元豚王子VS悪役令嬢

黒月白華

フェリクスの地味で普通の恋愛

私…フェリクス・フーデマンは伯爵家の嫡男として育てられた。
一応爪を鋭利に伸ばして魔物を狩れる能力を持ち得ており、幼い頃からそれを活かし狩をすることもある。

王子付きの従者は家系で昔からだ。
私の父も国王アルトゥル様の従者だしそれなりにマナーも学び常に主人に従える勉強をした。

そして私はあの豚王子付きの従者となる。
正直同い年くらいなのに性格も甘やかされて悪く、お菓子を大公爵様からバンバン贈られてきて毎日菓子を食べないことがなかった。
使用人たちの間でも殿下の評判は最悪だったし弟のユリウス王子の方が余程しっかりしていてジークヴァルト殿下の代わりに街の視察や病院に子供達に見舞い品などを持っていくくらいだ。

私はこの頃の殿下を好きではなくただ命令に従いお菓子の包紙を片っ端から開けていた。

「フェリクス!紅茶を持ってまいれ!甘ーい砂糖どっぷり入れとけ!」
と紅茶を取りに行かされため息。あんなのが王太子…。いずれこの国終わるな。

しかも先日婚約者にパイを投げて決まったクラウディア様は大変怒りを堪えて帰って行った。

それからだらだらと過ごす殿下はクラウディア様をお茶会に誘ったのも忘れて菓子を食べながら寝入り起きてこない。無理に起こすと殴られたりするから起こさないでいたのだが…、痺れを切らしたクラウディア様がとうとうキレて殿下の部屋に乱入すると殿下はボーッとしながらもクラウディア様を見て少し頰を染めた。

ん??

何か殿下の様子変じゃないか?
と気付いたらやはり変で喋り方もこれまでと違うし誰だとか何とか言ってるし、記憶がないとか言い出し、医者も呼ぶ羽目になりそこからジークヴァルト殿下は嘘みたいに心変わりなされて日夜問わずあんなに好きだったお菓子を全部寄付とかして痩せる努力を始めて物凄い端正な顔と女性が好む顔になり、使用人たちの好感度が上がりまくり、奇跡の力やクラウディア様ともいい感じになった。

これこそ奇跡じゃないか?とさえ思う。この主人に仕えて初めて良かったとさえ思った。クラウディア様と仲良く照れたりする姿は見ていて微笑ましくあった。

そんな頃…私は普通にお見合いしないかと父から紹介状を貰った。相手も伯爵家の娘で次女であり普通の令嬢、家格も気にしなくていいしお手軽な感じだ。相手が嫌そうなら私はすぐにでも破談にしてもいいとさえ思った。特に恋人もいないし、相手にもし想い人がいたら私は邪魔しないで譲る気だった。この国はコンチャーン様がいて恋愛史上主義だ。恋愛結婚させてあげる方が幸せだろう。

そう思って殿下には内緒で見合いすることにした。破談になるかもしれないし言ったところでねー…。それに殿下達の仲を邪魔したくないし余計な気を使われるのも不要だった。


私が見合いの席でドーリス・ビュヒナー嬢を待っていると馬車が到着して地味に普通の娘が侍女と共に降りて来た。
顔を合わせて第一印象はやっぱり普通だな…だった。相手もそう思ったかもな。

「本日はよろしくお願いします、フェリクス・フーデマン様」
と淑女の礼をされた。礼儀も普通だ。

「こちらこそ…特に秀でるものは無く申し訳ありませんがよろしくお願いします、ビュヒナー嬢」
と呼んでおく。名前呼びなんか破談になると恥ずかしいからな。

ビュヒナー嬢はキョロキョロしていたが特に我が家は何もないしな…。と思っていたら普通の飾ってあるうちの領地の風景画を見て褒め始めた。普通に。

「フーデマン様の領地ですか?どのような名産があるのでしょうか?」
と聞く。

「特に名産と言うものでもありませんが紅茶ですかねうちは…」
とつまらない返事を返すと

「そうですか…。うちは一応砂糖ですわ…お菓子の原料にも使われるのでそれなりです」
と返された。茶髪で淡い緑の目の彼女は本当に普通だった。私も灰色で黒目で全然地味に普通だ。うーん、特に好きでもなければ嫌いでもない。胸も普通だ。大きくも無く小さくも無く。

「少し庭でも散歩しますか?花はありませんけど」
戦争でうちも花はない。ヘルマにボコボコにやられてしまい、復興してきたとはいえまだ国は貧乏だったからな。

「はい…では参りましょうか」
と後ろを少しついてくる。うーん、これといって話題ないな、彼女これ楽しいのかな?全然面白くない庭を歩きながら趣味でも聞いとくかと思って聞いたら

「お菓子作りです、一通りのお菓子は作れます」
と普通に返された。

「おおっ、それは凄いですね?一通りとは」

「はぁ、まあ普通に砂糖もあるし、気分に合わせておやつを作って使用人達とお茶しますね。作り過ぎるんで。後は普通に読書や刺繍します」

「そうですか…」
彼女もこの様子からしてこの見合い乗り気ではないのかも?早々に断った方がいいかもなぁ。

「あの…ビュヒナー嬢はもしかして好きな方がいるのでは?でしたら私など無視してお断りしてもいいのですよ」
と言うとビュヒナー嬢は

「いえ、私そういった方はこれまでおりませんでしたから特に結婚に関しては普通に紹介されたお家でするのだと…。もしフーデマン様に好きな方がいたら断れてもいいと思って参りましたし…」
と普通に返ってきた。つまり私と同じだと。
うーん。どうしよ。好きでもないし、嫌いでもないし普通である場合どすればいいんだ?
しかし今日会ったばかりだしな。

「それでは…ビュヒナー嬢…とりあえずお付き合いというか婚約者候補としておきませんか?お互いに好きな方がもしやこの先出来た時に正式にしておくと後で揉めるかもしれませんし、家のこともありますし両親に心配はかけないよう私がお休みの時にでも都合が良ければ連絡しますので」

「ああ…はい…判りました。それでよろしいのならこちらも気が楽です。好きなお菓子があれば次に持っていきますが?」
と聞かれ別に菓子好きじゃないけど

「ではあまり甘くないやつでしたらなんでもいいです」
と答えた。それから…休みで暇な時に私たちは会ってお茶する仲になる。もはやお茶友達みたいな感じ。王子とクラウディア様の話とかしたり、彼女はこの小説が面白かったからと貸してくれててっきり恋愛小説かと思うとホラーな小説だったり、ジャンルにこだわっていない。

たまにチェスをすると勝負がつかないこともある。友達とはいいもんだな。と思い始める。そこで…休みの日にまた彼女を待ってると…連絡が来て落石があり彼女が途中で怪我をして最寄りの村で手当てを受けたと連絡があり私は馬を走らせて行った!

落石現場もついでに調査させるために兵団を引き連れていった。

普通に落石事故で馬車は直撃は免れたが馬車から放り出されて彼女は怪我をしたらしい。
村に寄り様子を見に顔を出す。
村長の部屋の扉を叩くと侍女が戸を開けた。侍女は頭に包帯を巻いていた。あんたも大丈夫か?と思った。

そこでベッドで寝ている彼女を見た。お菓子のバスケットを握りしめてうなされて寝ていた。足は骨折していると聞かされた。殿下に言えば一発で治るが何かその後からかわれるし、彼女のことも知られるのが嫌だったから黙っとくことにした。

「お菓子を離さないのです…お嬢様…フーデマン様とのお茶会…楽しみにしてらっしゃったので」

「た、楽しみに…ですか」
普通に喋っていただけのあの時間を楽しみに…。
彼女はうわ言で

「フーデマン様…にお菓子持って喋る……お菓子死守!!」
と言っていた。

侍女は部屋から出て私は椅子に腰掛けて彼女が目覚めるのを待った。夕方になりようやく目覚めた彼女は私がいるのに少し動揺したが状況を瞬時に把握してなんと

「あ、お菓子は無事ですよ」
とニコリとそれを差し出した!!

「貴方…足を骨折してますよ?全治3ヶ月です」

「えっ…3ヶ月……そうですか…ではもう会えませんよね…」
と言うので私は

「私が会いにいきますよ…ドーリスさん!こっ、婚約しましょう!!」
気付いたらそう告げていて自分に普通に驚きそれから照れた。

「はい、ではお受けいたします。私フェリクス様の婚約者になります!……ありがとうございました」
と彼女は普通に可愛く笑い私たちは以来普通の付き合いを開始して殿下達には気付かれること一切なく普通に惹かれ合い愛を育み殿下達が結婚したすぐ後くらいに結婚した。流石に結婚すると殿下に言ったら驚いて

「言えよ!!」
とか言われたが、いや殿下達色々あったし言わなくてもいいでしょ。


数年後にこれまた普通に可愛い男の子が生まれてジークヴァルト陛下の息子と歳も同じだし従者として育てることにした。名前はザシャ。

灰色髪の黒目で私によく似ている。普通に。
ザシャはヴィル様に仕えることになり幼い頃から2人は友達のようだ。たまにザシャは家に帰ると

「お父様…お母様…ヴィルフリート王子…あれ実は天才だし大変面白いですよ」
と言った。親子揃って王子の観察は面白いらしいと感じた。ドーリスは

「なるほどー…それはいいですね!新しいお話が思いつきそうですわ」
とメモを取った。妻のドーリスは密かに執筆活動をしていて何というか結構売れている物語の本を書いている。ネタはもちろん王子とかだということは秘密だ。

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