死にたい聖女がやってきた

黒月白華

第27話 生きていく

のどかな風景が広がり始めた。
りぼんは

「次で降りるから準備してね」
と荷物を持つように言った。

プシューと扉が開き降りる。デンシャはしばらくしてピリリリーと音がして行った。それからそこを出るとバスと言うまた四角い乗り物に乗った。
そしてテイリュウジョで降りて少し歩いた。

「見て!あれが田んぼ。米の田んぼ」
とりぼんは緑の均等に並べられた畑に水が入ったものを指した。

「あれが?凄いな綺麗に並べてて。あれから米ができるのか。実がつくのか?」

「うん、秋になると収穫だよ。穂になり粒から精米して米になり出荷され、炊いてご飯になるんだ」
と言う。

「疲れたしー!!あーし!ご飯食べたーい!シャワーもしたい!!コンビニ無いノォ?ど田舎すぎ!10年経っても田舎はあんま発展しねーし!」

ユッキーナ様は嘆く。アシュトンは妻の手を握り誘導してやる。

「頑張りましょう。もう少しだけ」
と言い、励まして
ついにりぼんは止まった。
木の影から指差した民家。変わった造りだ。
カワラと言う屋根に窓や扉のようなものも見えた。

「はぁ…。懐かしい…おばあちゃんちだ…元気かな?」

「りぼん…行こう…周囲にはあまり人も見かけないし…」
りぼんはレックスを抱きしめ少し震えた。
しばらくすると決心して歩き始め俺たちも後に続いた。中から車椅子に引かれたお婆さんとそれを引く女の人が出てきてりぼんは止まった。

中年の女性もこちらを見て止まった。数秒の時間が流れたが中年女性はよろよろとこちらに来て

「り…りぼん!?あなた…りぼんでしょ!?」
と言った。
りぼんは涙を流した。アレックスを俺に預けて走り出し、中年女性に駆け寄り

「お母さん!!!」
と抱き合い泣いた!!



俺たちは家の中に通され不思議な内装にアシュトンとキョロキョロしていた。
りぼんのお母さんは小園リエコさんと言った。
温和そうな人で面影はりぼんに似ている。それから俺を見て

「りぼん!!何なのこの物凄いイケメン外人さん!眩しい!アイドルとかじゃないわよね?それにまさか孫が見れるなんて!!」
とキャラキャラ笑い金髪の俺に似た息子を撫でた。

レックスはまだ喋れないのでキョトンとしていた。

りぼんの父親は事故に遭い数年前に亡くなったと言う。りぼんは泣いてブツダンに手を合わせた。俺も作法を聞いてその通りにチーンとして手を合わせた。

それからりぼんはポツリと話し始めた。今までのことを隠さず全部。
話終わり

「信じられないでしょ?でも…本当なんだ、ごめんね。お母さん」

「まぁ、信じられないけど帰ってきてこんなバカみたいなこと言う子じゃないってことは判るわよ。貴方の親だからね。外人さん…りぼんと結婚してくれてありがとう……ていうかまさかの王子様だっけ?あらやだ!どうしよう!失礼かね?煎餅なんか出すんじゃなかったよ!田舎だから都会に出ないと中々ケーキは買えなくてね」
と言う。

「いいえ、こんなの初めて食べたから面白いです。堅いけど見たこともない食感です!」
と俺はバリバリとセンベイを食べた。甘くないお菓子がある事を知った。

お茶も紅茶では無く知らない茶だが、独特の味がして美味しいと思えた。俺は国の話を沢山したりしてアシュトンも時折口を挟んだ。ユッキーナ様のことを話すとリエコさんは

「貴方は家族に会わないの?貴方行方不明になった米森優樹菜さんね?貴方のことも数ヶ月後テレビになってた。米森先生も居なくなったけどまさか皆りぼん達と同じ世界で暮らしてたとはね」
ユッキーナ様は暗い顔で

「あーしはいいです。もう向こうは男と幸せに暮らしててそういうの見たくもない…。あーしは向こうで本当のハゲオヤジがいっから…いーんす」
リエコさんは心配したが事情を汲んだ。
人それぞれ事情が違うのだ。

「本当言うとりぼんはもう死んでるんじゃないかってお父さんが生きてた時から絶望してた。刑事が家に来て血痕だけ残して遺体は無いって言われたからカッとしたよ!遺体なんて!!

どこかで生きてるって信じたかった!でもあの刑事!事件に巻き込まれ恐らくもう娘さんの命はないでしょう。とか言いやがった!あたしはどこかできっと生きてるって思ってさ。一時期精神科で薬を処方してもらったりしたけど!やっぱりりぼんは生きてたよ!!ありがとう!生きててくれて!」

「お母さん!!」
りぼんはまた泣きそうになる。
ユッキーナ様はドラマかよ。とボヤいていた。

「じゃあ、皆さん今日は泊まって行って!りぼん布団運んでね!」

「うん!」

「俺も手伝います」

「自分も!!」

「あーし、TV見ていいっすか?久しぶりで」
りぼんは舌打ちして

「このクソギャル人んちでもゴロゴロしやがって」
と睨む。

「その代わり夕飯手伝うからー!!」
と言うからようやくりぼんは許した。箱をつけると中に人が入ってて驚いたが後でじっくり見ささせてもらおう。

アシュトンと布団を運び俺たちは客間に運ぶ。
おばあさんはボケており、りぼんのことを介護の人と勘違いしていたがそれでもりぼんは嬉しそうだ。おじいさんは亡くなったようだ。

夕飯でりぼん達はキッチンに消えて俺とアシュトンはレックスをあやしながらもTVに釘付けだった。

「すごいなこれ」

「言葉もありません。しかも魔法じゃ無くて技術だとか。信じられません。この世界がどれだけ発展しているのかは判りませんがもう見るもの全て凄すぎて頭が追いつきません」

「パーシヴァルがいたら頭追いつかないどころじゃないな…」

「ええ…」

それからしばらくするといい匂いと共に夕飯が運ばれてきた。白いものが器によそってあった。これがご飯!!

りぼん達は箸の使い方を教えてくれたがどうも上手く出来なくて結局スプーンで俺はご飯を食べることにした。アシュトンも同様だ。

念願のご飯を一口食べた。
甘いような何とも言えない味だ!!
アシュトンも同じような感じだった。リエコさんは米をお土産にくれると言う。

定期的に来れるからとりぼんが言うと安心したようにリエコさんは笑った。

「もっと早く来なくてごめん。…お母さん」

「いいんだよ。りぼんが元気で母親になり、お妃様になり子供まで!大変だったでしょ?またちょくちょく会えるしね!私もね、たまに映画見てるよTVでだけど、ファンタジーとか好きだったでしょ貴方」

「へへへ!高校生の頃ね!いっぱい迷惑かけた。マスコミのこともごめんね。少し米森から聞いてた。向こうとは時間の流れ少し違うからこらからは週末に一回は来ないと!こっちでは1ヶ月に1回ってことかな?もっと短くしようか?」

「そんなに王弟妃がちょくちょく来てたらあちらの生活が持たないでしょ?たまにでいいよ」

「…もしお母さんが嫌じゃなきゃ…おばあちゃんとこっちに来てもいいよね?」
とりぼんは俺にふる。

「もちろん!」

「え、やだよ!海外に住むようなもんでしょ!?私米派だし。それにお父さんと同じお墓に入りたいから!」
と言いりぼんは寂しげになったが仕方ないと折れた。

夜変わった布団にレックスを寝かせて俺たちも一緒に眠る。

「りぼんがここに残りたいなら…」
と俺が言うと

「それはやだよ。貴方とレックスと離れるなんて無理」

「…ごめんな」

「またいつでも来れる!私は聖女様だしね!!」

「うん、俺もニホンが好きになってきたぞ!!コメも美味かった!!りぼんと会えて1番良かった!!」
と笑うとりぼんは照れた。

「ライさんカッコいい!!」
と言うから帰ったら二人目を作ろうと思う。リエコさんにもっと孫の顔を見せてやろう!次来た時にまた孫増えてたら仰天するかな?

どんな世界でも愛する人と共に生きることがどれだけ幸せなことか俺は身を持って知った。
女には興味がなかったが、死にたいという聖女と出会い変わった。

りぼんもまた変わった。レックスを産んで母親になったらもう死にたいとすら言わなくてなった。母は強しだ。

レックスとりぼんの寝顔を眺めた。
レックスは大きくなったらどんな子に成長するのか?俺もりぼんと子供の成長を見守り続けるんだろうな。

ウィンガルドの民達も一度死んだ身内により考えさせられることが多くなったのかより家族との時間を大切に過ごすようになったという。
大事な人が死んだ時の悲しみは計り知れない。
だから無駄にしてはいけないのだ。この生を。一生懸命生きて命ある限り幸せを感じよう。


「俺が守って行こう…この温もり達を」
と俺は眠りについた。




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