美形執事(仮)に監禁されましたが変態で困っています!

黒月白華

第23話 迫真の茶番劇

ハーグストランド伯爵邸の応接間に私と同じ黒髪の翡翠目の弟のフランシスが頓挫していた。

「お久しぶりです…お姉様…一体どういうことでしょうか!?」
と弟は緊張しつつも目の前の面子に冷や汗を流した。
無理もない。隣国の元王女や王国騎士様に美形侯爵様達と並んでいるのだから。
それにしても…

「お父様は?どうしたの?」
と私は聞いたら…フランシスは顔を曇らせて

「お父様はあれからちょっと心身を病んでしまわれ、今は病床に伏せっているから僕が伯爵代理で何とかやってます!」

と言った!何ですって!?お父様が倒れられた!?

「そ、そんな…」

「無理もありません、お父様は純粋にお母様やお姉様を愛していたと言うのに裏切られたのですから!!何をしに戻って来られたのでしょうか!?お姉様!!」
と私を睨むフランシス。

「ご、誤解よ…」
と言うとノアさんが

「失礼ながらフランシスくん…ヴィオラ様は賊に攫われたのです。もし自発的に出ていくのなら書き置きの一つも残すところでしょう…その直ぐ後にお母様が男と駆け落ちしたことで混乱してヴィオラ様も男と…という考えで思考ロックされていたのではないですか?ですから貴方方は彼女を探すこともしなかった…」

と言うとフランシスは初めて目を見開いた。どんだけ私信用されていなかったの?弟にも。

「そうよ!フランシス!わ、私は賊に攫われたの…数ヶ月も閉じ込められて乱暴されて…もうお嫁には行けない身体になった所でこちらのノアさんがアクセル様やエルサ様のお力を借りて国王に捜索要請をかけていただき助けに来ていただいたの!」

と私は大嘘をぶっこいた。

「な…何ですって…だってお姉様は…社交界でもおモテになるからてっきりお見合いが嫌で逃げ出したのだと…」

「彼女は断っていたんでしょう?いくらヴィオラ様が社交界で【黒蝶の月】と言われて男を惑わせる魔性の女とかいう噂が立っていても鵜呑みにしてはいけません!彼女は誠実です!」
とノアさんが言って…ん?
ちょっと待ってよ!?

なんなのその男を惑わせる魔性の女とか言う噂は!!そんなの私知らないわよ!!今知ったんですけど!!

フランシスは途端にしょぼくれた。まぁ今まで探さなかったもんね。

「あー、それで…実は俺も元婚約者とは言え、当時は誤解をしていたんだ。すまない、ヴィオラ嬢。実は俺はノアが君を好きなことを知っていてね。本当は君とノアを見合いの席で会わせたかったんだよ…」
とアクセル様が説明される。これは本当らしい。

「だから今回のことで君が男と逃げたと聞き、なんてふしだらな魔性の女なんだと憤慨して俺は君との婚約はさっさと破棄して隣国の元第四王女のエルサと結婚したんだ……

だが、ノアの方は君の捜索を諦めていなくてね…1人でも探し続けようやくヴィオラ嬢を見つけて賊を打ち倒したそうだよ」

フランシスがノアさんを見て

「貴方が…姉を助けてくれたのですか!?たった1人で?」

「ええ…まあ…私は魔力が高いので数ヶ月時間はかかりましたが何とか居場所を突き止めて賊を倒しました」
と大嘘を言うノアさん。魔力高いのは本当だけど。

「ノアの魔力の高さは私が証明しますわ。これ程の魔力は我が祖国でも欲しい人材でしたが…此度の功績とその実力でこの国の王も重宝しましてね、この件で宮廷魔導師となり、侯爵位を授けられました」
とエルサ様が言う。そして王国騎士団長が証拠の勲章や爵位の証の証書をフランシスに見せた。

「す、凄い…宮廷魔導師なんて…余程の魔力持ちじゃないとなれないのに…」

そしてノアさんは弟をジッとみた。

「それでですね…。ヴィオラ様を私の妻としたいのです…」
と切り出した。
弟はガタンと立ち上がり

「なっ!!姉を!?ばかな!!こんなヤラれまくった姉を貰ってくれるとー!?貴方はなんと慈悲深い!!もしかしてその腹に誰の子とも知らない子が出来ているやも知れないのに!?……いいんですか?貴方程の人ならこんな姉でなくとも…」

おい、弟よ。酷いよ?流石に酷いわよ?

「私は…いつぞやの夜会で彼女をお見かけしてずっと恋焦がれていたのです…許してはいただけないでしょうか?」

フランシスは…

「流石魔性の女だけはありますね、姉は…。こんな美形まで誑かして…」

うおおおい!確かにノアさんは私に惚れてるけど誑かすとか酷くない?向こうからグイグイ来るんですけど?

「もしヴィオラ様を他に嫁に出そうと言うのでしたら私が貰いたいのです。私も侯爵位を貰ったので暮らしには不自由させません。悪い話ではないのでは?」
と言うとフランシスは…

「姉様は…この方をどう思ってるの?会うのは助けた時くらいでしょう?何でいきなり結婚なの?おかしくない?」
と弟は厳しい所をつついた。
アクセル様がそれに汗を垂らしながら

「だから!!ノアはずっとお姉さんが好きだったんだよ?それは解ってくれるよな?そ、それにヴィオラ嬢も助け出してくれたノアに一目惚れしたらしいんだ!!だから2人を認めてやって欲しい!!」
と言った。

「そそそ、そうよ!助けてくれた時凄いカッコ良かったの!!もうバッタバタと敵の頭を潰して足折ったり内臓ぶち撒けたり!この人の奥さんになりたいなー!って思って!!」

と言うと全員引いた。
アクセル様がこっそりと

「何それ…怖いんだけど…もっと普通に言えよ!!」
と言うがノアさんは

「ええ、そうです!もはや許せなかったので何人か殺して賊の頭を捕まえて王国に突き出しましたね。そ、それで私はヴィオラ様に想いを告げて彼女も了承はしてくれたんです!!」

とまた大嘘こいた。

「うーん…姉は少し変わってる所あるし…そう言うことならこちらも侯爵様の意向を無視できませんし…後は父がどう言うかですが…父様は心を閉ざしていて…」

「お父様に会わせて欲しいの…」

「でも…姉様の顔を見たらお母様を思い出すんじゃないかな?お父様はこの家にあるお母様の姿絵を全部燃やしてしまわれた…あの日から」

とフランシスは辛そうに言う。

「そんな…確かに私はお母様に似ている所があるかもしれないけど…」

こうなると逃げた母に腹が立ってくる。
するとのそりと扉から痩せこけた男が顔を出した。

「え!?お…お父様!!?お父様なの!!?」
私はビックリした!!お父様はゲッソリと痩せていた!!でっぷりしたお腹は引っ込み顔もスマートになり、ちょっと頬がこけていた。茶色い髪と優しげなアメジストの目が私を捕らえた。

「…ヴィオラ…か…今の話…全部聞かせて貰ったよ…」
と壁に寄り掛かった。
いや、そんな所でずっと聞いていないで早く入ってきて椅子に座ってよーー!!ずっと廊下で立ってたのおおおお!?

ノアさんがお父様を手伝って椅子に座らせた。

「御当主のグスタフ様ですね?私はノア・リンドブルムです…」
と頭を垂れるノアさん。

「…私は…娘の捜索をしなかった…混乱していたんです…許してくれヴィオラ…辛かったね…賊にヤラれまくるなんて!どんなに辛かったことか!」

うん…それは嘘だけどなんかヤラれまくられたとか言われたくない…。

するとエルサ様は

「ヴィオラはよく耐えました…男達にヤラれまくり変態責めに監禁プレイ…私も話を聞いて同じ女として耐えられなかったわ…。ヴィオラをよく救ってくれましたノア!ノアの紳士な扱いにヴィオラは救われたのです!ヴィオラの夫になれるのはノアだけなのですわ!」
とエルサ様が言う。

だから何か想像の中の私酷い扱いになってるよ!いや茶番劇は解ってるけど!もうちょっとマシな言い方してよ!!

「可哀想にヴィオラ嬢…朝から晩まで男達の相手をさせられてノアが助け出した時は自力で立つこともままならない程だったが…数日のノアの誠実な労りで徐々に心を開いていったんだ…」

おい元婚約者…朝から晩まで女とずっとヤッてきたのはお前だろ!?と言いたくなる。
お父様とフランシスは涙した。

「ヴィオラ!!すまん!!そんな目に合わされていたとは!きっともう誰の子か判らん子を…」

「お姉様…!妊娠なさったらおろしてお腹の子は殺しましょう!!」
と2人は涙を滲ませた。

もはや酷い話になっていき私はすっかり狼狽した。皆の中でどんだけ私悲劇の令嬢と化しているのか!!?
ていうか、処女じゃないけど絶対最初の子はノアさんの子だから嫌よ!殺す訳ないでしょうが!!もし赤ん坊できてもフランシスには抱かせないようにしようと私は思った。隙あれば殺りそうである!!

「ノア様と言いましたか?」
とお父様が痩せた目で見る。

「はい…」

「こんな…他の男に穢されまくった娘でもいいと言うなら貰ってやってくれませんか…」

「勿論です!グスタフ様!ヴィオラ様のことは何があろうととても大切にします…。お腹の子が誰の子であろうと私はヴィオラ様を愛していますから…」

ノアさん…演技クソ上手い!!涙まで見せてるじゃないの!!
お父様は私に向き直ると言った。

「ヴィオラ…お前たちの結婚を許そう…。ただしお前がノアさんを裏切って浮気をしようものなら…私がお前の息の根を止めてやるからね?くれぐれもお母様のようになるんじゃないよ?」
とお父様は優しい目を一瞬鋭い目に変えて私を睨んだ………。ひいいいいい!!

「は…はい…嫌だわ…私はお母様と違って浮気などしませんから!!」

と言う。するとフランシスは

「判らないけど…侯爵様…結婚したら暫くは姉を監禁した方がいいと思うよ?姉には母の血が流れている…信用できない…」
と弟も疑う。
いい加減にしてよ!大体あんたもお母様の血が流れてるっつーの!!フランシス!!

「では結婚祝いは檻と枷と首輪がいるかもしれないな」
とお父様…。

「そうだね、逃げちゃ困るよね…」
とフランシス。
何だこいつら!?こっわ!!病んでる!!
変態より手に負えないんじゃないの!!?

アレクシス様たちは

「変わった家なんだな…ヴィオラ嬢(結婚しなくて良かった)」

「ヴィオラ…檻の中でお茶会はできるかしら?ほほ」
とエルサ様は苦笑いし、王国騎士団長シェル様は気の毒過ぎて目を合わせなかった。

ノアさんはそんな私を見て微笑んでいた。
後でこっそりと

「やはりこのまま閉じ込めておきたい…」
と耳打ちした。



そんなこんなで私とノアさんは周囲に咎められることなくなんとか結婚できることになった…。

ノアさんは侯爵位をもらい、元々父親が持っていた領地を譲り受け、焼け跡に新しい邸を建てて領主になった。今度こそ暗殺者に狙われないよう結界を張ってあるし、罠もいくつも仕掛けてこの家に侵入しようとする哀れな暗殺者達は返り討ちに遭う。

私達は結婚し、私もノアさんの妻としてリンドブルム邸へ住むことになった。
どこもかしこも新築だし、新しく信用のおける使用人も何人か雇った。使用人には中年~年寄りが多い。おかげで新築だが、時折加齢臭が混じっていたりする。

因みに友達には賊にヤラれまくった可哀想な令嬢として私は噂になり、ご祝儀のお祝いが少し豪華なモノを贈ってくれる子が多かった。
完全に同情されている。顔を合わせづらくなった。

なんだかなぁ…と言う気持ちになった。
お父様達は本当に檻とか贈るしやるせない!やるせないわ!!

「折角ですから使いますか?ヴィオラ」
とノアさんが冗談交じりに言う。

「もう監禁は懲り懲りだわ!」
と言うとノアさんは

「そうですね、もう私の腕の中の檻に閉じ込めるので充分ですね!」
と抱きしめる。

「やだ!もう!!ノアさん上手いこと言って!!」
と胸を叩いた拍子に勢い余ってブッと屁をこいてしまった!!

「「……………………」」
訪れる沈黙と臭さと恥ずかしさに何も言えず白目で石になっていると…ノアさんは

「ああ…これがヴィオラのオナラの臭い…素敵です」
とか言ってる!!やめてお願い忘れて!!

「ご主人…信じられないにゃ…」

「臭い…毒ガス」
とミラとシルルは嫌そうな顔をした。

「ふ…ノアさんは私のオナラも大好きな変態だから大丈夫よ!!セーフよ!」

「はい!ヴィオラのオナラも大好きですよ!むしろオナラをするくらい私に気を許している…愛を感じました!」
と言う。
ほらね!妻のオナラの事愛してくれるんだからいいのよ!!

「ああ!ヴィオラ…お尻をもっと嗅いでも?いえ、この臭いを採取できたら」

「やめてよ変態!」
とキッパリ言うとしょぼくれた。



「ただいま!ヴィオラ!!」

「お帰りなさい!ノアさん!!」
いつものように王宮から帰宅したノアさん。
私達はハグしてキスをした。その際にプンと香水の匂いとノアさんの背中にジャムじゃない口紅がべっとりついていた!!

「なっ!!?」

「ん?何ですかこれは?いつの間に!?ち、違いますよヴィオラ!たぶん王宮の廊下でぶつかったメイドか何かのでしょう!たまたまです!」
と慌てた。まぁノアさんが浮気をするとは思えないが腹立つ!
これはその女からの私への挑戦状と見た!
ノアさんは王宮の宮廷魔導師とかになってから容姿もありめちゃくちゃモテているようだ!
無駄に王宮の夜会に出ることも増えて私は常に彼の横をキープしてあるが女達の視線は痛いくらいビシバシ向けられていた。
妻がいようがお構いなしでこうして仕掛けてくる女が後を立たない。

私は屋敷の使用人達に人払いをしてマジックポケットから鞭を出した。

「ノアさん?お仕置きしていいかしら?…そして1週間くらいお仕事を休めばいいわ?」
と笑うとノアさんは恍惚になり四つん這いになった。

「ヴィオラの好きになさってください!!」
と変態がスタンバイした。

「今度は私がノアさんを監禁する番かしらね…」
と呟いたのだった。




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