風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

戦う者に必要なもの

「立て!マヌエル!何をしている!」
「終わりだな。この程度では魔族相手には捨て駒にもならん」


 フェルナンがヒステリックに叫ぶ。
 アグアリオ団長が芝居がかった感じで肩を竦めた。


「まだだ!マヌエル!戦え!」
「やめろ。あいつが本気になれば今頃あの三人は全員風で切り刻まれている……その程度も分からんのか」


 アグアリオ団長が言う。
 ……まあ手段を択ばずならそう言う事も出来たが。そういうのはあまり気が進まないというのが本音だ。
 冒険者は魔獣と戦うのが本業なわけだしな。


「マヌエルとやら。これがA帯の力だ。お前に戦士としての誇りか、男としての意地か、家名への矜持か……なにかがあるならこれを乗り越えて見せろ」


 項垂れたままのマヌエルにアグアリオ団長が言って、まだ何か怒鳴っているフェルナンの方を見た。


「息子が大事ならばもう少し経験を積ませろ。我が師団への編入は認めん」
「まだ戦えるだろうが!マヌエル!立たんか!」


 フェルナンが耳障りな金切り声で叫ぶ。まあ外野は気楽なもんだよな。


「黙れよ。お前が代わりにやるか?」


 刀を向けて言うとフェルナンが黙った。
 偉そうに戦場の外にいる奴に言われたくない。この場に立たないと戦いの恐ろしさは分からない。


「今後は私達に関わるな、分かったか」
「なんだと、貴様等。私に向かってそんな……」


 取り付く島もない口調でアグアリオ団長が言う。
 フェルナンが言い返そうとしたが、アグアリオ団長が冷たい目でフェルナンを見下ろした。


「なんだ?私に文句があるのか?」


 アグアリオ団長が静かに凄む。緊張感が走って、フェルナンが黙り込んで一歩後ずさった。
 役者が違うというか、格が違うな。 





 フェルナンとマヌエル達はそそくさと帰って行った。 


「見事だ……だが殺すことも容易く出来ただろう?なぜそうしなかった」


 アグアリオ団長が物騒なことを聞いてくるが。


「余計恨みを買いそうでしたからね」


 そう言うと、団長が小さく頷いた。


「賢明だな。力だけではなく知恵も回るか」
「ありがとうございます」


 切り殺すことは多分難しくなかった。
 だがそれはおそらく次のもっと厄介なトラブルを生んだだろうと思う。


「よくやった。これでお前を練成術師だのなんだのと見下す者もいなくなるだろう」


 アグアリオ団長が言う。そう言う意図もあったのか。
 周りで見ている魔法使いというか貴族たちの子弟の雰囲気も少し変わっているのを感じる。
 テレーザが何やら怒った顔でこっちに歩いてきて、アグアリオ団長をまた睨んだ。


「だが、安心するな。いいか。中位以上の魔族を打ち倒すためには強力な火力を持つ魔法が必須だ。この魔法使い、テレーザの火力は我が師団の中核になるだろう。
お前の働きが悪く、こいつを危機にさらすと判断したら私が護衛に回る。お前はお払い箱だ」


 そっけなくアグアリオ団長が言う。
 テレーザが抗議するようにアグアリオ団長を見上げた。団長が小さく笑みを浮かべる。


「だが……信じあうものが戦場で発揮する特別な力も信じている。私も冒険者だからな」


 噛みしめるような口調でアグアリオ団長が言う。
 もしかしたら、この人は魔族と戦ったことが有るのかもしれない。なんとなくそう思った。


「そうならない様に精進しろ」
「……はい」


「後日、団員がそろったら宰相殿にも列席を頂いて全員の顔見世をする。今日は此処で解散だ。総員、下がっていい」


 そう言って団長が歩き去っていった。





 皆がそれぞれ立ち去って行って芝生には俺とテレーザだけが取り残された。
 そこまで強敵ではなかったが……まあ勝てて良かった。
 戦いはいつだって不確定要素がある。絶対はない。


「さあ、行くか?」


 テレーザに声を掛けるが。
 返事が返ってこずに、小さな拳で胸をドンと叩かれた。


「お前は……私がどれだけ………心配したと」


 涙声で言ってテレーザが胸に体を預けてきた。額が胸に当たる。


「ああ、悪いな……でも、お前のくれたこの刀は性能が高いよ……だから負けるつもりはなかった」


 何度かの試合やアステルとの戦いでも分かったんだが、この刀は風の練成術の触媒としての性能がかなり高い。
 今までの術の威力が明らかに増している。


「……それに今後のことを考えれば倒しておいた方が良かっただろ?」
「そういう風に考えていたのならな……次からは……事前に私に書面で伝えろ」


 いや、書面は無理だろ、と軽口を言おうとしたが、それより早くテレーザが俺の胸を叩いた。
 革のジャケット越しに衝撃が胸に伝わる。


「少しは……私の気持ちを考えろ」
「ああ……すまなかったな」


 テレーザが答え代わりの様にもう一度俺の胸を叩いた。
 誰かのために戦うってのは何とも重いもんだな。






 

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