元豚王子VS悪役令嬢

黒月白華

第44話 美少年の誘惑

リヒャルト王子との応対を済ませて見送った後、次の客人である…いつか助けた奴隷の美少年の所に行った。

美少年はラルフ・ベーテルと言う。戦争で子を亡くしたベーテル伯爵夫婦に養子として貰われたのだと言う。奴隷から一気にいい暮らしになり、ラルフはとても感謝していると聞いた。

俺が部屋に入るとラルフがちょこんと礼儀正しく座って待っていた。

「あああっ…でで殿下!!ジークヴァルト殿下!!」
めちゃくちゃ緊張してるな…そりゃ、あの日の俺は庶民に変装してたしなぁ…。まさか王子とは思ってなかったろうな。

「やあ、ラルフだったか?元気かな?いい伯爵夫妻に貰われて良かったな?」

「はいっ!はいっ!助けていただいた上にあんなっ素敵な両親ができて!!殿下のおかげでとても僕あの…嬉しくてっ!そ…それに!あの夜…光の夜!僕の身体についていた傷が綺麗さっぱり消えてしまってあの!あのあの!」
彼は元奴隷であり、まだ喋り方も覚束ない。

「お、おいちょっと落ち着け?紅茶でも飲んでほら」
フェリクスが紅茶を継ぎ足した。

「ひっ!ありありがががが!」
上がってんなぁ…。王宮に来たのも初めてだろうし。初めはベーテル伯爵からラルフがお礼の挨拶に是非行きたいみたいな手紙を貰ったので王家から迎えを出して招いたのが今日であった。

「おいフェリクス…こいつ緊張しまくってるから俺が話を聞くしお前は外で待ってていいよ?お前いると話し辛いだろ?」
とりあえずフェリクスの重圧感だけでも無くしとくかと俺はフェリクスを追い出した。

「殿下!!ああありがとうございますっ!ずっとお礼に来たくて!王宮なんて入るのとても緊張して!!両親が用事で挨拶に来れなくてすすすみません!でもやっとお礼に来れて!」
ブワッとラルフは目を押さえて泣き始めた!

「おい大丈夫か?お礼なんていいよ。ていうか奴隷制度も無くしていきたいわ…ラルフみたいな子はまだたくさんいるだろうしな」
街で見た乞食と呼ばれる子供…その子たちやラルフ達奴隷は皆戦争が生み出した孤児と同じだ。その設備がまだ整っていないのかと俺は思っていた。

「孤児院の数が足りないんだろうな…アルデン国からの支援もあるしそれに当ててもいいかもな」

「あああっ!殿下!何と素晴らしい!!」
ラルフはキラキラした翡翠の瞳で俺を見た。髪の毛は薄い茶色で出会った時はボサボサだったが彼はとてもきちんと綺麗にさせられていたのでさらに美少年度が上がっていた!

「殿下!僕はまだとても働けないのでせめて殿下にお礼をしたいです!」

「いやだからいいってお礼は…」
しかしラルフは立ち上がるとシャツのボタンを外し始めた。

ん?何してんのこいつ?

「ぼ…僕…殿下やあの女の方にご奉仕のお礼をと参りました!!」

一瞬思考が停止した。

は?

「おい…やめろ…奉仕ってあのな…お前何言ってんの?」
ジリジリ美少年が距離を詰めて来るので俺は後退りながら聞いた。

「お前…奴隷はもう終わったんだぞ?そんなことしなくていいんだぞ?」
嫌な汗が伝う。俺にはそんな趣味ない!

「しかし…今までこれしか生きる術はなく!殿下に喜んで貰えるならこの身を捧げましょう!」
とラルフが真っ赤になり妙な色気を出しながら迫る。

「いーやああああ!!!」
俺は顔面蒼白で叫び逃げ出した!
いくら美少年でも絶対嫌だわ!いくら俺が美形の王子で絵になりそうでも嫌だわ!!
そして廊下にいたフェリクスからクラウディアが戻ったと聞いてクラウディアの部屋へ走った!

実はリヒャルト王子と話が終わった頃からクラウディアに預けたペンダントが反応したことがなんか俺に伝わったのだ。どういう原理なのか知らんがただ何かあった!というまるで俺の中にセンサーがあるみたいに解るのだ!

だから実は心配でたまらなかった!



「と言う訳だよ…」
とジークヴァルト様が説明した。
とりあえず美少年のラルフくんには

「貴方はもう奴隷ではないのですからそのような奴隷のするようなことは辞めなさい!お礼には他の方法があることを覚えなさい!貴方は貴族となったのです!勉強して立派に国に貢献するのがお礼です!孤児院建設に尽力できるよう勉強を頑張るのです!」
と言うとラルフくんは

「うううっ!申し訳ありませんでした!!僕大変失礼なことを!!きっと!立派になってみせます!!そしていつか、王や王妃様のストレスの吐口として使ってください!!」

「「いや、何も変わってないからそれ!!」」
と私とジークヴァルト様は突っ込んだ!

「愛人の出張はいつでもどうぞ…」
とラルフ美少年は頭を下げて帰宅した。

「そんなデリバリー愛人サービスはいらんっ!!」
とジークヴァルト様が青ざめながら叫んだ。
ヘンリックとフェリクスさんは爆笑を我慢しつつ部屋から出ていってしまった。部屋の扉を閉めた時点で2人の笑い声が聞こえた。

「あいつら人事だと思いやがって!」

「ジークヴァルト様はてっきり男色の気があるのかと思いましたわ…私は興味ありませんがよく夜会でどこぞの令嬢が集まって顔のいい男性同士との恋人疑惑話で盛り上がっておりましたわ」

「そんな訳ないだろっ!辞めて怖いからっ!…どこの世界でもBL好き女子はいるんだな…」
とげっそりしていた。
ビーエルとは何かしら?やはり前世の世界のお言葉ね。変な言葉を使う時はもはやそちらの言葉と解釈するようにした。

「ふふ…それでジークヴァルト様のお話と言うのは?」

「…ああ…そうだ女神のこととかいろいろあるんだが…その前にすまない…勝手にアルデン国へ行くと決めてしまった!クラウディアも一緒に行くことになるけど…」
と申し訳なさそうに言う。

護衛ならばいつでもお供致しますのに。

「こないだの光りの一夜でこの国から魔物やらが浄化されたよな…それに人々もあの夜病気を起こしていた者とかは元気になったと報告された」

「はい…凄いお力ですわ…まさに奇跡かと…」

「あれはいつでも使えるわけじゃないよ…クラウディアと気持ちの通じたキスをしたからだ!!それが引き金なんだよ!それじゃないとアルデン国を浄化できない」
とジークヴァルト様はこれまでの経緯を説明した。

「で…では!私とジークヴァルト様がアルデン国に行き…キスをしないと…あの奇跡の浄化はできないと?」

「そうみたいだ…女神が言ってたよ。浄化をした国はザスキアの加護を受けることになるからどんどんザスキア信仰を広めろと…それにアルデン国にはドラグーがいるらしい!」

「まぁ!本当ですか?」
神獣ドラグーがアルデン国に…。

「うん、リヒャルト王子から聞いた。クラウディアに相談も無しに決めてごめんよ…嫌なら断ってドラグーに相談するという手も考えたが…」
アルデン国がそんな事態になっていたら王子としては助けたいと思うのは当たり前なのに…。しかも一国を浄化できる力だ…。お優しいジークヴァルト様は放っておけないだろう。

「判りましたわ…。私もアルデン国へお供致しますわ!2人であの国をお救い致しましょう!」
と私は少し赤くなりながら決めた。

「いいの?大丈夫か?」
ジークヴァルト様も少し赤くなり気遣う。

「私でお役にに立てるのなら…ジークヴァルト様に他にお好きな方がいるのなら別でしょうけど…」
するとジークヴァルト様が手を取り

「いない!いない!クラウディア以外いない!クラウディアとしかしない!」
とブンブン首を振りながら言うからやはり照れてしまう…。

…私も貴方以外いませんわ…。

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