義弟の赤い糸ならぬ赤い鋼が絶対切れません

黒月白華

第22話 アルフォンス王子とエレオノーラ嬢2

俺はゴロツキ共を金で雇い、念入りな計画と練習をした。

「王子様…本当にやるんですか?」
髭の男が言う。

「そうだ、ああ…本当に彼女に乱暴したらぶっ殺す!いいか?悪魔でも演技だ!彼女は未来の俺の王妃になるんだ!必ずな!」

「えええっ!未来の王妃様ってアマーリア様じゃないのですか?」
とゴロツキ共も驚いた!
そりゃそうだろうな。国民や他国にも子供の頃から婚約者であるアマーリアは既に馴染んでおり、反対する貴族もアマーリアが公爵の娘と言うことであまり手出しされ無かった。つまり国民達からも大賛成されている。それを覆そうと言うのだ。この演技にかかっている。

「違うわ。そっちは今回の計画で破棄する予定だ!だから頑張れと言っている!」

「ああ……そ、そうなんですね?判りやした」

そして稽古も入念にした。

「おい、貴様!そこはこっちの位置に立ってろ!殴りやすいだろ?」

「いや、王子様…殴る力加減とかマジでしてくださいよ?」

「判っている!貴様らも大根演技なんかしてエレオノーラ嬢に気付かれたらぶっ殺すからな!!」

「ひいいい!!」
とゴロツキ共も必死になって迫真の演技練習を続け、ついに計画当日だ!

予め助け出した後の小屋も配備済みだ!!
というか、今日が俺の童貞卒業だ!!
とそっちにも気合いを入れた。
エレオノーラ嬢が死んだ元婚約者とヤッたのかは知らんがもう彼女は俺のもんだ!!
絶対添い遂げてメロメロになってもらう!!

そしてゴロツキ共を集めて円陣を組み、

「皆、今日までよく厳しい練習に耐えた!特にサブ!お前の足は速い。トビ、君は最悪に下品な顔をして迫るのが上手い!シノ…お前はナイフを首に当てる角度が上手くなった!マルコ…お前は俺に殴られて気絶するのが超上手くなったよ!!」
俺の激励の言葉に既に涙ぐみ自分達の上達の変化を感じ取っている。ゴロツキ達は

「俺…これが終わったら真面目に働いて王子が王様になったらいい国だと思われるよう頑張るよ!」

「俺もだ!!なんか人ってこんなに一生懸命になれるもんなんだなって教えられたよ!」

「俺も!なんなら歌劇団の下働きからでも始めようかな…へへ、いつか舞台に上がれたらいいけど…夢見る気持ち思い出されたぜ」

「王子いいい!!頑張ってエレオノーラ様と結ばれてくだせええ!!」

「皆っ!ありがとう!よし!いくぞ!掛け声!えいえいおおおお!」

「「「「「うおおおおおお!!」」」」」

と叫び、エレオノーラ嬢が馬車でちょっとそこまで買い物に…と人気の少ない森を通ったところでゴロツキ達は彼女の馬車を襲撃し始めた!!
エレオノーラ付きの侍女や護衛も一応いたが練習の成果であっさりと気絶し、エレオノーラ嬢は森へと逃げた。

そしてタイミングを見計らい俺は狩に行ってましたという風体で白馬に乗りピンチに駆けつけた風を装った。予め用意しておいた兎とかも袋に入れ吊るしておき、小道具演出もしている。

男がエレオノーラ嬢にのし掛かり首にナイフを当てる演技をしてエレオノーラ嬢は口を塞がれて恐怖で震えていた!凄いぞ!迫真の演技だ!気付かれてはいない!

「やめろ!」
と後ろから男を殴りつけ気絶させる。
男は演技で倒れた。

「あ…アルフォンス…様…ど…して…」
震えながら彼女は俺に抱きついた。
優しく背中を撫でる。

「狩の帰りに何か声がして…来てみたらエレオノーラ嬢が!」
とそこでドヤドヤと残りのゴロツキ達がこちらにやってくる音がしてエレオノーラ嬢はビクっとした。顔は真っ青だ。

「おいおい!その娘をこちらによこしなぁ!!」
と悪い顔のトビが舌を舐めずりながら近付く。
それに俺は剣を抜き演技で奴らをのしていく。時に素手で殴り付けたり。
そして起き上がる奴等から遠のき…

「エレオノーラ嬢!とにかく乗って!」
と馬に乗せて俺は例の小屋に向かった。計画通りだな!とニヤリとしながら。

「あんな所に小屋が!!あそこにとりあえず隠れましょう!!」

「は、はいっ!!」
エレオノーラ嬢をしっかりと抱き込みつつ小屋に着き、馬を馬小屋に止めて隠すようにした。
それから誰もいないの判ってるけどドンドン戸を叩いて

「すみません!!誰かいないか!?ここを開けてほしい!!」
当然声はせず

「どうやら空き家みたいだ。とにかく中に!!」
とさりげなく彼女を入れた。中は埃は少しある程度でベッドだけは少し綺麗にしておいたぜ!!

震える彼女を抱きしめて慰めた。

「もう大丈夫です!俺がいる!!」

「あ…アルフォンス様!!わ…私とても怖かったです!!死ぬかと思って!!死んだらフィランダー様の元へ行けますけど…アルフォンス様のことが頭をよぎり、そしたら助けにいらしてくれて!!うううう!!」
と泣いた。
よしよしと慰めつつ、額にキスして

「ああ…エレオノーラ嬢…俺のことを少しでも考えてくれて嬉しい!!それに俺は君が生きていてほしいよ!俺の隣でいつも笑っていて欲しい!!」

「アルフォンス様…でも…私…いけません…アマーリア様が…」

「彼女との婚約は必ず解消しよう!君との未来を俺は歩みたいのです!」
王子の決め顔だ。
上出来だろ!!エレオノーラ嬢はもはやポーッとして俺を見ている。よしっ!
いい雰囲気だ!俺は彼女を姫抱きにしてベッドへといそいそ運んだ。ドキドキと高鳴る胸を悟られぬよう最後まで完璧王子になろう。

「エレオノーラ嬢…いや…エレオノーラ…愛しています!」
顔中にキスの雨を降らして優しく押し倒した。
頭の中は

(おっぱじめるか!!)
しかなかった。こんな完璧王子が顔を崩さず頭の中はエロいことで一杯だとは世の中の女性は思わないし顔が良くて得した。

「アルフォンス様…あの…でも…私…処女じゃありませんの…ごめんなさい…」
と言われて一瞬ガーンと雷が落ちた。
フィランダー貴様!病人のくせにふざけんなこの野郎死ね!あ、死んでいたか。

「一度だけ…もうすぐ死ぬからと…フィランダー様が頼むから…こんな私は王子に愛してもらう資格など…」
それにメラリときてエレオノーラの口を塞いでキスした。フィランダー…判るよ。俺も男だからな。好きな女と死ぬ前にヤリたかったのか。だがお前はもういない!同情などしてやるか!

「エレオノーラ…フィランダーはもういない!俺が忘れさせよう!」
と俺はエレオノーラと既成事実を作った。初めてだったけど俺は完璧だから頑張ったよな!!みっちり座学で学んでいて良かった!!
そして最高だった!!


結果、エレオノーラは俺と結ばれてアマーリアは

(可哀想にエレオノーラ様騙されて…)という顔をしていたが、俺は満足だ。

アマーリアともどうにか婚約破棄ができた。もちろんエレオノーラのことを悪く思う貴族達は当然いた。アマーリア派の貴族達からやっかみも受けた。その度に俺は彼女を守り、彼女もまた婚約者として王妃教育を真面目に受けている。

弟のシメオンがエレオノーラとお茶してる時に挨拶した。この弟は昔から人の物を取り上げて遊び、直ぐに捨てる歪んだ性格だ。
顔は俺に似て綺麗で髪はサラサラと肩まである。

こいつまさか、俺のエレオノーラに手を出す気かな?

「シメオンちょっと来い」
と言いニコニコと付いてきた弟をエレオノーラの見えない所で首を締め上げた。

「シメオン…エレオノーラだけはダメだからな?」

「く…苦しい!何の話ですか!?」

「お前がよく知ってるだろう?欲張りカラスめ!いいか?エレオノーラを見たら目を潰す。エレオノーラに触ったら手をぶった斬る!最後にそこも斬り落とし死んでもらう」
と俺は笑顔で言った。
流石にシメオンは青ざめて

「あはは…兄上…本気なんですね?」

「ああ!もちろんだとも可愛い弟よ!!今まで兄様がお前の我がままは全部許容してやったよな?婚約者がいる者の恋人を寝取り奪われた婚約者の男は数知れず。第二王子と言う立場を利用してよくやるわ。…ふふふ。しかし俺のエレオノーラに手を出すというならその命無いと思え!」

「わ、わっ…判ったよう!!」
とシメオンは逃げ出した。あれだけ脅せば大丈夫だろう。まぁ矛先がその後アマーリアに行ったことは済まなかったと思う。

「シメオン王子は?」
とエレオノーラが美しい顔をキョトンとしていたから

「用事ができたらしい。エレオノーラは気にせずこの新作のお菓子を食べてくれ。それとも食べさせようか?」
と微笑むと必殺王子スマイルにやられたエレオノーラは豊満な胸を押さえてときめいている。

「エレオノーラ?どうしたの?胸が痛いのか?」
とどさくさに紛れて彼女を支えて胸をさすってやる。

(最高だ!!柔らかい!!いいね!!やはり胸はいい!!)
と頭の中は胸でいっぱいだ。ラファエルは太腿派らしいが俺はやはり胸派だと思う。
胸派の先陣をきってもいい!

「アルフォンス…様…恥ずかしいですわ!こんな所で!私病気ではありませんし」
と抗議する彼女が愛しい。

「そうですか、それは良かった。…でも俺に恋をする病気ならラファエルの薬もいりませんね!」
と決め台詞を言うと痺れたみたいにエレオノーラは赤くなった。

(よし今夜もエレオノーラと決めよう!!)
と心に誓い、完璧王子として彼女に口付けた。

**

身体の弱かった婚約者のフィランダー辺境伯が病気で亡くなり私の心は空っぽになった。
それを埋めてくれたのがアルフォンス様だった。物語に出てくるような完璧な王子様が私などに夢中になられてることに驚くものの、私はフィランダー様のことを忘れて幸せになることにした。

ごめんなさい。フィランダー様。貴方様も大変な麗しいお方でした。

……でも私……昔から美形に弱いんです!!あんな恐ろしいくらい顔のいい王子様に迫られたらイチコロなんです!!彼の周りには光りが溢れキラキラと輝いています。悪漢から助けられた時は物語みたいな場面が起こって思わずドキドキが止まらなかったのです!!
本当にごめんなさい!!私に王妃が務まるかは判りませんが一生懸命頑張りますわ!!

「フィランダー様……どうかお許しください…私の幸せを願ってくださると嬉しいです。もしかしたらもっと早くラファエル様に出会い、薬を提供されていたら結果は違っていたのかもしれませんが…。今の私はもうアルフォンス様と歩んで行くと決めたのです」
とお墓の前で涙すると、墓石に花を置いて私の肩を抱いてめちゃくちゃ美形な横顔で真剣にアルフォンス王子がフィランダー様の墓石に言った。

「フィランダー辺境伯…どうか許してくれ。必ずエレオノーラを幸せにすると約束するよ。そしてこの国の王妃として彼女を王家に迎え入れる!」

「アルフォンス様!!」
やだ!やっぱりカッコいい!!

「エレオノーラ!!愛しているよ!!」
とお墓の前で熱いキスをしてくれるアルフォンス様に完全に私の心はノックアウトされた。

**

フィランダーの墓石の前で思い切り見せつけるように熱烈キスをかます王子の俺です!

ふっ!ざまあみろ!フィランダー!もうエレオノーラは俺のものだ!!お前は黙って指加えて天国から見てな!!けけけっ!

とか思っていたら風がビュッと吹いて木の枝がボコっと頭に直撃した!!

「いてっ!!」

「まぁ!大丈夫ですか?アルフォンス様!?」

「ああ…平気だよ。もう帰ろうか」

「はい!」
と彼女と仲良く手を繋ぎ帰る。チラリと墓石を振り返る。

(なんかすいません。調子に乗りました。呪わないでください)
と心の中で謝っておいた。


          

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