不遇職・ガイドの俺(LV12)がLV98の女騎士と未踏のダンジョンの攻略を目指した結果。

雪野宮竜胆/ユキミヤリンドウ

星空の天幕亭・出会い・下

「は?」


 星見の塔は俺でも聞いたことがある。
 この町、アルフェリズから馬で10日ほど行ったところにある塔型のダンジョンだ。


 ダンジョンはこの世界のあちこちにある、魔獣の巣だ。
 塔の様に高くそびえるものもあるし、地中深くに広がるものもある。
 遺跡のようなものもあれば、自然の洞窟のようなものもある。


 ダンジョンを誰が作ったのかも分からないし、なぜあるのかもわからない。
 神職クラスを持つものを束ねてダンジョンを攻略する教会ギルドもその正体は知らないらしい。


 そして、中には魔獣と、誰が置いたのかもしれない宝箱があり、深奥にはダンジョンマスターと呼ばれるボスモンスターがいる。
 これは構造を問わず共通だ。


 ダンジョンの周りにはダンジョン内の魔獣を倒したあとに出るドロップアイテムを目当てに街ができる。ここ、アルフェリズもそうだ。
 ダンジョンで魔獣を倒し、ドロップアイテムを回収する。
 そのドロップアイテムは、教会ギルドが買い取って、燃料とか装備品とか装飾品として使われる。


 ダンジョンは危険な場所だが、ドロップアイテムは俺たちの生活に欠かすことはできないものだ。
 そしてダンジョンの周りには教会ギルドが出来て、冒険者が集まり、それを目当てに街ができる。
 アルフェリズも馬で半日程度のところに20近いダンジョンがあってそこから得られるドロップアイテムで潤っている


 星見の尖塔は山奥にぽつんと立っている塔型ダンジョンだ。
 街道から離れた場所な上に、一つだけ建っているという地理的条件もあり、50年ほど前に教会ギルドが一時期置かれたようだが、冒険者が集まらず攻略は進まなかった。


 おまけに内部構造が恐ろしく複雑であった、と聞いたことはある。
 ややこしい構造な上に魔獣がさほど多く出ないからドロップアイテムも少ない。
 稼げない面倒な場所に来たがる冒険者は居ない。なのであの塔はそのままで放置されていたはずだ。いわゆる、いわくつき、というやつだ。


「すみません、ところで貴方の名前は?」
「ああ、名乗っていませんでしたね。私はクロエ・ファレン」


 そういうとまた回りがどよめいた。 
 俺でもその名は知っている。


「ステータスを……見せていただいていいですか?」
「失礼なことを言ってはいけません!トリスタン!わきまえなさい!」


 司祭が怒声を発するが、彼女が小さく頷いた。


「信じられませんか?」
「まあ、申し訳ないですが」


「そのくらいはいいでしょう。貴方の名前は?」
「トリスタン。トリスタン・アッシュ」


「では、トリスタンに限定してステータス開示オープン


 見慣れたステータスウインドウが浮かんだ。


クラス・星騎士ステラナイト
レベル・98
称号 ・孤高の討伐者。竜殺し。不死者を断つもの。深層到達×9。
装備 ・震天雷(XR)
   ・近衛の盾(SSR)
   ・傍仕えの魔術人形(SR)
   ・傍仕えの薬師人形(SSR)
   ・時司の甲冑(SSR)
スキル・全系統魔法使用。状態異常無効。瞬間加速。
STR・298
AGI・351
DEX・335
WIZ・310
INT・340
HP ・985
MP ・1987


 ……普通、高いステータスやレア度の高い武器を見ると羨ましいとか思ったりする。
 が、あまりにも格が違い過ぎると、そんな気も起きない。


 XR装備。
 世界におそらく数本しかない、超絶レア武装だ。勿論見たことはない。
 というか普通は国の騎士団長とかのみに使用が許される、国宝級の装備だ。


 そして星騎士ステラナイト
 剣士ソードマンから派生するクラスの最上級職の一つで魔法剣士メイジナイトの上級職。
 攻守のすべての魔法を使いこなす万能型だ。


 物理攻撃力が控えめで火力に難がある、と言われているが、それはあくまで同じ最上級職の中では、という話でしかない。
 それにXRの武器を持っていればその欠点も克服できているだろう
 自分のステータスを改めて見る。


クラス・案内人ガイド
レベル・12
称号 ・5階層到達者
装備 ・鉄の曲刀(N)
   ・守りの外套(R)
スキル・拡張アイテムボックス。地図探索マップサーチ
STR・65
AGI・48
DEX・65
WIZ・70
INT・72
HP ・230
MP ・138


 見ていると悲しくなってきた。
 話にならない。俺が10人で切りかかっても近づくことすらできない。確実だ。50人でも触れるか怪しい。
 今までいろんな冒険者の接してきたが、その中でも圧倒的に強い。化け物だ。


「これで信じましたか」
「ええ、それは勿論」


「では一緒に来てもらいます」
「まってください、騎士殿。私が同行します。私はLV42だ。こんな雑魚よりお役に立ちます」


 トールギルが大声を上げて人垣をかき分けて出てきたが。


「私が必要としているのは彼です。案内人ガイドである彼です。LV40程度では足手まといになるだけです」


 素っ気ない口調でクロエが言って、トールギルががっくりと膝をついた。


「お待ちください、騎士クロエ殿。教義により彼はこの町を離れることは許されていません」


 司祭が口を挟んできた。
 クロエが司祭の方を向いて一礼する。


「LV98の私が言っているのですが……問題ありますか?それにダンジョン攻略が目的です」


 レベルの部分を強調するようにクロエが言う。


 ダンジョンはダンジョンマスターと呼ばれる最深層にいるボスを倒せば消滅する。
 教会ギルドも勿論ダンジョンマスターを討伐しダンジョンを消滅させるべし、と言っている……建前は。


 だが、現実的にダンジョンを攻略することは結構難しい。
 最深層に至るためには大抵は数日の時間を要する。深層に近づけは敵も強くなる。パーティも消耗する。
 だから、かなり周到に準備を整えないといけない。


 そしてダンジョンを攻略するとダンジョンが朽ちてしまう。
 となると、ドロップアイテムも得られなくなるから、教会ギルドは攻略を推奨しているものの、現実的にはそこまで熱心ではないし、冒険者も其処まではやらないことが多い。


 ただ、討伐すれば栄誉と、そのダンジョンのクリア報酬トロフィーが得られる。
 だからそれを目指す人もいる。


 この人レベルになればドロップアイテムで日銭を稼ぐ必要は全くないだろう。となると攻略による名誉とクリア報酬トロフィー狙いだろうか。
 司祭が考え込んで大袈裟に頷いた。


「分かりました。神職クラスを授かりし者の使命は深淵につながるダンジョンを攻略し、闇の使徒を狩ること。その為の助力となるなら、司祭の我が名において認めます」


 仰々しい口調で司祭が言うが。
 今回のケース、星見の尖塔はドロップアイテム稼ぎの場にはなっていない。
 つまり討伐しても誰も損はしないからなんだろう。


「他に仲間を募らないのですか?」
「二人で行きます」


 孤高の討伐者の称号は単独でダンジョンマスターを討伐してダンジョンを攻略したものにのみ与えられる称号だ。
 クロエ・ファレンは決まったパーティを持たない、というのは聞いたことがあったが、本当なのか。


「町を離れるとはいえ、教義に従い、トリスタンよ。星騎士ステラナイト、クロエ殿に従い案内人ガイドとしての役割を果たすこと。これは聖令である」
「承りました」


 教会ギルドの礼儀に従って胸に手を当てて頭を下げた。
 LV98の星騎士ステラナイトに同行して、未踏のダンジョンを攻略する。一時間前にはこんなことになるとは思ってもみなかった。
 これが少し俺の世界を変えられるきっかけになるだろうか。





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