風使い練成術師、防御重視は時代遅れとパーティ追放(10か月ぶり9度目)される~路頭に迷いかけたけど、最強火力をもつ魔女にスカウトされた。守備が崩壊したと言われてももう遅い。今は最高の相棒がいるので~
知らない駅での待ち合わせ・下
しばらくは駅を見物して、外に出てみる。
駅の建物を出ると広々した広場にになっていた。ちょっと背の高い建物が広場を囲むように建っていて、様々なお店が立ち並んでいる。
路面汽車や辻馬車が並び、沢山の人が行きかっていた。
雑多な匂いと車輪が石畳がこすれ合う音、掛け声と話し声。いかにも活気がある街だ。
アルフェリズも小さな町ではないが、流石は王都だな。
小さな屋台がそこかしこに並んでいて飲み物や軽食を売っている。
いい香りが漂ってきた。昼が少し早かったせいか匂いを嗅ぐと少し腹が減ってきた。
「一つ貰えるか?あとお茶を」
そこらにあった屋台に声を掛ける
「はいよ、少し待ってくれ」
ちょっと太めの屋台のマスターがにこやかに応じてくれた。
パリッと焼かれた薄手の袋のようなパンに緑色の香草のペーストと葉野菜と焼いた鶏肉を詰めていく
「お客さんは冒険者かい?」
「ああ、そうだよ」
御茶を木のカップに注ぎながらマスターが聞いてきた。
カップを受け取って一口飲む。アルフェリズでよく飲んでいるお茶とは香りが違うな。
「腕が立ちそうだが……多分、ヴァルメーロの人じゃないね?」
「わかるもんなのか?」
「この辺ではそんな風に武器を持ち歩く冒険者はあんまりいないからさ。旅の人かなと」
「なるほどな」
ヴァルメーロは比較的魔獣が出にくい場所らしいし、町全体が高い城壁で囲まれている。
町中に突然魔獣が現れる、なんてことは殆どない。
この辺で装備を整えてうろうろする奴はいないかもな
それに、冒険者が多くて歩いていれば冒険者と出くわすアルフェリズと違って、ヴァルメーロはふつうの市民が圧倒的に多い感じだ。
刀を背中に背負った俺はどうも浮いている気がする。
「で、どこから?」
「アルフェリズから」
「へえ、アルフェリズか……最近、あっちで強力な魔族が出たらしいじゃないか。大丈夫だったかい?」
唐突に出てきた言葉に思わずお茶を取り落としそうになった。
「おっ、アンタも戦ったのか?港を埋め尽くすほどのスケルトンの群れだって聞いたぜ。倒しても倒しても崩れなかったとか」
「ああ……まあね」
俺とテレーザがヴェパルと戦っているときにそんなことになっていたのか。
しかし、噂が結構広範囲に回っているもんなんだな。
「ほい、勇敢な冒険者に。おまけしておいたよ」
店主がざらっとした紙に包んだピタパンを渡してくれる。
焼いた肉の香りがふんわりと漂った。袋のようなパンにはぎっしりと肉と野菜が詰め込まれていた。
「ありがとう」
一口かじると、ピタパンの少し硬い薄手の生地と新鮮な葉野菜の歯触りがいい。
しっかり焼いた鶏肉の脂と香草のペーストが混ざってボリュームのある味だ。
美味いな
◆
駅に戻ると、発着所には迎えの人らしい人たちがたむろしていた。
そして、柱の陰に見覚えのある姿があった。テレーザだ。
いつもの魔法使い然としたローブ姿ではなくて、今日は長めのワンピースだ。
トレードマークのような横に浮いている杖もないから、一瞬誰だか分からなかった。
柱の陰に隠れたままなにやらそわそわと線路の方を見たり大時計の方を見たりしている。
珍しく落ち着きがない仕草だな。
暫くして発着所に汽車が入ってきた。
見ていると客がぞろぞろと下りてきて、テレーザが柱の裏に隠れるようにして汽車の様子を伺っている。
汽車からの客が途切れて、テレーザが周りをきょろきょろ見回して駅員に何か聞いているのが見えた。
……ていうか、俺を探しているのか。
サンドイッチの残りを一口で頬張って口を拭う。
「悪い、もう着いている」
声をかけるとテレーザがはじかれたように振り返った
◆
不安げな顔がパッと明るくなって嬉しそうな笑みが浮かぶ。
何か言いかけて、すぐに険悪な顔でテレーザが俺を睨んだ。
「……なぜだ。お前、一等客室にいなかったのか?」
「いや……一つ早いのに乗ってきたんだよ。たまたま駅に行ったら乗れたんだ」
「お前は………来ないかと思っただろうが、馬鹿者」
前と同じように辛辣な口調で言うが……なんとなく雰囲気が変わったな。
前ほど張り詰めた感じが無くなった。
「それに……気づいていたなら、なぜすぐに声を掛けなかった」
「いや……何か隠れてるようだったからさ」
そう言うとテレーザが頬を染めて俯いた。
上目遣いで青い目が俺を睨む。
「見たのか……?」
「ああ……ちょっとだけだ」
今から思うと俺を迎えに来て待っててくれたんだろうなとか、隠れていたのは俺を驚かそうとでもしていたのかとか、そういうことも思うが。
流石にそれを口にするほど俺も空気が読めなくはない。
「早く着きすぎたからさ、そこらで軽く食事をしてたんだよ。ついさっき戻ってきて気づいたんだ」
そういうと、テレーザがあきれたように首を振った。
「いずれせよ、だな。そういう時は先んじて連絡せよ。私をなんだと思っている」
「無茶言うな。どうやって連絡するんだ」
「……風の練成術にそういうのはないのか?あるだろう?」
「なくはないが」
風司の47番は遠くに声を届けたり聞いたりする術だ。
ただ、あれは相手の居る場所がわからないとだめだし、多分汽車のような移動中では俺の位置が変わるから使えない。
第一、遠すぎる。
「無理だ。つーかそんな便利なものは無い。練成術をなんだと思っているんだ」
「いいか、貴族たるものだな、約束を守るというのは大事なのだぞ。私もアルフェリズに行くときに時間通りに来ただろうが」
思い出してみると確かそうだ。
「初めて乗るんだ、まあ許せ」
「今後も街道汽車を使うことになるのだぞ。注意しろ」
頬を膨らますような感じでテレーザが言う。
「分かったよ……ああ、そう言えば……」
「なんだ」
「今日はずいぶん雰囲気違うな」
これ以上責められてもかなわないから強引に話題を変えた。
「冒険者っぽくないぞ」
「……当たり前だ、今日は冒険に出るわけではない」
そう言ってテレーザが俺をじろりとにらむ。
「……他にはないのか?」
「ああ……似合ってるよ」
今日は片眼鏡だけはいつも通りだが、青い長めのワンピースを着て白いケープを羽織っている。
割とよく見かける女の子の服装だが、どちらも繊細な刺繍が入っていて凝った仕立てだ。
銀色の髪を緩く後ろでまとめて服に合わせた青い髪飾りで止めている。
今までは魔法使い風のローブと皮鎧姿しかみてなかったから新鮮だ。
ローブ姿の凛としたたたずまいと違ってお嬢様っぽい。まあ文字通り貴族のお嬢様ではあるんだが。
「それだけか?」
「ああ……綺麗だぞ……どういえばいいか分からんが……悪いな」
まったく、こんな話題は柄じゃないんだが。
テレーザが満足げに頷いた。
「よし。いいか。貴族の礼儀を教えておく。騎士の場合は相手の剣、レディに接するときは相手の衣装をそれとなくほめるのだ。
それがマナーだぞ。覚えておけ」
「そういうもんなのか?……やっぱり堅苦しそうだ」
「すぐ慣れる……さて」
そう言うとテレーザが黙った。ちらちらと周りを見る。
なんとなく俺が何かを言わなければいけない手番なんだろうな、とは思うが……何を言うべきか分からない。
左右に目を走らせる。
汽車から降りてきた身なりのいい騎士らしき男が連れの女性の手を取ってタラップから降ろしてあげてるのが視界の端に映った。
なるほど。
「じゃあ行こうぜ」
そう言って手を出す。テレーザの顔に一瞬嬉しそうな笑みが浮かんでまた元に戻った。
「こういう時はだな、私から手を出すのを待つのだ。覚えておけ」
そう言って手をずいと差し出してくる。
「分かりましたよ、魔術導師様」
軽く手を取ると細くてちょっと冷たい指が掌に触れた。
テレーザが小さく息を吐く
「暑いな……氷菓子を出す店に連れて行ってやろう。オードリーとメイにも教えてやれ。きっと喜ぶぞ」
そう言ってテレーザが一緒に来いと促すように手を引いて歩き出した。
こいつの中では、俺が来ることは既定事項らしい。
……だが、俺を見た時に一瞬だけ浮かんですぐ隠した、あの安心した顔を思いだした。
「そのあとは仕立て屋だ。私をエスコートする以上はそれなりのものを……」
手を握るとテレーザが硬直した。
こっちをおずおずと見る。
「なんだ……突然?」
「ああ……これからもよろしくな、とね」
「ああ……あの、そうだな、ならばやはりそれなりのものを着てだな……」
テレーザがしどろもどろになりながら言う。しかし、こいつは予想外のことが起きると露骨に動揺するな。
もう一度手を握ると一瞬テレーザの指がこわばって、今度は握り返してきた。
「……ありがとう」
テレーザが俺を見て小さく言って、寄り添ってきた。
……必要とされているところでそのために戦う。それも悪くないな。
駅の建物を出ると広々した広場にになっていた。ちょっと背の高い建物が広場を囲むように建っていて、様々なお店が立ち並んでいる。
路面汽車や辻馬車が並び、沢山の人が行きかっていた。
雑多な匂いと車輪が石畳がこすれ合う音、掛け声と話し声。いかにも活気がある街だ。
アルフェリズも小さな町ではないが、流石は王都だな。
小さな屋台がそこかしこに並んでいて飲み物や軽食を売っている。
いい香りが漂ってきた。昼が少し早かったせいか匂いを嗅ぐと少し腹が減ってきた。
「一つ貰えるか?あとお茶を」
そこらにあった屋台に声を掛ける
「はいよ、少し待ってくれ」
ちょっと太めの屋台のマスターがにこやかに応じてくれた。
パリッと焼かれた薄手の袋のようなパンに緑色の香草のペーストと葉野菜と焼いた鶏肉を詰めていく
「お客さんは冒険者かい?」
「ああ、そうだよ」
御茶を木のカップに注ぎながらマスターが聞いてきた。
カップを受け取って一口飲む。アルフェリズでよく飲んでいるお茶とは香りが違うな。
「腕が立ちそうだが……多分、ヴァルメーロの人じゃないね?」
「わかるもんなのか?」
「この辺ではそんな風に武器を持ち歩く冒険者はあんまりいないからさ。旅の人かなと」
「なるほどな」
ヴァルメーロは比較的魔獣が出にくい場所らしいし、町全体が高い城壁で囲まれている。
町中に突然魔獣が現れる、なんてことは殆どない。
この辺で装備を整えてうろうろする奴はいないかもな
それに、冒険者が多くて歩いていれば冒険者と出くわすアルフェリズと違って、ヴァルメーロはふつうの市民が圧倒的に多い感じだ。
刀を背中に背負った俺はどうも浮いている気がする。
「で、どこから?」
「アルフェリズから」
「へえ、アルフェリズか……最近、あっちで強力な魔族が出たらしいじゃないか。大丈夫だったかい?」
唐突に出てきた言葉に思わずお茶を取り落としそうになった。
「おっ、アンタも戦ったのか?港を埋め尽くすほどのスケルトンの群れだって聞いたぜ。倒しても倒しても崩れなかったとか」
「ああ……まあね」
俺とテレーザがヴェパルと戦っているときにそんなことになっていたのか。
しかし、噂が結構広範囲に回っているもんなんだな。
「ほい、勇敢な冒険者に。おまけしておいたよ」
店主がざらっとした紙に包んだピタパンを渡してくれる。
焼いた肉の香りがふんわりと漂った。袋のようなパンにはぎっしりと肉と野菜が詰め込まれていた。
「ありがとう」
一口かじると、ピタパンの少し硬い薄手の生地と新鮮な葉野菜の歯触りがいい。
しっかり焼いた鶏肉の脂と香草のペーストが混ざってボリュームのある味だ。
美味いな
◆
駅に戻ると、発着所には迎えの人らしい人たちがたむろしていた。
そして、柱の陰に見覚えのある姿があった。テレーザだ。
いつもの魔法使い然としたローブ姿ではなくて、今日は長めのワンピースだ。
トレードマークのような横に浮いている杖もないから、一瞬誰だか分からなかった。
柱の陰に隠れたままなにやらそわそわと線路の方を見たり大時計の方を見たりしている。
珍しく落ち着きがない仕草だな。
暫くして発着所に汽車が入ってきた。
見ていると客がぞろぞろと下りてきて、テレーザが柱の裏に隠れるようにして汽車の様子を伺っている。
汽車からの客が途切れて、テレーザが周りをきょろきょろ見回して駅員に何か聞いているのが見えた。
……ていうか、俺を探しているのか。
サンドイッチの残りを一口で頬張って口を拭う。
「悪い、もう着いている」
声をかけるとテレーザがはじかれたように振り返った
◆
不安げな顔がパッと明るくなって嬉しそうな笑みが浮かぶ。
何か言いかけて、すぐに険悪な顔でテレーザが俺を睨んだ。
「……なぜだ。お前、一等客室にいなかったのか?」
「いや……一つ早いのに乗ってきたんだよ。たまたま駅に行ったら乗れたんだ」
「お前は………来ないかと思っただろうが、馬鹿者」
前と同じように辛辣な口調で言うが……なんとなく雰囲気が変わったな。
前ほど張り詰めた感じが無くなった。
「それに……気づいていたなら、なぜすぐに声を掛けなかった」
「いや……何か隠れてるようだったからさ」
そう言うとテレーザが頬を染めて俯いた。
上目遣いで青い目が俺を睨む。
「見たのか……?」
「ああ……ちょっとだけだ」
今から思うと俺を迎えに来て待っててくれたんだろうなとか、隠れていたのは俺を驚かそうとでもしていたのかとか、そういうことも思うが。
流石にそれを口にするほど俺も空気が読めなくはない。
「早く着きすぎたからさ、そこらで軽く食事をしてたんだよ。ついさっき戻ってきて気づいたんだ」
そういうと、テレーザがあきれたように首を振った。
「いずれせよ、だな。そういう時は先んじて連絡せよ。私をなんだと思っている」
「無茶言うな。どうやって連絡するんだ」
「……風の練成術にそういうのはないのか?あるだろう?」
「なくはないが」
風司の47番は遠くに声を届けたり聞いたりする術だ。
ただ、あれは相手の居る場所がわからないとだめだし、多分汽車のような移動中では俺の位置が変わるから使えない。
第一、遠すぎる。
「無理だ。つーかそんな便利なものは無い。練成術をなんだと思っているんだ」
「いいか、貴族たるものだな、約束を守るというのは大事なのだぞ。私もアルフェリズに行くときに時間通りに来ただろうが」
思い出してみると確かそうだ。
「初めて乗るんだ、まあ許せ」
「今後も街道汽車を使うことになるのだぞ。注意しろ」
頬を膨らますような感じでテレーザが言う。
「分かったよ……ああ、そう言えば……」
「なんだ」
「今日はずいぶん雰囲気違うな」
これ以上責められてもかなわないから強引に話題を変えた。
「冒険者っぽくないぞ」
「……当たり前だ、今日は冒険に出るわけではない」
そう言ってテレーザが俺をじろりとにらむ。
「……他にはないのか?」
「ああ……似合ってるよ」
今日は片眼鏡だけはいつも通りだが、青い長めのワンピースを着て白いケープを羽織っている。
割とよく見かける女の子の服装だが、どちらも繊細な刺繍が入っていて凝った仕立てだ。
銀色の髪を緩く後ろでまとめて服に合わせた青い髪飾りで止めている。
今までは魔法使い風のローブと皮鎧姿しかみてなかったから新鮮だ。
ローブ姿の凛としたたたずまいと違ってお嬢様っぽい。まあ文字通り貴族のお嬢様ではあるんだが。
「それだけか?」
「ああ……綺麗だぞ……どういえばいいか分からんが……悪いな」
まったく、こんな話題は柄じゃないんだが。
テレーザが満足げに頷いた。
「よし。いいか。貴族の礼儀を教えておく。騎士の場合は相手の剣、レディに接するときは相手の衣装をそれとなくほめるのだ。
それがマナーだぞ。覚えておけ」
「そういうもんなのか?……やっぱり堅苦しそうだ」
「すぐ慣れる……さて」
そう言うとテレーザが黙った。ちらちらと周りを見る。
なんとなく俺が何かを言わなければいけない手番なんだろうな、とは思うが……何を言うべきか分からない。
左右に目を走らせる。
汽車から降りてきた身なりのいい騎士らしき男が連れの女性の手を取ってタラップから降ろしてあげてるのが視界の端に映った。
なるほど。
「じゃあ行こうぜ」
そう言って手を出す。テレーザの顔に一瞬嬉しそうな笑みが浮かんでまた元に戻った。
「こういう時はだな、私から手を出すのを待つのだ。覚えておけ」
そう言って手をずいと差し出してくる。
「分かりましたよ、魔術導師様」
軽く手を取ると細くてちょっと冷たい指が掌に触れた。
テレーザが小さく息を吐く
「暑いな……氷菓子を出す店に連れて行ってやろう。オードリーとメイにも教えてやれ。きっと喜ぶぞ」
そう言ってテレーザが一緒に来いと促すように手を引いて歩き出した。
こいつの中では、俺が来ることは既定事項らしい。
……だが、俺を見た時に一瞬だけ浮かんですぐ隠した、あの安心した顔を思いだした。
「そのあとは仕立て屋だ。私をエスコートする以上はそれなりのものを……」
手を握るとテレーザが硬直した。
こっちをおずおずと見る。
「なんだ……突然?」
「ああ……これからもよろしくな、とね」
「ああ……あの、そうだな、ならばやはりそれなりのものを着てだな……」
テレーザがしどろもどろになりながら言う。しかし、こいつは予想外のことが起きると露骨に動揺するな。
もう一度手を握ると一瞬テレーザの指がこわばって、今度は握り返してきた。
「……ありがとう」
テレーザが俺を見て小さく言って、寄り添ってきた。
……必要とされているところでそのために戦う。それも悪くないな。
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