風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~
心を支えるもの
テレーザの嬉しそうな雰囲気がしぼんだように感じた。
「いえ……それは……しかし」
「冒険者出身でまだ騎士になって日が浅い、所詮は成り上がりだ。そうだな?」
念を押すようにアマラウさんが言って、テレーザが俺の方に少しだけ目を向けた。
「はい……あの……その通りです」
小さな声でテレーザが答えた。
「なぜそのような者をわざわざ連れてくる必要があったのだ?何か意味があるのか?」
「いえ……あの、私たちは二人で手柄を立てました……ですから」
「そうであっても、だ。ヴァーレリアス家の者が単なる騎士を伴うとは。
そもそも成り上がりの騎士が我がヴァーレリアス家の敷居をまたぐと言う事自体異例だぞ。戦場という特殊な場ではともかく、普通なら許されん」
「ですが、前回のエスタ・ダモレイラの魔族討伐で素晴らしい働きをしました。ですから」
「多少手柄を立てただけだろう……所詮は成り上がりだ」
遮るようにアマラウさんが言って、テレーザが胸を押さえるようにして俯いた。
なんとなく泣くのをこらえているように感じた。
「ヴァーレリアス家の血を引くものとしての自覚を持て、テレーザ」
弱弱しい口調だが反論を赦さない厳しい感じでアマラウさんが言う。
テレーザは黙ったままで、気まずい沈黙が部屋に流れた。
「話は終わりか、テレーザ」
「いえ、そうではありません。当主殿」
俺が口を開くと、意表を突かれたような顔でアマラウさんが俺を見た。
◆
執事風の男とテレーザの視線が俺に集まった。
「この度は私が同行を願い出たのです」
「それは……どういうことだ?」
訝し気な感じでアマラウさんが聞いてくるが。
「あなたの奥様に騎士への推挙を頂きました。ですから当主殿に直接お礼を言うのが筋であろうと思いまして」
冒険者をしていればいろんな相手に会って交渉する。
だから、相手に敬意を表する言葉遣いくらいはギルドで仕込まれる。貴族の正式な礼儀作法ではないと思うが。
アマラウさんの硬い表情がわずかに緩んだ
「そうか……それは、大儀だ」
さっきまでの冷たい感じが少し緩んだ。
「どうやら君はなかなか礼節を……」
そこまで言ったところで、また執事風の男がアマラウさんの肩に手を置いて耳打ちした。
何か言いかけてアマラウさんが口を閉ざす。男が促すとアマラウさんがベッドに横になった。
「旦那様はお疲れのご様子です。お嬢様」
「いや……だが」
「ここまでにされてください」
執事が言って深く頭を下げる。
有無を言わせぬ口調でテレーザが俯いて何か言いたげに唇を噛んで、一礼して踵を返した。
◆
部屋の外でて暫くテレーザが廊下を歩いて行った。
なんとなく後ろについていくと、テレーザが足を止めた。
「すまない……ライエル。ありがとう」
「いや、気にしてない」
成り上がりだのなんだのと言われて腹が立たないわけじゃないが。
……あそこで感情のままに言い返してはテレーザの立場が悪くなるくらいは俺にも分かる。
それに、間違っているわけじゃない。実際、1年前は俺はアルフェリズで冒険者をしていたわけだしな。
騎士の称号とか言われても俺自身実感がない気持ちもある。
しかし、元冒険者の感覚だと身分がそこまで大事なのか、と思わなくもないが。
貴族というのはまあそういうもんなんだろう。
「あのような方では……なかったのだが」
テレーザが寂しげに呟いた。
大きな傷や挫折が人を一変させることはままある。悲しいことだが。
俺だって今は運良く練成術師として戦っていられて、その力を認められたが……あのままアルフェリズで誰にも必要とされないままに引退していたら。
……世の中を憎まなかったとは言えない。
人はそこまで強くない。
「だが、手柄を立てればきっと父上もお前を認めて下さるはずだ」
そう言ってテレーザが俺を見上げた。
「そうだ、私達がもっと手柄を立てればいいのだ。魔族を倒し、王陛下から……そうだな爵位などを与えられればお前も立派な貴族だ」
自分に言い聞かせるようにテレーザが言う。
「そうすれば、お前を成り上がりものなどと呼ぶものはいなくなる。私達ならそれができるはずだ。
そうすればきっと父上も考えを変えて下さる。そうだろう?」
テレーザが俺を見上げて言う
「ああ、そうだな」
だといいな、と言いかけてやめておいた。
……身分の違いか。
◆
「では朝食でも食べよう。オードリーとメイも退屈しているだろう」
テレーザが気を取り直すように言うが。それより。
「一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「あの後ろにいた男はなんだ?黒服の」
時々アマラウさんに耳打ちをしていた男。
側仕えの執事と思っていたが、なんとなくそっちの方が気になった。
「わからない。私も初めて見る顔だった」
テレーザが首を振る。
「私もここに来ることは多くないから……すべての者の顔を覚えてはいない。どうかしたか?」
「そうか……いや、なんでもない」
何となく目線が気になった。値踏みするような、警戒するような、そんな目。
ただ、根拠はない、ただのカンなんだが。
まあ、成り上がり者を見下していただけかもしれない。
「いえ……それは……しかし」
「冒険者出身でまだ騎士になって日が浅い、所詮は成り上がりだ。そうだな?」
念を押すようにアマラウさんが言って、テレーザが俺の方に少しだけ目を向けた。
「はい……あの……その通りです」
小さな声でテレーザが答えた。
「なぜそのような者をわざわざ連れてくる必要があったのだ?何か意味があるのか?」
「いえ……あの、私たちは二人で手柄を立てました……ですから」
「そうであっても、だ。ヴァーレリアス家の者が単なる騎士を伴うとは。
そもそも成り上がりの騎士が我がヴァーレリアス家の敷居をまたぐと言う事自体異例だぞ。戦場という特殊な場ではともかく、普通なら許されん」
「ですが、前回のエスタ・ダモレイラの魔族討伐で素晴らしい働きをしました。ですから」
「多少手柄を立てただけだろう……所詮は成り上がりだ」
遮るようにアマラウさんが言って、テレーザが胸を押さえるようにして俯いた。
なんとなく泣くのをこらえているように感じた。
「ヴァーレリアス家の血を引くものとしての自覚を持て、テレーザ」
弱弱しい口調だが反論を赦さない厳しい感じでアマラウさんが言う。
テレーザは黙ったままで、気まずい沈黙が部屋に流れた。
「話は終わりか、テレーザ」
「いえ、そうではありません。当主殿」
俺が口を開くと、意表を突かれたような顔でアマラウさんが俺を見た。
◆
執事風の男とテレーザの視線が俺に集まった。
「この度は私が同行を願い出たのです」
「それは……どういうことだ?」
訝し気な感じでアマラウさんが聞いてくるが。
「あなたの奥様に騎士への推挙を頂きました。ですから当主殿に直接お礼を言うのが筋であろうと思いまして」
冒険者をしていればいろんな相手に会って交渉する。
だから、相手に敬意を表する言葉遣いくらいはギルドで仕込まれる。貴族の正式な礼儀作法ではないと思うが。
アマラウさんの硬い表情がわずかに緩んだ
「そうか……それは、大儀だ」
さっきまでの冷たい感じが少し緩んだ。
「どうやら君はなかなか礼節を……」
そこまで言ったところで、また執事風の男がアマラウさんの肩に手を置いて耳打ちした。
何か言いかけてアマラウさんが口を閉ざす。男が促すとアマラウさんがベッドに横になった。
「旦那様はお疲れのご様子です。お嬢様」
「いや……だが」
「ここまでにされてください」
執事が言って深く頭を下げる。
有無を言わせぬ口調でテレーザが俯いて何か言いたげに唇を噛んで、一礼して踵を返した。
◆
部屋の外でて暫くテレーザが廊下を歩いて行った。
なんとなく後ろについていくと、テレーザが足を止めた。
「すまない……ライエル。ありがとう」
「いや、気にしてない」
成り上がりだのなんだのと言われて腹が立たないわけじゃないが。
……あそこで感情のままに言い返してはテレーザの立場が悪くなるくらいは俺にも分かる。
それに、間違っているわけじゃない。実際、1年前は俺はアルフェリズで冒険者をしていたわけだしな。
騎士の称号とか言われても俺自身実感がない気持ちもある。
しかし、元冒険者の感覚だと身分がそこまで大事なのか、と思わなくもないが。
貴族というのはまあそういうもんなんだろう。
「あのような方では……なかったのだが」
テレーザが寂しげに呟いた。
大きな傷や挫折が人を一変させることはままある。悲しいことだが。
俺だって今は運良く練成術師として戦っていられて、その力を認められたが……あのままアルフェリズで誰にも必要とされないままに引退していたら。
……世の中を憎まなかったとは言えない。
人はそこまで強くない。
「だが、手柄を立てればきっと父上もお前を認めて下さるはずだ」
そう言ってテレーザが俺を見上げた。
「そうだ、私達がもっと手柄を立てればいいのだ。魔族を倒し、王陛下から……そうだな爵位などを与えられればお前も立派な貴族だ」
自分に言い聞かせるようにテレーザが言う。
「そうすれば、お前を成り上がりものなどと呼ぶものはいなくなる。私達ならそれができるはずだ。
そうすればきっと父上も考えを変えて下さる。そうだろう?」
テレーザが俺を見上げて言う
「ああ、そうだな」
だといいな、と言いかけてやめておいた。
……身分の違いか。
◆
「では朝食でも食べよう。オードリーとメイも退屈しているだろう」
テレーザが気を取り直すように言うが。それより。
「一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「あの後ろにいた男はなんだ?黒服の」
時々アマラウさんに耳打ちをしていた男。
側仕えの執事と思っていたが、なんとなくそっちの方が気になった。
「わからない。私も初めて見る顔だった」
テレーザが首を振る。
「私もここに来ることは多くないから……すべての者の顔を覚えてはいない。どうかしたか?」
「そうか……いや、なんでもない」
何となく目線が気になった。値踏みするような、警戒するような、そんな目。
ただ、根拠はない、ただのカンなんだが。
まあ、成り上がり者を見下していただけかもしれない。
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