義弟の赤い糸ならぬ赤い鋼が絶対切れません

黒月白華

第11話 義弟の溺愛

アマーリアさんからなんとも不思議な赤い糸の話を聞いた。とても驚いたけど真剣に話すアマーリアさんが嘘をついているとは思えないしお義母さまも同じ能力があるらしい。

代々女の人だけに引き継がれる聖女だか巫女だかの名残の力か知らないけど、女の子を妊娠したら身体が弱くなるなんて…そこだけはいくら神様でももう少しなんとかならないのか?

お義母さまの親戚にも身体の弱い人が多いことは何となく察した。夜会とかでも来るのは旦那さんと未婚の娘さんが多かったし娘さんは人見知りのようにあまり男性と仲良くなろうとはしてなかったように思う。

そりゃ身体が弱くなったり、死の恐れ、短命等もあり得るから当然か。そんなこと前もって知らされていりゃ警戒もするし何だか未来がない。だからお義母さまはアマーリアさんには子供時代はストレスなく過ごしてほしくて今まで黙っていたのだろう。ただ糸が視えるだけならば害はない。それにアマーリアさんの糸はお義母さまにも視えるのだから今まで誰とも繋がってなく、僕に最近繋がり出したから判ってあの馬車内で早めに言ったのだろう。賢明な判断でのタイミングだ。知らなかったら僕も流石に抑えられなかったかもしれない。

それにしてもアマーリアさんが将来的に僕の子…もし女の子を身篭ったら身体が弱くなるなんて!許せないしさせたくない。幸い僕はこの家に来てからアマーリアさんやお義母さまに栄養のある薬草入りのものを渡したり、お薬もちゃんとしていた。お義母さまは最初より本当に元気になられた。余命3ヶ月とも言われていたのが嘘のようだし、お義父さまも僕に感謝したのはこの事を知っていたからか。

アマーリアさんと良い雰囲気になり初めて深いキスをした。子作りは慎重にと言ったばかりだというのに。それでも身体の関係は我慢した僕は偉い。あのまま流されそうになるくらい溶けるような情熱的なキスだ。
アマーリアさんを部屋まで送り、額と口に軽くキスして

「お休み、良い夢を」
と言い、自分の部屋に戻った。
先程までキスしてた自分のソファー。
僕はこれからちゃんとアマーリアさんを大切にしなくてはならない。
薬の知識をもっと身に付けてアマーリアさんもお義母さまも健康にしよう!
僕の大切な人たちは僕が守る!
そう決めた。


お義父さまの毒抜けもようやくできて体調も戻りつつあったので、再び王宮に戻らなくてはならない日が近づいた。

僕はそれからというもの朝食でアマーリアさんの隣にビタっと座り

「姉様…お口を開けてください。あーん」
と朝食や夕食を食べさす。メイド達やお義母様たちもいる中だ。
お義父さまもそれ見て何か言うかな?と思ったが意外にも

「おお、若い頃を思い出すよ。どれ、シルビアお前も口を開けなさい。私が食べさせよう」
とか言ってお義母さまは

「いい歳して恥ずかしいわよ!!」
と焦った。あちらもラブラブではないか。
アマーリアさんも照れているけどおずおず応じて可愛い。僕の糸は今どんなになってるだろうね?

それから薬を作ったりお義父さまの仕事の手伝いが終わるとすぐにアマーリアさんの所に行く。侍女を下がらせて2人でお茶を楽しむ。
もうすぐ王宮に戻るからまた一週間後に会うしかない。婚約期間中だから結婚の準備は少しずつ勧めている。来賓は親戚のみでひっそりすることにしたからあまり派手なことはしない。
義弟との結婚だし。
夜会で噂になるだろうけど覚悟の上だ。
お義父さまも

「私達のことは気にしなくとも良い。お前たちが幸せで私達家族も幸せならいい。それに駆け落ちなんてしなくてもいいし丸く収まる。

ああ、薬のこともあるっちゃあるけど、それ抜きにしても私はお前とアマーリアは本当にお似合いだと思っていたんだ!やはり運命の力は凄いな。お前のことを本当の息子だと思って愛してきたし、娘も君のような男と一緒になれて良かったと思うよ。本当に」

「お義父さま!ありがとうございます!結婚したらきちんとした公爵になります!誰に何を言われたって負けません!」
と僕は誓った。

「あ、子作りは計画的にだぞ、初夜まで我慢してもしその…する時は避妊薬で…」
とボソボソとそっちの話し合いもした。なんてことだ。こんな話まですることになるとは。まぁ仕方ない。事情が事情だから。

そして今日もアマーリアさんのお部屋に来ていた。彼女の部屋はいつも清楚で彼女の温かな陽だまりみたいな匂いがして癒される。

「僕たちの寝室の改装工事の段取りもついた」

「私も来週からウェディングドレスのデザイナーと話しをすることになったの」

「ふううん?それ男?女?」
と言うとアマーリアさんは焦った。あ、僕の糸がヤバくなったかも?だってこんなことで嫉妬してしまうもの。

「女だから!安心して!!」
と言う。怖がらせたかな?僕の赤い糸って執着みたいだし?

「ごめんね?何か今変だった?糸?」

「うん嫉妬するとラファエルの糸トゲトゲになるの」

「面白いね、僕にも視えたらいいのになぁ」
と言いつつ今度はアマーリアさんの頰を撫でた。可愛く赤くなる彼女が愛しい。押し倒して僕のものにしたいけど我慢だ。慎重だ!もし結婚前に早まって妊娠なんてさせたらダメだ!

だから代わりに…

「アマーリアさん…ねぇ…ちょっと甘えていい?僕もう少ししたら王宮にお仕事に戻るでしょ?後何日もない。一緒にいられる時間減っちゃうよ…」

「ええ、もちろんよ…好きなだけ甘えていいけど…」

「けど?」

「子作りはまだダメよ?」
と照れながら言うから可愛い。萌える。

「うん、そうだ、久しぶりに姉様って呼ぼうか?そっちのが興奮する?」

「えっ、ええー?」
ボッと真っ赤になるアマーリアさん。最近2人の時は名前呼びだけど懐かしいのかたまにアマーリアさんは姉様とも呼ばれたがっているんだよね。普段は人のいる所では姉様呼びだと言うのになんか変なプレイみたい。

「じゃあ姉様…膝枕をお願いしてもいいですか?もちろん少しだけ!!膝に負担がかからない程度!!……いや、膝を鍛えるためにもいいのか?」
と言うとプッと笑われた。

「そんなので膝なんて鍛えられないわよ!もう!ラファエルったら!可笑しいわ!いいわよほらどうぞ!」
と膝に導かれ僕はうっとりと憧れの膝枕初を体験した。おお!なんと柔らかな!!ドレスのスカート越しだけどなんと夢のような!!
これは全世界の男の夢とも言えるだろう。
彼女の優しい手が僕の黒髪を撫でた。

「ラファエルの髪は漆黒でいいわね…」

「えっ!?僕の髪?いいの?僕は姉様の髪の方が好きだよ?銀色でキラキラしてとても綺麗じゃないか!僕の色なんてつまらないでしょ?」

「そんなことないわよ、ラファエルっていつも自分に自信ないとこあるわよね?貴方のこの黒髪遠くからでもハッキリしてるから惹きつけられて女の子たちに見られてるの判らない?貴方そこそこモテるんだから気を付けてよ?」

「ああ…姉様が僕に嫉妬してる…なんて嬉しいんだろ…!」
僕は膝枕を堪能しつつアマーリアさんの手を取り手に何度もキスした。
くすぐったそうにしているから身をお越し頰や額髪にもキスする。

「早く結婚してずっと姉様といけないことしてたい…」

「別にもういけないことではないんじゃないかしら?」
何を言ってるの?と言う顔だ。

「うん、姉様と呼び、こんなことするのなんか背徳感があってゾクゾクする。変態みたい?ふふ、姉様…まだ結婚してないし僕といけない恋しましょう…」
とふざけた遊びのような言葉を使うとアマーリアさんは凄く動揺して照れる。
時折小さく

「色っぽい…ぐう…」
とか聞こえたが?

「やだわ、糸が大変なことになってる!!ラファエルったら!凄く興奮してる?」

「それは姉様もでしょう?」
と距離を詰め抱きしめる。

「ラファエルの匂いはいつも薬草と薬の匂いだわ」

「そうだね、いつも何かしら作ってるからね?嫌?」

「嫌なわけないわ、す…好きよ」
はぁっ!アマーリアさんの好きはズルイよ!!
こんなにも僕の心を燃え上がらせる!!

「僕の方が何百倍も好きだよ!アマーリア姉様…」
アマーリアさんにキスをする。どこもかしこも柔らかいけど唇もとても柔らかいから好き。
全部全部僕にしか触れさせない。

「このまま時が止まってしまえばいいけど…そろそろ温室に薬草のお水をやる時間だ。僕がいない間は庭師のベンじいさんに任せてるけど、今日はベンさんに休みを取らせているからね」
と立ち上がるとアマーリアさんが

「私も手伝ってあげるわ!」

「ほんと?嬉しいな!じゃあ行こう」
と手を差し出す。アマーリアさんは照れて

「ええ?使用人皆に見られるわよ?まぁどうせ結婚も決まってるけど…ラファエルはよく恥ずかしくないわね」

「ふふふ、そりゃ、わざとだよ。アマーリアさんは僕のものだってこと皆に見せないとね」

「うっ!!」
とアマーリアさんは少し驚いた。また僕の糸の形が何かに変わったかな?いけない、冷静にならないとね。

僕たちは手を握り薬草園へと向かった。途中で使用人達から挨拶され、アマーリアさんは俯いていたけど、気にせず行く。

薬草園の鍵を開け中へ入る。

「私はあまり来ないけど本当、沢山あるわ。この全部の種類をしってるのね。ラファエル」

「うん、ここにあるものは全部知ってるよ。ほらいつものお義母さまのお薬はこの薬草を使うんだ」
と目の前の薬草を指した。
豊富に植え付けられたそれを見てアマーリアさんは

「将来私もこれにお世話になるのかあ」
と言っているのがなんとなく悲しい。今元気なのに娘ができたら弱ってしまうなんて…。
いや、弱らせない!きっともっと素晴らしい薬を作ろう!!

アマーリアさんを後ろから抱きしめ耳元で囁く。

「きっと僕が合うものを作るから心配しないでね。姉様…」
姉様呼びにまたピクリとしたアマーリアさん。可愛い。
それから2人ですこしだけ広い薬草園の薬草達に手分けして水をやっていった。

しかしその夜悲劇的なことが起きた。



僕が寝ていると侍従のジョルジュが起こしに来た。ドンドンと激しく叩く。

「どうしたのジョルジュさん。何事ですか?」
ジョルジュさんは慌てて

「ああ、坊ちゃん!いえ、次期当主様。大変です!!薬草園が!薬草園が!!何者かによって火が!!現在消火活動を必死にして他の建物には燃え移ってませんが…」
僕は真っ青になった。

「な、な…何だって!?薬草は…!!」
僕は走って薬草園に向かった!ジョルジュさんもついてきた!

そして煌々と燃え盛る薬草園を見て呆然とする!!これは…もはや薬草達は全部燃えてしまうだろう事が一目で判った…。
炎の勢いは強く消火隊や使用人達も手伝いながら必死に火を消している。

「そ…そんな…どうして…」
僕はガクリと膝からクズ折れた。

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