義弟の赤い糸ならぬ赤い鋼が絶対切れません

黒月白華

第2話 王子は義弟にお願いする

「やあ、こんにちはラファエルくん」
にこにことアルフォンス王子に呼び出された僕…ラファエル・フローベルガー。
目の前の金髪蒼眼の完璧王子様が笑みを携えてお茶を勧めた。何故、姉様でなく僕を呼び出した?

「……………」

「君長い前髪だね?切らないのかい?」

「……………」

「実はお姉さんとの婚約を解消しようと考えてる」

ガチャン!!

動揺し過ぎて紅茶のカップを落とした。

「やっと動揺したな」
僕はカップを拾おうとしたが控えていた執事がすすすっと片付けて行ってしまう。

「何故…」

姉様と王子は両想いではないのか?
だから婚約したとばかり。

「俺たちは幼い頃に親同士が勝手に決めた婚約でね。俺としてはお姉さんに恋愛感情は持ったことは一度もない」

何…?ではアマーリア姉様の片想い!?

「正確に言えばお姉さんは一度俺に恋をしていた時期はあったろうけどそれは今はないね。俺たちは完全なる幼馴染という間柄だ。お互いね」

本当だろうか?

「だから姉様と婚約を破棄すると?そんな理由で破棄ができると?」

「おや、そこは嬉しがるところではないのかな?ふふ、私には好きな人が出来てしまってね…元々お姉さんに相談していて協力してもらっている」

「何故そんな話を僕になさるんでしょう?」

「君がお姉さんに惚れているからだろう?」

バキャッ!!

驚いて椅子の脚が折れた。

「……君ちょっと動揺し過ぎだろう?」

何故だ。僕の表情は前髪で遮られ読めないはずだ。

「そういうことで、君が俺を恋敵の対象として見る必要はないくらいだ。むしろ君とは友達になりたいとさえ思っているよ?君って薬を作れるらしいね?」
姉様から聞いたのだろう。僕が魔女の弟子で薬師のように薬を作れることを。

「まさか、その思い人に媚薬でも作れと?そういうバカみたいな依頼はこっそりと貴族には多いんですよ」
と僕は言う。
すると王子は首を振り、

「いやいやそんな卑怯なことをして手に入れるつもりは私には無いよ。私の想い人には昔病気で亡くなった方がいてね、彼女はようやく前を向うとしている。できれば彼女の心が休まる…リラックスできるような薬を作れるだろうか?」

「精神的なお薬と言うわけですね。それなら少量からの方がいいでしょう」
と僕は一応この件は引き受けた。

「ありがとう!!でだ、ラファエルくん!」
な、何だ?いきなり声のトーンが変わった。

「何でしょう?」

「君…王宮で薬師として働かないかな?王宮にはいろいろな薬草を管理している。この間1人辞めてね…。まぁ、俺の命を狙う間者で毒草を育てていたやつなんだ」

「……その人の後釜?」

「ああ、嫌だろうか?アマーリアの義弟なら信用に足りると思ったのだが…私の思い人にもいずれ紹介したいし、アマーリアも婚約破棄するとはいえ、たまにお茶会や夜会には招待するだろうし」
僕は王子の提案に納得する。
今の所この人は姉様とは幼馴染だと言う。
敵対関係ではないと。完璧にカッコいい容姿だし姉様がグラリとするのも無理はないし最近まで嫉妬の対象だったが、拍子抜けした。

「………お義父さまに聞いてみて了承されましたら働きたく存じます」
何より王宮の温室で育った沢山の種類の薬草に興味が出た。腐っても魔女の弟子で薬草に興味はある。

「良かった!ありがとうラファエルくん!!これからよろしく頼むよ!!」
王子はスッと伸びた綺麗な手を差し出し僕と手を握る。

何だ唯のいい人なのか。

「婚約破棄は早めに行いたい。父上と君の義父オリヴァー公爵は親友同士だから中々説得は大変かもしれないけど待っていてくれるかい?もちろん俺はさっき言った通り君の味方でアマーリアと君が上手く行くよう応援したい」
僕の王子への敵意はなくなった。

「しかし…僕は養子ですし…この家の後継として姉様を送り出さなければいけないのでは?世間一般には…許されない…」
歯痒かった。僕の姉様への気持ちは届かないことが。姉様もまたそうだろうし。

「諦めないでくれ。血は繋がっていないし、聞いた所、君はオリヴァー公爵ともいい関係だろう?オリヴァー公爵がアマーリアに相応しい次なる相手を用意する前に俺が君を推薦しよう。王子の後ろ盾となれば公爵も無碍にはできないだろうし、俺も父上に勧めよう」
何故この王子はこんなに姉様と僕を応援してくれるのか判らない。

「で、でも…姉様は僕のことなど見てはくれません。ぼ、僕の一方的な…気持ちで…とても」
姉様は僕にとても優しいが弟としての感情しか持っていないだろう…。それが悔しい。

「そうだね、今はまだ君のことは弟として見ているだろうね。だが…全く気の無いようなら優しくもしないしむしろ離れるだろうね。君はアマーリアに媚薬を盛らないんだね?」

「え……」
言われてドキリとする。
実は昔盛ろうとして辞めた。他の貴族と同じじゃないかって!!そんなことをしてまで姉様を手に入れてどうするのだとその時は良心が勝った。でも今はどうにも揺れていたのだ。どんな手を使っても姉様を手に入れたい。その気持ちが日に日に強くなりどうすればいいか分からなくて辛い。

「……………」
僕が黙ってしまったから察したのか

「使おうとしたことはあるんだな」
と見抜かれた。

「……………」
軽蔑しただろうか?
しかし王子は立ち上がりこちらにきて僕の肩にポンと手を置いて…

「判るよ…男なら一度は好きな相手に使ってみたいと思う夢の薬だもんな!!俺も何度も思いとどまった。何故なら女性は誠実な男性を好む傾向がある。もちろん節操のない女性は逆に媚薬を意中の男性に盛ろうとするけどね」
王子と言う立場だ。この人も媚薬を盛られそうになったことがあるんだ…。と察した。

「また媚薬を政治的に利用して好きでもない相手と結婚する為に使う輩もいる。媚薬とは使い方次第だ。実に危険であり、実に簡単だ」

「王子は僕に姉様に媚薬を使えと申されているのですか?」
そんなこと…できない…。無理矢理姉様を手籠にして手に入れても我に変えれば嫌われるだろう。

「そんなことは俺は言っていない。俺は言わない。使うかは君の判断だろう??だが、既成事実と言うのは君とアマーリアの結婚に一歩近づくだろう。その時は全力で俺は応援しよう。覚えておいてくれ」
と肩の手に力を入れられた。
遠回しに媚薬の力で姉様を手に入れろと言ってるこの王子。何が幼馴染だ。


王子が帰った後、姉様が部屋から出てきた。
相変わらずとても僕には優しく美しく魅力的だ。姉様に恋をしてから僕は毎日姉様を想ってせつない。誰にも渡したくないしその微笑みは僕だけのものにしたい。姉様に例え気持ち悪がられても。嫌われても。
そうしたらどこかに閉じ込めて一生2人でいたい。ザワザワと心が騒ぐ。
姉様はそんな僕を一瞬焦ったような顔で見つめた。

「アルフォンス様帰ったのね。今日は男同士で話したいからとお前はしゃしゃり出るなと言われて引っ込んでいたわ?良からぬことを吹き込まれなかった?」
と笑う。
めちゃくちゃ吹き込まれたけど

「…思っていたほどアルフォンス様はいい人だってことが分かったよ…姉様ごめんね。少し王子のこと勘違いしていたみたい。婚約破棄したいことは聞いたよ…」
と言ってみた。

「そ、そうなのよ!アルフォンス様にはエレオノーラ嬢って方がいるの…。その方に恋なさってるから私も協力しているのよ!!秘密よ?ここだけよ?お二人が上手くいけばいいなって思っているのよ!」
と姉様は嬉しそうに言う。王子の言うことは本当だったみたいだ。

「姉様は王子と婚約破棄したらどうするの?お義父さまの勧める婚約者候補と結婚するの?」
そんなの絶対許さないし、相手の男を毒殺しても姉様を渡したくないよ…。
と思っていると姉様はまた焦りだした。

「ひ…ええと…ええと…わ、私はほら、王子と婚約破棄されたらと、当分は夜会にも出ないし婚約者も見つけないわ、ほ、ほら!世間の見聞があるじゃない!!王子に振られたダサい女ってことになるんだから!!私は別に噂されてもいいのよ?お二人を応援してる立場だから!

だからラファエルも気にしなくていいのよ?ほほ!!」
と姉様は言う。当分婚約しないと聞いて僕はホッとした。嬉しい。
姉様の側にいれるし、姉様を害虫から守れる。

「あ、そうだ…僕…王子に王宮の薬師として働かないかって言われたよ…その想い人の精神的リラックスする薬を作って欲しいって言われてね、お義父さまに聞いて了承されたらって言ったけど姉様はどう思う?」
王宮の薬師となればしばらく家を出ることになる。でも王宮に姉様も呼んでくれると王子は言ったしお義母さまの薬を渡すために僕もこの家に頻繁に来るし。

「まぁ!いいんじゃない?お給金出るんでしょ?うふふ!出世したわね!!」
と姉様は賛成した。ちょっとだけ僕と離れるの喜んでる?それは嫌だな。

「うん、給金が出たら姉様に何かプレゼントする…」
と言うと姉様は

「えっ!?いっ、いいのよ?自分のことに使いなさい??」

「ううん、姉様にはいつも優しくして貰ってるし感謝しているから…何かプレゼントさせてね。楽しみにしていてね?」
好きだよ…姉様…。
どうか僕のことを好きになって。
そんな目で見つめた。

姉様は目を逸らすと

「お父様に言うのでしょ?ほら早く!」
と書斎に促された。



こここここっ!こっわぁーい!!!
もう半端ないって!!
さっきのラファエルの鋼の糸が生き物みたいにうねって鋼アートみたいに私にハートマークを作っていた。しかもその後鋼で文字みたいなのができて好きとか愛してるとか出てきたからバレバレもいいとこよ!!

鋼の糸怖いから!!
そして最後に愛してる叶わないなら閉じ込めたいとも出てきたので必死に表情を押さえて笑い誤魔化した。
マジやばい!弟の愛が重い!!

あんのアルフォンス!!くそ王子!!弟刺激すんなって言ったのに!!あののほほん王子のことだから弟と私を応援する気でいるんだろうな。ほんとわかりやすい!!
何が幼馴染だ!!あのバカ王子!

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