目つきの悪い令嬢と思ったら目が悪いだけだった

黒月白華

第23話 幸せの青い鳥

結婚式当日は晴れていて領主となる俺は村や街の人たちからも祝福された。

「新しい若い領主様万歳!!」

「伯爵様は元王宮騎士だそうよ」
との噂も飛び交った。

隣のソーニャは間違いなく美しいが、今日は眼鏡を外していて、凝視していた為事情の知らない参列者や司祭様を恐怖に陥れていた。
殆どの人は青ざめていたからある意味印象的な結婚式になっていた。
拍手が微妙に遠慮がちで小さいのは花嫁さんの目力の威圧が凄いからだろう。

時々司祭様が汗を掻いたりちびりそうなのかモジモジしていた。

街の教会で司祭様に祝辞をもらい、神への誓いの後、指輪交換とキスをした。
参列者の団長も綺麗な奥様を連れて赤い目で鼻水たらして喜んでくれた。

「団長…きっと見るのも辛くて泣いている…」
「ばか、きっとこれはカモフラージュの結婚で後で団長とクラースが…」
とかまだ言ってる奴いるな。

「貴方…あの噂本当に??」
と団長の妻が眉を潜めて見た。

「違うって言ってるだろ?俺が好きなのはお前だけだ!!」
と団長は余計な事を言った団員に後でお仕置きだと言っていたそうだ。

フィリップ副団長や他の団員や家族も並び、更に王子と王女も来てくれた。

「あのクラースが結婚して伯爵にねぇ」

「何があるかわからんさ。まぁあんなチャラい奴が落ち着いたんだからいいだろう」

「うちの辛いスープを飲むって言う変わった人だしソーニャ様も大概だよね」

「違いないな」
と父と母に弟達は言う。


外に出て花嫁と俺は一つの鳥籠を持つ。その中には青い鳥が入っていてこれを空に放つと永遠の幸せが訪れるというまぁ、よくあるジンクスみたいなのの風習で取り入れる事にした。
ちなみにこの鳥の羽を拾った人も幸せになれる、運命の人が見つかるとのこじつけジンクスもあり、花嫁と花婿が籠の鳥を放つ瞬間を未婚の男女は目をギラつかせながらその瞬間を待っているのだ。正直その時が一番怖いと思う。

だって、鳥捕まえようと必死になって皆ゾンビみたいに遅いかかるから鳥も驚いて逃げようと必死に羽を羽ばたかせる。
過去、鳥を瞬時に捕まえて殺しかけた猛者もいた。
ヤバイよ。ヤバイよ。

そして教会から出て皆に祝福された俺とソーニャは籠を構える。
すると弟のラルスとその恋人らしき女の子がギラついた目で早速一番前に躍り出ている。身内出すぎ!恥ずかしいから!!

「それではブルーバードを…」
と司祭が言い、
二人で籠の鍵を開けて鳥が羽ばたこうとした。ギラつく人々を見て鳥が躊躇したが、バサバサと逃げ出した。必死に手を伸ばし追いかけ始める弟や未婚の参列者たち。

「待てうらああ!!!」
ビュンビュンと虫取り網みたいなのを持ち振り回す参列者達。もはや野鳥保護会に訴えられないのが不思議だが、うちの国の結婚式の見慣れた風習だし仕方ない。
必死な参列者達を他所に空高く舞い上がることに成功した青い鳥を俺とソーニャは見送って微笑んだ。キラリとお互いに光る指先を見つめ手を繋ぎ、青い空に溶け込むようにして羽ばたく鳥をいつまでも見つめた。


宴会の席では伯爵邸で酔い潰れる者やうちの激辛スープが何故か用意され卒倒する者も出た。

ヴァイダル団長は改めてワインを注ぐと

「おめでとうクラース!いやクラース伯爵様だな!!」
と祝う。

フィリップ副団長は悪酔して悪魔になっていて無理矢理俺の親戚とかにも酒を飲ませていた。
俺に気付くとこちらにやってきて

「おいクラース…結婚は自由を奪われる。お前は今日から領主として馬車馬みたいに働き詰めだ。せいぜいその前に…」
ドスっと副団長の首を落とした団長。酔い潰れた副団長を抱えて

「全くめでたい日にすまんなクラース伯爵様」

「いいんです。俺は今とても幸せだから。ヴァイダル団長が怖い目のソーニャとお見合いさせてくれなかったらこの幸せはなかったです。ありがとうございます!団長!騎士は引退するけど俺、立派な領主になります!」

「クラース!!くれぐれも立派にな!!?チャラい領主になるなよ!?」
と念押しされ副団長を連れて行った。

宴会もお開きモードになり皆家々に帰り始めた。オロフ伯爵夫妻も喜び田舎へと発った。
そしてしばらく書斎の立派な椅子で一人で

「ヒャッホー!伯爵様になったぜー!!」
とか言いながら浮かれてたら執事とかが音もなく入ってきて

「旦那様…ひとまず奥様をお待たせしてはなりませんので…お風呂の用意もできておりますから」
とついに初夜を迎える準備になりドキドキしてきた。

念入りに身体を洗ったりしてドキドキしながらバスローブで新しく改築した寝室へと向かうと
暗闇にギラリと光る二つの目があり

「ぎゃっ!!」
と驚いた。

ソーニャは緊張して眼鏡がないことで凝視していたのだ。結婚祝いにザックからスペアの眼鏡を貰ったりしていたがソーニャは眼鏡は高価だから大切にしまってある。

というかもう…目の前のベビードール姿のソーニャヤバイよヤバイよ状態で俺はクラクラする。俺の傷よりよっぽどこっちのが衝撃的だった!!

その時遠くからウォーーーンと声がしてビックリして窓を覗く。あまりにも奴に似ている遠吠え。だが見当たらなかった。

「近所の犬ですわ」

「……そうかな…無粋なやつだな」

「案外私達を祝福しているのかもしれませんわ」
とソーニャが笑う。

「うちの領地に現れたらいつか狩ってその白い毛をソーニャにプレゼントしよ」

「白狼は頭が良さそうだからクラース様には無理では?」
とソーニャがまた笑うので俺はちょっと膨れるとソーニャは俺に近寄り至近距離で顔色を見たようだ。

「まぁ…なんですのそれ?もしかして怒っていますの?全然怖くありませんよ?」
とクスリと笑う。ベビードールのそんな姿で色っぽく笑われると余計煽られるんですけど!
俺はソーニャの肩に手を置くと

「ソーニャ…そろそろ初夜を始めよか?」
と言うと彼女は途端にまた緊張して鋭い眼光をこちらに放った。寝台の上で睨まれるとまるで手を出すなと普通なら勘違いするだろうけど、俺はもうすっかり慣れたしな。
愛しの怖い顔の俺の奥さんは

「ソウデスワネ…」
とか言いながら身体を預けた。
それからベッドで存分に遊戯して疲れて眠った。





朝が来るとソーニャは俺の横ですやすやと寝息を立て可愛く眠っている。起こさないようにソッとガウンを羽織り窓の外を見るとバルコニーの木の所になんと昨日離した青い鳥が停まっているではないか!

俺はテーブルに乗っていた昨日のサンドイッチの残りをパン屑にして手の上に乗せて見たら青い鳥はあっさり俺の所にやってきた。

青い鳥に餌をやっているとソーニャも起きてきて

「何をなさってるのです?」
とこちらを凝視したので青い鳥は彼女の威圧にビクリとして飛び去った!!

バサバサと慌てて空に舞って行ったが羽を1枚落として行った。
よく見えないソーニャは音で

「鳥ですか??」
と聞いた。

「うん、そうだよ、昨日の青い鳥かも。ほら、羽を落として行ったよ…これ、俺たち最高に幸せになれるよソーニャ!」
と彼女の目の前に羽を翳した。

ソーニャも嬉しそうに笑いった。

「今日から俺伯爵だけど…俺はソーニャだけの騎士だからね。幸せになろうね!」
と俺も笑いキスをして…二人はいつまでも幸せに暮らしたのだった。

          

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