風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

序列8位の実力は

 光る円が俺の周りを舞うように飛んだ。車輪のように砂を舞い上げて転がる。
 速い。狼が獲物の周りを囲むときの動きのようだ。


「風よ!」


 風に押し上げられて体が高跳びするように宙に浮かんだ。同時に光る円が今いたところを横切っていく。
 砂が舞い上がって石畳が抉れた。あの円は刃物みたいなもんだな。


「逃がさねえぜ!」


 アステルが剣を振るように手を動かすと円状の刃がこっちに飛んでくる。
 あの動作で円弧剣を操作しているのか。


「風司の29番【高き天を舞う燕より速く、駆けよ翼】」


 風が体に纏いつく。
 空中を蹴るイメージを描くと体が風の乗って地面すれすれを飛んだ。耳元で風鳴の音がする。
 四方から飛んだ円の形の剣が今いた空間を切り裂く。


 天井近くまで飛んだ円弧剣が鳥のように身を翻した。
 まだ追っかけてくるのか。


「まだまだだぜ!」


 円弧剣が空中でさらに分裂した。サイズが小さくなった円弧剣がジグザグの軌道を描いて降ってくる。
 地面を蹴るイメージで風を操ってそれを躱した。
 円弧剣が地面に突き刺さって石畳の破片が散る。


 円弧剣がまた重なって一つになった。
 アステルが歌劇の指揮者のように手を動かすと、剣がまた周囲を旋回する。


 息をつく間もなく、今度は剣が角度とタイミングをずらしながら次々と飛んでくる。
 最初の二つを風に乗って躱すが、三つ目と四つ目が左右から迫ってきた。


「風司の29番【薙ぐ風よ、聳えよ。嘗て栄えし王城の壁より更に高く】」


 下がりながら風の壁を立てた。一つが逸れて石畳に突っ込む。
 4つ目が風を切り裂いてきた。


「風よ!」


 風を纏わせた刀を立てて払いのける。
 金属音がして手に強い衝撃が走った。吹きとばされそうになるのを風で支える。
 見た目は薄く見えるがオーグルのハンマー並みに重い。


「流石だな!先輩!」


 間髪入れず旋回した円弧剣が袈裟懸けの様に斜めに飛んでくる。
 体を伏せるそのすぐ上を剣が切り裂いていった。剣が空中を舞うように飛んで、また俺の周りを囲むように周り始める。


「どうした?こんなもんなのかA帯は?」


 さっきから次の魔法の詠唱をする気配がない。
 テレーザやローランのように複数の魔法を使いこなすってタイプの魔法使いじゃないらしい。
 この円弧剣を操るだけのタイプ、手数特化の攻撃型の魔法使いか。


 小さくなっても石畳を削っていくのを見る限り、急所に食らえば致命傷になりかねない。
 詠唱の時間も必要ないのなら確かに実践向きだ。


「風よ!」


 気合いを入れて刀を振り下ろす。
 風がうなりを上げて砂が舞い上がった。刃のように風が飛ぶ。


「甘いぜ!」


 アステルが手を交差させるような動作をすると、その周りを二枚の円弧剣が回るように動いた。
 円弧剣が風の刃を防ぐ。防御用に予備を残しているのか。


 詠唱は最初だけ。手数は多く威力もそこそこにある。
 射程距離も普通の武器よりかなり長い。攻防に隙が無い。


 さすがは序列八位だな。実戦での単純な一騎打ちならテレーザより上だろう。
 だが、戦いは正面からの威力比べだけじゃない。


「こんなのはどうだ?風司の59番【地を走れ颯。伏したる砂礫を高く舞わせよ】」


 床に沿って風を強く吹かせる。闘技場の砂が舞い上がって茶色の幕の様に広がる。
 視界を遮るためのものだ。円弧剣の挙動が乱れた。


「風よ!」
「そっちか!」


 もう二つ風を飛ばして、大きく砂を巻き上げた。
 円弧剣が砂煙の方に飛ぶ。が。それは風で巻き上げただけのフェイクだ。
 地面を蹴りつけて飛ぶイメージで風を操る。体が一気に高くまで飛び上がった。


「こっちだ!」


 天井スレスレからアステルを見下した。
 アステルがこっちを見上げてきて、しまったという顔が見える。
 動揺したかのように、円弧剣の動きが止まった。あいつの操作が止まると動かなくなるらしいな。


「風司の19番【西の果ての地平に沈みゆく日に照らされし森に七葉よ舞い散れ。其の葉を彩るは血の如き赤】」


 詠唱が終わると同時に、竜巻のように風が渦を巻いた。風の刃がアステルの周りを取り囲む。
 慌てたように円弧剣を戻すがもう遅い。
 守るように旋回する円弧剣をかいくぐって、風の刃がアステルを捉えた。





「風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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