。
冒険者同士がやるとギルドから処罰されるが、貴族社会にはまだそう言うのが残っているのかもしれない。
ただ、こんな話で落ち着くとはとても思えないんだが。
「誰もがそんなことは分かっているとも……だが記録ではそう留められる。残るのは結果だけだ。それが貴族社会というものだ」
自嘲気味にアマラウさんが言った。
◆
部屋を出ると、廊下でオードリーとメイが待っていた。
不安げな目で俺を見上げてくるが。
「大丈夫だ、何も変わらないよ」
そういうとオードリーたちがうれしそうに笑った。
「あの家にまだいていいの?」
「お姉ちゃんもまた来てくれる?さよならじゃない?」
「心配いらないぞ、二人とも。我が父上が上手く収めてくださった」
テレーザが言うと、二人が安心したようため息をついた。
「怖くなかったか?」
この質問は何度もしたんだが。なんとなく心配でまたしてしまう。
「叔父さんとお姉ちゃんが絶対助けてくれると思ったもんね」
「ねー」
「それに、冒険者は勇気が無いとダメなんでしょ?」
「そうだよ、怖がってちゃダメなんだよ」
二人が顔を見合わせて言った。
強いのか、単なる強がりなのか分らんが、今のところあの戦いの時の影響はない。傷は治癒術で治せても心の傷はそう簡単にはいかない。
そう言うのが無くてとりあえずは一安心だな。
「あ、お姉ちゃん。時間だよ」
「そうだ、行かないと」
「どうしたんだ?」
「あのね、毎日この時間にお菓子を貰えるの」
「今日はクッキーなんだよ」
「甘くておいしいの」
「じゃあね、叔父さん、お姉ちゃん」
そう言って二人が手を振って廊下を歩いて行った
◆
二人が行ってしまって廊下に静けさが戻った。
「今回は……すまなかったな」
テレーザが申し訳なさそうに言うが。
「終わりよければすべてよし、だ。生きて帰れたら、まずやることは酒場で一杯、幸運を寿げ。省みれるは命あるものの特権」
「また冒険者の格言か?」
「ああ」
反省は大事だが、それも命あってのものだ。
ミスは起きるし、死と紙一重の時もある。
生きて帰れたらまずはツキがあったこととをよろこぶ。負のオーラを引きずっていてもいいことはない。反省はその後でもできる。
「幸運の鳥は飛んでいるからな、足元にはいないぞ。前を向いていないと見逃すぜ」
「だが……私は何もできなかった」
俯いたままテレーザが言う。
あの乱戦状況では詠唱の長いテレーザの魔法は使えなかっただろう。
気にするな、と言おうと思ったが……本気で気にしているっぽいのがなんとなく伝わってきた。
「なんでも一人でできる必要はない。何のために冒険者や騎士がパーティを組むと思ってるんだ?」
冒険者は、よほどの高ランク帯でない限り、一人での討伐任務は受けない。
ギルドが止めるし、そもそもそんな命知らずな真似は誰もしない。
「俺達は戦う以上強くならないといけないが、それは1人で戦えるようになるのとは違う。やれることをやればいい」
あの化け物じみて強い……恐らく師団全員を返り討ちにしかねない団長ですら一人で魔族は倒せない。
ある場面では役立たずでも、別の場面では素晴らしい力を発揮するなんてことは珍しくない。
一人で成し遂げれることは多くはない。だから冒険者はパーティを組み戦う。
「ふん……いつものもってまわった冒険者の格言はどうした?」
テレーザが小さく笑った。落ち込んだような空気が少し和らぐ。
「今俺が思ったことだ。何か悪いか?」
何か言おうかと思ったんだが生憎と上手くこの状況に合う格言が無かった。
「いや……その方がいい」
テレーザが歩み寄ってきて俺の胸にこつんと額を当てた。
……見られてないだろうな。
「そういえば、すぐに助けなくて悪かったな」
あの状況ならテレーザを殺すような真似はしなかっただろう。こういう言い方は何だが、フェルナンにとってテレーザやアマラウさんは利用価値はあった。
とっさの判断で後回しにしてしまったし、判断が間違っていたとは思わないんだが。少し後ろめたい気持ちはある
「いや……あの局面だ。オードリーたちを優先するのは当然の判断だろう」
俺の胸にもたれかかったままでテレーザが言う。
「でも……お前は私の護衛なのだぞ……だから、次は私を守ってくれるな」
「ああ、分かってるさ」
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