風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

テレーザの故郷

 旅行の話はとんとん拍子に決まった。
 というかテレーザが勝手に進めたという方がいいかもしれないが。
 二日後には街道汽車フェロヴィアの切符が手配されて、家に届けられた。


 街道汽車フェロヴィアで東部のヴァラ・プライアなる街まで行って、そこからは馬車になった。
 朝一番で汽車に乗り、午後からは馬車でかなりのハードな旅路なんだが、汽車は一等客室、馬車も専用の大型の馬車で快適だ。
 オードリーとメイも一等客室の広さと豪華さ、食事のおいしさにご満悦だった。


「すごいね、綺麗な馬車」
「これもお姉さんの馬車なの?」


「そうだ」


 テレーザが自慢げな感じで頷く。
 ヴァロカルの駅に着いたときにはこの馬車が駅前に居て、身なりがきちんとした御者が出迎えてくれた。
 内装もそれなりに広いし布張りのソファもついている。


 辻馬車や駅馬車なんてものはガタピシと揺れながら進む快適とは程遠い代物というのが常識なんだが。
 これだけ揺れないのは、恐らく何らかの細工がされているんだろうな。


「しかし、ずいぶん急ぐんだな」
「まあな。次の任務がいつ始まるかわからんだろう?」


 はしゃぐオードリー達を見ながらテレーザが言う。
 確かにそれはそうだな。今はたまたま魔族が出なくて静かな感じだが……このままでないと考えるのはあまりにも甘いだろう。
 今は嵐の切れ目って感じだな





 窓から見える空が赤く染まりつつある夕方。馬車が止まった。


「どうぞ、お嬢様」


 御者がドアを開けてくれる。
 ドアをくぐっておりて体を伸ばした。暖かい空気が肌に触れる。夕方なんだが結構温かいな。


 降りた場所は広々とした前庭だ。
 整えられた植木が並んでいて、その向こうには目の前には二階建ての館がたっている。
 白い壁に赤い屋根に黄色の縁取りの窓枠が目だつ、しゃれた建物だ。
 王都やアルフェリズではあまり見ないデザインだな。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 居並んだメイドや執事、それに兵士たちが頭を下げる。テレーザが鷹揚に頷いた。
 こういうのを見ると貴族の娘というのを改めて認識させられる。
 普段も忘れているわけじゃないんだが。


「父上は?」
「もうお休みになっておられます」


  執事っぽい男がテレーザに答える。


「卒業の前に一度会いに来たのだが……その時もお加減が悪くてな。お会いするのは久しぶりだ」


 そう言ってテレーザがじろりと俺をにらんだ。


「言っておくがお前も面会してもらうぞ」
「ああ、分かってるよ」


 念を押すように言われる。
 個人的にはいろんな意味で遠慮しておきたいが。
 オードリーとメイも一緒に家に招かれているわけで、嫌だというわけにはいかないだろうな。





 翌日朝、テレーザと二人で部屋を訪ねることになった。
 部屋の前には執事のような裾の短い礼装に身を固めた男が立っていて、テレーザが来たことを中に言付けていた。


 暫く部屋の前で待たされる。テレーザは緊張した面持ちで立ったままだ。
 しかし、実の娘が訪ねてきたって言うのに面倒なことだな。


 昨日教えられたことを思い出す。
 テレーザの父親の名は、アマラウ・シントラ=フラガ・ヴァーレリアス。
 元はテレーザと同じような、強力な魔法を使えるが詠唱が長いタイプの魔法使いだったそうだ。
 魔獣の討伐で大きな傷を負い魔法使いとしては一線から退いて、この領地で静養しながら領地の統治をしているらしい。


 暫く所在ない感じで待っていると、ドアが開いて黒い礼装に身を包んだ男が出てきた。
 黒髪で痩せた感じの、俺と同じくらいの年の男だ。


 鷹を思わせる感じで目つきが鋭く、引き締まった顔立ちだ。
 腰には短剣を挿している。なんとなく戦士っぽい雰囲気だな。護衛でも兼ねているんだろうか。
 そいつが俺を一瞥すると、テレーザに頭を下げた。


「旦那様がお会いになります。お入り下さい」





 部屋はちょっとした酒場の広間くらいの大きな部屋だった。
 大きなガラス窓から明るい光が差し込んできていて、その向こうには緑の庭園と湖が見える。


 紋章入りのタペストリーが壁に掛けられていて、壁際には豪勢な暖炉や本棚が据え付けられている。
 白い壁紙にも金の文様があしらわれていた。


 綺麗に飾られたソファやテーブルも置かれていて、なんというかいかにも貴族の部屋って感じだ。
 叙勲のときの王宮の控室より立派だぞ。


 部屋の中央にはこれまた豪華な天蓋付きのベッドが置いてあって、さっきの男がベッドの脇に控えるように立った。
 ベッドには1人の男が上半身だけを起こした状態で横になっている。
 この人がテレーザの父親か。


 銀色の髪と涼やかな感じの切れ長の目はテレーザの面影はある。テレーザと同じように片眼鏡モノクルをかけていた。
 少し長く伸ばした銀色の髪はところどころ抜けていて、眼鏡をしている片目にも輝きが無い。


 顔も不健康に痩せた感じで、顔色が悪い。
 ローブのような白い服から覗く左手は皺が寄っていて老人の様に干からびていた。


 なんとなく感じる魔力も乱れがある。
 もとは強力な魔法使いだったらしいが……今はもう魔法使いとしては戦えないだろうな、という気がした。
 執事の男が何かアマラウさんに耳打ちして、彼が頷く。


「久しいな。テレーザ」


 しわがれた、弱弱しい感じだ。


「お久しぶりです。父上。お会いできて嬉しいです」


 テレーザが緊張した面持ちで頭を下げる。俺もそれにあわせて頭を下げた。
 しかし、親子の対面って言うのにしては偉く堅苦しい感じだ。貴族ってのはこんなもんなのか。


「良く戦っているようだな。聞いているぞ」
「はい、ありがとうございます、父上」


 嬉しそうな感じでテレーザが返す。


「そちらは?」
「はい。騎士ライエル・ピレニーズ・オルランド公です。私と共に対魔族宮廷魔導士団で戦っています」


 アマラウさんが俺をちらりと見た。
 とりあえず会釈する。


「先日の討伐では素晴らしい手柄を立てて、私も彼も宰相閣下からお褒めの言葉を頂きました」


 そういうと、執事らしき男がアマラウさんにまた耳打ちして、アマラウさんが俺をじろりと見た。


「ふむ……だが、騎士と言っても、家格のある家のものではない。なんでも冒険者上りとか」


 冷たい口調でアマラウさんが言って、テレーザが息を呑んだ。





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