悪役令嬢は断罪後青猫王子と国外逃亡してモフモフスローライフします

黒月白華

第20話 温泉とドラゴン

赤の国ブラッディ王国…火山地帯が多く熱い。国の至るところに温泉がある。

俺とマティルダは逃亡者として藍の国を目指す。マティルダのスローライフ?とかいうのに向けて。

先日マティルダから好きだと言われたしキスをされた。俺は何も出来なかったけど、前に俺も気持ちを伝えているのでこの関係は恋人同士という事でいいのだろうか?

昔は気持ちのない元婚約者同士という複雑な関係だったけど、今は真実を知り彼女と同じ気持ちだ。それだけで俺は幸せなのだ。

しかも彼女は大変に心が広く、俺から手を出さない限りは何もしないという誠実さを告げた。
…俺はなんというかとても慎重な人間だと思う、硬いのかもしれない。いや、間違いなく硬い。奥手とも言う。

恋人同士になり手を繋ぐだけが精一杯の奴。こないだは嬉しくてつい彼女に抱きついてしまった。

こんな逃亡してる最中に考えてはいけないのにマティルダのことばかり考えてしまう。俺のクリフォードから受けた傷は良くなってきた。
向こうにもダメージは与えたはずだけど…。奴は魔法無効の鎧がある。生身で受けた傷以外のダメージは無いのかも。

辺りを伺いながら俺たちは洞穴から移動をしていた。食料も残り少ない為早く国境の街か紫の国に入らなければならない。国境の街には赤の国の警備が敷かれているかもしれない…。変装はするつもりだが…シャーロットの件もあり警戒しなければならず、無闇に突っ込めないかも。

「やっぱり危険だわ。国境の街で捕まる可能性が高いし、紫の国にも手配書が届いているかもしれないわ」
マティルダは休憩中にそう言う。
自然の温泉があったので今日はその近くで休む事にした。

「しかし…国境を越えないと紫の国パプラン王国に入れない…」

「そこなのよねぇ…あーあ…空を飛べる魔法がなんでないのかしら…。魔法は使えるのに」

「風魔法で飛べないのか?君は風魔法も使える」

「お祖父様が緑の国出身だったから…私は隔世遺伝で風魔法も習得できるだけだわ。最初は苦労したけど練習を小さい頃から頑張ったわ…。でも風魔法は攻撃魔法しか使えないわ…」

「……俺とあのまま婚約者としていたら普通にいい暮らしが出来たのにすまない」

「もう、トラヴィスはすまないすまない、言い過ぎだわ。過ぎたことは過ぎたことよ!反省しているなら良し!それに私こそ…トラヴィスの王子様暮らしを台無しにしてしまったわ」

「そんなことはない。俺が勝手にマティルダに付いて行ったんだ。それに今更ブルメシアに戻っても弟に殺されるだけだ。もう次期ブルメシア王は弟にすげ替わるだろう」
マティルダは

「はぁ、とにかく温泉に入りたいわ!折角あるんだから!トラヴィスも一緒に入る?」
と聞かれたから驚く。そっ、そんな!一緒にとか!マティルダは時々凄く大胆というか積極的だ!!男女が!そんな!

「あ、冗談だから。そんな固まらないでよ!もー!」
なんだ…冗談か。そりゃそうだ。良かった。マティルダも慎ましい女性で。
こないだキスされた時は石みたいに固まっているだけの俺だったが一瞬のことと言え……起きているマティルダと口付けを交わすのが二度目。一度目は人命救助だったが。

俺はあの後昔のことを考えたりしつつも寝ているマティルダの唇を見つめながらなんとか耐えていた。同時に俺は何を考えているんだとも思い必死だった。

俺は食料になるものを探してくるからとマティルダを先に温泉に入れる。マティルダは結界を張り温泉に入るようだ。

警戒しつつも近くにキノコなどを見つける。食べられるキノコかよく判らないがその辺はマティルダが知っている。彼女は昔から学業も優秀で課外授業で森に行き、キノコの種類を完全に毒か、そうでないかを見分けていた。俺は5つくらい間違えた。

キノコがたくさん生えている場所を見つけるとその近くに岩穴があった。ここで眠れるかもしれないと中を覗いた。しかし…夥しい魔力と恐ろしい気配を感じた!これって…巣?
と思っていると中から咆哮とブレスが穴から飛び出して俺は咄嗟に氷の壁を作り防いだ!!

すると岩を壊して巨大な赤龍が姿を現した!緊張が伝う。足が動くか?一瞬で喰われるか!?
そんな…ああ…こんなことならもっとマティルダに触っておけば良かった!キスも他の奴等みたいにいっぱいしておけば良かった。

こんな所で死ぬなんて!警戒はしていたが…こんなドラゴンが出てくるなんて…。
俺が死んだらマティルダは悲しんでくれるかな。

赤のドラゴンは凶暴だと習った事がある。動けば喰われるのも一瞬だ。これしかないか!?
俺は自分自身を厚い氷の中へと凍らせていく。
これでは俺も動けず結局喰われるが…しかしドラゴンは凍った俺をボッと火を吹き溶かした。

げっ!も、もうダメだ。と観念した。
マティルダごめん!

と思っていると

「おい人間…。少しも抵抗しないとは。まぁ氷で自分を閉じ込めようとはしたか。…その髪色は青の国の者だな?ふむ」
と喋った!!

「……」

「ふん!俺ほどのドラゴンともなると喋れるし人間にも変身くらいできるわ!」
とドラゴンは人間の男に変わった!
長い赤い髪の綺麗な男だ。少し野性的にギラついている。素っ裸だが。

「ドラゴン狩りに来たわけではないな。奴等は俺たちドラゴンの鱗を剥ぎ素材にする。肉は喰われ城に出される。
…最近になりこの国の兵士たちはアンチ魔法防御を覚えた。古代龍の硬い鱗でなければその防具は作れない。仲間たちは眠り薬入りの餌の罠にかかり何頭かは狩られた」
とドラゴンは悲しげに言う。全裸だけど。
俺はとりあえず布を差し出した。

「……お前は旅人か?」
とドラゴンに聞かれて事情を話した。
するとドラゴンは理由が判り怒りに震えた。

「!!トラヴィス!!何なのそいつっ!!凄い魔力!!」
とお風呂から急いで上がって来たのか濡れた髪のままのマティルダが現れた!!

「マティルダ!こいつは…」

「ほお…美しい娘だ。俺の子を産まないか?」
と言ってきたから今度は俺が震えた。

「何なの!?トラヴィス!この男は!そりゃイケメンだけどほとんど半裸じゃないの!」
原始人みたいに腰布だけだしな。

「マティルダ落ち着け。こいつは元はドラゴンだ。今事情を説明したんだ…」
と言うと

「ドラゴン?そんな…」

「そうだ、人間の女よ。お前はこの男の番であったか。すまない。ならば諦めよう。…それでお前たちはそのシャーロットとかいう白い髪の女に色々と迷惑をかけられているな。俺の仲間もそいつの入れ知恵のせいでやられたのだろう」
とドラゴンは言う。

「……まぁ…確かに元を正せば全てはシャーロットのせいかもしれないけど…彼女がいなければ今、トラヴィスと私はきっと仲違いしたままだったのも事実だから複雑。でも彼女はやはり許せない」
とマティルダは言う。

「ならばどうだろう?俺の背に乗り紫…いや藍の国まで送ろう。道すがら赤の城を焼いてしまうかもしれないがいいか?」
とドラゴンはあっさりと言った!!

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