彼氏が悪の組織の戦闘員Eなんですが…

黒月白華

第97話 夢の中の少年

「時奈ちゃんて言うんだ…よろしくね?」
同い年くらいの真っ白な髪をした少年が病院のベッドで笑う。

「お部屋間違えてごめんなさい…。お祖母ちゃんを探してたら迷子になっちゃった」

「そう…君のお祖母ちゃんは403号室かな」

「何で知ってるの?」

「さあ、何でだろうね…」

「私…行くね…」.
ドアに手をかけると

「また来てくれる?時奈ちゃん…」
細い目で少年が笑う。その笑顔はあまりにも寂しそうで私はつい

「お祖母ちゃんのお見舞いのついでになら…」
と返すとまた彼は細っそり笑った。


それから…私は何日か少年とたわいもない話をする。でもある日、少年は忽然と姿を消した。



暗い部屋で僕…私…俺が目を覚ました。
僕の中には自分含め三人の人格が存在する。

カタリと小さな受け入れ口から本日の食事が届けられた。

「けっ!またかよ!クソまずいスープにゆで卵におにぎり…にサラダ。ゆで卵は固茹でにしろっていつも言ってんだろうが!!殻剥くの大変なんだよ!!」
僕の人格の一つ乱暴な桐谷がドアをガンと蹴った。

「やめなよ…桐谷くん…物に当たるだなんて…僕は半熟派です」
と僕が答えると

「私は…目玉焼きがいいな…ハムエッグ最高かな?かな?」
と僕の人格の一つの女性の葉月が嬉しそうに答える。

「固茹でだって言ってんだろうがあ!!てめーら!ぶっ殺すぞ?」

「辞めなよ…殺さない。全部僕だもん。今日は半熟派の僕の日なんだよ。明日はきっとハムエッグだよ。葉月の日。明後日が固茹での日」

「けっ!相馬くんは律儀なこって!玉子日記でもつけてんのかよ、てめーは!」

「ふふっ!何か可愛いわねそれ!あ!今度本当に作る?ノートもらって、可愛くデコってみるの!」
桐谷と葉月が交互に喋る。

「もう玉子の話はいいよ…今日は僕の日だよ…君達は眠れ…」

「けっ!!」

「じゃあ、明日は私の日だからねっ!」
と葉月と桐谷は大人しくなった。
この間、僕は一人で部屋の中でブツブツ言い続ける変な人…。いや、三重人格なのだからしょうがないだろう。

10年か。
僕はこんな風に毎日暗い部屋で目を覚ます。
でも一度だけ毒を飲み入院したことがある。その時に髪は黒から全部真っ白になった。まるでお爺さんだな…。

そこで少女に出会った。初めて出会った女の子だ。病室を間違えたその子。
名前は雪見時奈。
普通の女の子だ。
彼女は学校であった事を楽しそうに話すけど、怪我してくることもあった。聞いても笑って誤魔化す。
彼女は僕のことを聞いてきたけど僕も適当に嘘を言っておいた。だって普通の子じゃないもの。この白い髪は闘病でこうなったとか。
学校の友達が手紙を送ってくれたと自分で書いた手紙、葉月や桐谷にも手伝って貰ったものを見せる。人格達は筆跡もバラバラで一見すると区別はつかないだろう。
嘘ばかりつき、僕は彼女から離れて退院してまた暗い部屋に戻された。

「僕が最初で最後の恋をした子は元気かな?」
といつも喋ってて…9年後にテレビで彼女が怪人に襲われたこと、彼氏がいること…時が少し立ち、新悪の組織ケルベロスなんてモノができ、セントユニバース壊滅、栗生院蔵馬自害と立て続けに騒がしくなった。そしてあの子の会見。隣には栗生院吉城と言う彼女のイケメン彼氏がいる。

「……困るね…彼女は僕のだ。彼女はそんな姿だから虐められるんだ。だから僕はこの9年頑張って色々と薬を開発し続けたよ。君がもう泣かないように。怪我をしないように。誰からも認められるように」
まだ蔵馬氏が生きている頃に僕に会いに来たことがある。もちろん僕をガラスを隔てたモルモットのように眺めて会話は電話機から。スマホだっけな。


あれは10才の頃だったな。

「元気か相馬?いや、葉月か桐谷か?」

「相馬で合ってます。今日は僕の日だから安心していいですよ?僕はあなたの…可愛いクローンだから」

「私にはそんな3つの人格などない。それに髪も白くない。お前は失敗作だよ。…だが使える頭だ。悪くない。さっさとその頭で怪物を作り続けろ」

「了解しました…。ところで今日は僕の10才の誕生日です…」

「何か欲しいものがあるのか?お前?」

「貴方が死んだら僕が新しい組織を作ってもいいでしょうか?」

「…俺が死んだらか…金は甥に取られるぞ?」

「はい、でも鈴金氏がいますからね」

「あの変態ジジイか…。まぁ好きにしろ!俺が死ぬのは当分先だ。またたまに様子を見に来てやる。今度はもっと使える怪物を作っておけよ」

「10才の子供に怖いこと言いますね」

「10才か…お前の頭は10才どころじゃないだろう?」

「……僕と言う怪物を生み出したのも貴方でしょう…?」

「ふ…偶然の結果だな。失敗作の方ではマシだっただけだ。さっさと仕事しろ」

「了解致しました」



そんなこともあったけ…。
僕は白衣を羽織り研究室へと続く地下へのボタンを押した。巨大な地下ラボ。

コンクリートで固められた壁の中には沢山の檻が見える。まともな人が見たら卒倒するかもしれない。ここに昔自分もいた。
でも自我を持ち、僕が使えるマシな奴と判断され、僕は檻から出されたし、僕を生み出した親の研究者は僕より頭が悪かったから殺した。
おや、殺せって命令か。

だから僕がここの管理者となり、研究者となり怪物達を生み出し始めた。

僕はただ言うことを聞くだけの蔵馬氏の人形である。栗生院蔵馬の遺伝子を操作され偶然できた人間に似たような何か。

そして僕が人間に一番近かったのは君と出会ったあの時。あの時が永遠に続けばいいのにと願った。

でも…栗生院吉城とやらが奪ってしまった。まぁ僕は外へ出れないし仕方がない。
でも蔵馬氏は死んだし、鈴金氏を好きにできるしもう少しだね。

彼女を奪還したら一緒に暮らすんだ。

研究室に行くと五人の美少女が僕を見てうっとりと待っていた。
元はクソみたいな不細工女だったけどね。

「相馬様!!おはようございます!」
矢萩輝夜というリーダー格の女が前に出た。

「よく僕だって判ったね。ほらご褒美だよ?」
と飴を投げた。

「や!やった!!ありがとうございます!!」
彼女は飴に食いついた。
他の四人も羨ましそうに見ている。

「心配しないでも僕も鬼じゃないしちゃんとあげるよ君達の分も」

「ありがとうございます…」
クールな美少女広瀬七海が応える。

「ネットでの活動もいいみたいだね。獲物もだいぶ獲得できたろう…後は時奈ちゃんさえこちらの手に入れば…」

「奴等も警戒が強いみたいですわ…でも今飼い犬の一人がケルベロスの翡翠に接触中ですの…翡翠はケルベロスの中でも地味でバカですしもうすぐ彼の居場所…ケルベロスの本拠地も判るでしょう…そこに必ず雪見時奈が囲われているはずです」
と七海は言う。

「可哀想に…彼女もまた監禁されているのかな…まぁ僕よりは自由だろうけど…」

「雪見時奈!!何でみんなあれがいいの?」
輝夜がついぼろりと言い、側にいた藤沢千惠美が

「バカ!輝夜!口を慎め!」
とリスみたいに飴を頬張る輝夜の口を抑える。

「むごっ…!」

「バカは輝夜ちゃんだけで充分ですのっ」
と笑う美少女星宮ここみもおかしそうに言う。

「………」
無口な美少女錦戸杏子もいつも通り恥ずかしそうにしている。

「皆…ファンタジーランドでは失敗したけど絶対にチャンスはくるから諦めずに前向きに頑張ろうね?」

「はーい!!ホワイトベル!ファイオーーー!」
と輝夜が一人で掛け声を掛けた。

「あれ?皆?やろうよお!!」
それも虚しく独り言へと変わっていく。

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