風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~
新生活の始まり
「ねえ、おじさん。新しいおうち、まだ?」
「もうすぐだ」
馬車の窓越しに流れる景色を見ながらメイが聞いてくる。
俺もまだこの辺はよくわからんが、見覚えのある街並みだからそろそろつくだろう。
オードリーはテレーザと何か話している。
暫くして馬車が止まった。
二階建てでそこそこの広い中庭があるオレンジ色のレンガ造りの建物。
まだ今一つ見慣れないが、新しい我が家ってことになる。
騎士叙勲が正式に認められて、ヴァルメーロの貴族の街区の近くに小さな庭付きの屋敷がもらえた。
簡素だが、個人的にはテレーザの屋敷の様な豪勢なのはどうも合わないからこれくらいでいい。
引き渡される前にきちんと掃除がされていて、一通りの家具も揃っているから助かった。
「さあ、ここだ」
馬車の扉を開けるとオードリーとメイが待ちかねたように飛び出していった。
開いたままの門を抜けてそのまま家の中に駆け込んでいく。
しかし、我が家か。
冒険者になる前は商人である親と暮らしていたが、その後は冒険者の宿で生活していた。
自分の家で暮らすのはその時以来だ。
正確に言えばその時も貸家住まいだったわけだから自分の家と言うのは初めてかもしれない。
なってみて初めて分かったのだが、騎士は国から俸禄を得て戦う貴族階級らしい。
領土を持つのは騎士より上の貴族なのだそうだ。だからテレーザの家は領土を持っている。
正直言うと領土の運営なんて礼法以上にまったくできる気がしないのでこちらとしては助かった。
「凄いね、広いよ!」
「お部屋がいっぱいある!」
「私はこの部屋使っていいかな。庭が良く見えるよ」
「ずるーい、お姉ちゃん、あたしもここがいいの」
パタパタと走り回る足音とにぎやかな声が中から聞こえて来た。
しかし。
「改めて考えてみると、この家をどうやって維持するんだろうな」
今まで冒険者の宿で暮らしていたから、食事は酒場で出たし洗濯とかの雑事や部屋の掃除は全部宿にお任せだった。
俺がしていたのは武器の手入れと金の管理位だ。
この辺の雑務は細かいところまで冒険者ギルドのサービスが行き届いていて助かっていたが、今後はそう言うわけにはいかない。
「メイドを雇うのが良いだろうな」
「メイドさんね」
テレーザが教えてくれる。
そう言えばテレーザの家にもメイドさんとかそういう人がいたな。
「うむ」
「なるほど」
と、分かったかのように言ってみたものの、そんなものをどこで雇えばいいのか見当もつかんぞ。
メイドギルドとかがあったりするんだろうか。
「恐らくこの家の大きさなら一人で事足りるだろう。あまり若い者は良くないな。年配の経験を積んだものが望ましい。
私が信用できるものを紹介してやろう、安心しろ」
テレーザが言う。
まあどうやって探せばいいのか、給金をいくら払えばいいのか、そんなもの考えたこともないから紹介してくれるなら助かるな。
一仕切り家の中の探検を終えたらしいオードリーとメイが戻ってきた。
「屋根裏があるんだよ、すごいね」
「一杯お部屋があったよ」
二人が口々に言う。
確かに三人で暮らすには若干広すぎる感じはあるな。
「でも、メイと一緒の部屋がいいな」
「うん、あたしも!」
顔を見合わせて二人が笑う。
「あたしたち、ここに住めるの?」
「本当に?」
「ああ、そうなるな」
「おじさんと一緒に?」
「勿論だ」
そう言うとオードリーとメイが手を取り合って跳ね回った。
なんというか、ようやく姉さんとの約束を果たせた気がする。少しはこれで二人の未来の選択肢も増えると思いたい。
オードリーがテレーザの方を見た。
「お姉さんは?」
「テレーザは自分の屋敷があるからな」
そういうと二人がまた顔を見合わせた。
「ねえ、叔父さん。ケッコンしないの?」
「ケッコンすれば一緒に住めるんでしょ」
思わず噴き出しそうになった。
多分この二人は意味が分かってないな。
「そうだな……まだ私とライエルの間には身分の差がある。それが現実だ」
テレーザが冷静な口調で言う。
「身分ってなに?」
「メイにはまだ難しいな
……だがライエルが素晴らしい手柄を立てて……例えば王様に認められたりすれば分からない」
「じゃあ、おじさん、頑張ってね!」
テレーザが普段の口調で説明して何か言いたげにこっちを見た。
メイが無邪気な口調で言う。
……ただ。
騎士の端くれになって初めて身に染みたことがある。
テレーザとは生きてきた環境が違う。そして身分の差というのは厳然と存在する。
冒険者の格言に、討伐で心に火が燃えたなら、街に戻る前に一度灰を掛けよ、というのがある。
討伐で背中を預け合って戦うことはとても強い結びつきを生む。時に、それが運命の相手だと思い込んでしまうほどに。
実際に冒険者同士が恋仲になったり結婚することも珍しくはない。俺の姉さんもそうだった。
だが、それは戦場という特殊な環境が生む気持ちでもある。
幸せに続くことも多いが、案外簡単に壊れてしまうことも多い。そしてそれが原因でパーティの結束が乱れたりすることは珍しくない。
それを戒めた言葉だ。
こいつのために戦うことに迷いはない。
だが。この関係をどうすればいいのか。この小さな棘のような気持ちをどうするべきだろうか。
真剣に考えなくてはいけない気がする。
「もうすぐだ」
馬車の窓越しに流れる景色を見ながらメイが聞いてくる。
俺もまだこの辺はよくわからんが、見覚えのある街並みだからそろそろつくだろう。
オードリーはテレーザと何か話している。
暫くして馬車が止まった。
二階建てでそこそこの広い中庭があるオレンジ色のレンガ造りの建物。
まだ今一つ見慣れないが、新しい我が家ってことになる。
騎士叙勲が正式に認められて、ヴァルメーロの貴族の街区の近くに小さな庭付きの屋敷がもらえた。
簡素だが、個人的にはテレーザの屋敷の様な豪勢なのはどうも合わないからこれくらいでいい。
引き渡される前にきちんと掃除がされていて、一通りの家具も揃っているから助かった。
「さあ、ここだ」
馬車の扉を開けるとオードリーとメイが待ちかねたように飛び出していった。
開いたままの門を抜けてそのまま家の中に駆け込んでいく。
しかし、我が家か。
冒険者になる前は商人である親と暮らしていたが、その後は冒険者の宿で生活していた。
自分の家で暮らすのはその時以来だ。
正確に言えばその時も貸家住まいだったわけだから自分の家と言うのは初めてかもしれない。
なってみて初めて分かったのだが、騎士は国から俸禄を得て戦う貴族階級らしい。
領土を持つのは騎士より上の貴族なのだそうだ。だからテレーザの家は領土を持っている。
正直言うと領土の運営なんて礼法以上にまったくできる気がしないのでこちらとしては助かった。
「凄いね、広いよ!」
「お部屋がいっぱいある!」
「私はこの部屋使っていいかな。庭が良く見えるよ」
「ずるーい、お姉ちゃん、あたしもここがいいの」
パタパタと走り回る足音とにぎやかな声が中から聞こえて来た。
しかし。
「改めて考えてみると、この家をどうやって維持するんだろうな」
今まで冒険者の宿で暮らしていたから、食事は酒場で出たし洗濯とかの雑事や部屋の掃除は全部宿にお任せだった。
俺がしていたのは武器の手入れと金の管理位だ。
この辺の雑務は細かいところまで冒険者ギルドのサービスが行き届いていて助かっていたが、今後はそう言うわけにはいかない。
「メイドを雇うのが良いだろうな」
「メイドさんね」
テレーザが教えてくれる。
そう言えばテレーザの家にもメイドさんとかそういう人がいたな。
「うむ」
「なるほど」
と、分かったかのように言ってみたものの、そんなものをどこで雇えばいいのか見当もつかんぞ。
メイドギルドとかがあったりするんだろうか。
「恐らくこの家の大きさなら一人で事足りるだろう。あまり若い者は良くないな。年配の経験を積んだものが望ましい。
私が信用できるものを紹介してやろう、安心しろ」
テレーザが言う。
まあどうやって探せばいいのか、給金をいくら払えばいいのか、そんなもの考えたこともないから紹介してくれるなら助かるな。
一仕切り家の中の探検を終えたらしいオードリーとメイが戻ってきた。
「屋根裏があるんだよ、すごいね」
「一杯お部屋があったよ」
二人が口々に言う。
確かに三人で暮らすには若干広すぎる感じはあるな。
「でも、メイと一緒の部屋がいいな」
「うん、あたしも!」
顔を見合わせて二人が笑う。
「あたしたち、ここに住めるの?」
「本当に?」
「ああ、そうなるな」
「おじさんと一緒に?」
「勿論だ」
そう言うとオードリーとメイが手を取り合って跳ね回った。
なんというか、ようやく姉さんとの約束を果たせた気がする。少しはこれで二人の未来の選択肢も増えると思いたい。
オードリーがテレーザの方を見た。
「お姉さんは?」
「テレーザは自分の屋敷があるからな」
そういうと二人がまた顔を見合わせた。
「ねえ、叔父さん。ケッコンしないの?」
「ケッコンすれば一緒に住めるんでしょ」
思わず噴き出しそうになった。
多分この二人は意味が分かってないな。
「そうだな……まだ私とライエルの間には身分の差がある。それが現実だ」
テレーザが冷静な口調で言う。
「身分ってなに?」
「メイにはまだ難しいな
……だがライエルが素晴らしい手柄を立てて……例えば王様に認められたりすれば分からない」
「じゃあ、おじさん、頑張ってね!」
テレーザが普段の口調で説明して何か言いたげにこっちを見た。
メイが無邪気な口調で言う。
……ただ。
騎士の端くれになって初めて身に染みたことがある。
テレーザとは生きてきた環境が違う。そして身分の差というのは厳然と存在する。
冒険者の格言に、討伐で心に火が燃えたなら、街に戻る前に一度灰を掛けよ、というのがある。
討伐で背中を預け合って戦うことはとても強い結びつきを生む。時に、それが運命の相手だと思い込んでしまうほどに。
実際に冒険者同士が恋仲になったり結婚することも珍しくはない。俺の姉さんもそうだった。
だが、それは戦場という特殊な環境が生む気持ちでもある。
幸せに続くことも多いが、案外簡単に壊れてしまうことも多い。そしてそれが原因でパーティの結束が乱れたりすることは珍しくない。
それを戒めた言葉だ。
こいつのために戦うことに迷いはない。
だが。この関係をどうすればいいのか。この小さな棘のような気持ちをどうするべきだろうか。
真剣に考えなくてはいけない気がする。
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