死にたい聖女がやってきた

黒月白華

第26話 りぼんの世界へ

その後、俺たちは世界樹の葉を持ち帰りりぼんの「世界を跨ぐ」と言う転移能力で元の世界に戻ってきた。

あれ以来瘴気は収まり、黒い蜂の巣も消えていた。りぼんの能力で何度か楽園に行き葉を貰い、死んだ人が墓からボコボコ蘇ってきたのだ。

親族たちは

「ぎゃーーーーっ!!!生き返ったああ!!」
と悲鳴を上げていたが事情を知る俺たちは各地を周り蘇らせて行った。

兄上も

「んん…なんか知らないうちになんとかなったようだな!ご苦労であった!!ん?結婚したいって?………どうぞ!」
とあっさり許してくれた。りぼんは聖女の力を使い色々な世界に行くことができて兄上も庶民という立場を取り消しまた聖女の地位を与えられ今は王宮の第二王子宮で一緒に暮らしている。

たまに黒ライたちの世界にも挨拶に行ったりする。

ユッキーナ様とアシュトンが結婚し、俺とりぼんも結婚した。プロポーズの言葉は

「君を一生幸せにして死なせない!お婆さんになり寿命で死ぬまで共にいよう!」
と言った。その時のりぼんは

「幸せ過ぎて逆に死にそうです!!」
と涙ぐんでいたが死なないでくれと心の中で突っ込んだ。

パーシヴァルも隣国のヴィヴィアン王女の婿養子として王女を支えている。例の薬を定期的に送ってやってる。…未だに誰も彼に真実を告げていない。たぶんバカだからバレないだろう。予想通り王女が懐妊し、赤子が生まれた時…お世辞にも可愛くはない容姿で

「まさか!呪いが引き継がれて!?何ということだ!!絶対に娘の呪いをいつか解いてやるからな!」
とパーシヴァルは赤子を抱きしめ泣いていた。

カールもジェシカもどこかの金持ち令嬢や令息を捕まえて誘惑し借金を全額返済し詐欺まがいの商売を始めていた。

ダーレンは相変わらずエロいだけかと思ったが最近は世界樹の子孫として解放されたエルフの奴隷達を纏めてエルフの里づくりの指揮を取っていた。長い間虐げられてきたエルフ達には傷付いたものや病気になっているものがたくさんおり、診察や薬などを手配していた。そのうちにエルフ保護会が立ち上がった。人間の中でも優しい人達が集まりエルフの待遇はこれまでより良くなったし、もし古い考えで隠れて奴隷としてエルフを飼っている人間は懲罰対象とした。エルフには市民権も与えられ街で暮らすエルフも出てきた。
ダーレンは保護会の女性の一人で物凄いデカい胸の人と恋人になっていた。もう何もつっこみたくない。

ヨネモリ先生はなんと頭を光らせて身体の弱い人達を無償で治していてなんと宗教ができていた!!
教徒は全員頭を剃り恐ろしいツルハゲ宗教集団になったとユッキーナ様は嘆いていた。もう石を投げられたりはしないらしい。

たまにアシュトンがグッタリしながら挨拶する。ギャル語というのを分析しているらしくゲッソリとしていた。

ユッキーナ様は調子に乗りその辺の令嬢達を捕まえてギャルを増やそうと自らギャル講師をやりだした…ネイルサロンを作り教室を開いている。
りぼんは…

「ビッチが増えていく…何とか止めないと…」
とブツブツ言っていた。





それから数年後にりぼんは元気な男児を産み落とした。レックスと名付けた。
すやすやと眠る天使のような可愛い子にりぼんは溺愛している。
皆がお祝いに来てくれたし、りぼんの力で黒ライ達の世界にも子供の顔を見せに行った。黒ライも破顔していた。黒ライは先日ついに王弟妃を娶ったらしい。りぼんに少し面影は似ていた。物静かで可愛らしい娘さんだ。お互い幸せに暮らしているようだ。



「なぁ、りぼん…。君の世界に行き、君の両親に子供を見せないか?君の力があれば世界を跨ぐことができるだろう?」
俺は気になっていたことを言った。

「日本に?……今何年経っているのかな?あっちとは時間の流れが違うようだし。もしうちの両親死んでたら…」

「その前に行こう!!俺も一緒に行くよ!」

「本気なのね、あなた…」

「ああ…その…服は何とか異世界で着れるような似たものを作らせよう」

「判った…。レックスも一緒に連れて行こうね…」
と話が決まったのだが…。研究熱心なアシュトンも行きたいと言い出してユッキーナ様も久しぶりにニホン帰ってシロメシ食べたいと言い出し結局五人で向かうことにした。あまり大人数になると目立つし。

向こうにはケイサツと言う憲兵のような人に見つかったら厄介だからとりぼんは絶対に目立たないようにと言って護衛をつけるのは禁止した。剣や武器も持っている人なんか犯罪者かヤクザくらいで、一般の人は持たないし、持っていたら逆に捕まると聞いて武器も置いていくことにした。

急いで仕立て屋に五人分の服を注文した。仕立て屋はりぼんが紙に書いた簡単な絵柄を見て作っていくことにした。季節が判らないので一応冬用のコートは手提げ袋に入れておくことにした。

そしてついに決行日がきた。


レックスが変わった服を着ていてりぼんは緑のワンピースで息子を抱いて俺とアシュトンは白いシャツにズボンに上着を着込んだ。ユッキーナ様は最初召喚されてた時の服をまだ持っていたからそれを着ていた。

「皆!じゃあ!手を繋いで!行くよ!!精霊ちゃん!お願い!!」
と言うと景色はぐにゃりと変わった。目を開けると…見たこともない路地裏だった。猫が驚いて逃げた。

「目立たない所で良かった…」
とりぼんはホッとしている。

「ここがユッキーナ様たちの世界ですか?変わった文字や物があるなぁ」
しかし驚いたのは路地裏を抜けた先。街らしきそこには沢山の人が溢れ美味しい匂いや物凄い高い建物に時折馬より早いスピードで過ぎ去る物体に聞いたこともない音楽。とにかく物凄い世界だった。

俺とアシュトンは言葉を失ったがユッキーナ様とりぼんは

「今何年かな?」

「んじゃ!あーし聞いてくるし!」
と通りすがりの人に聞いて変な顔をされ戻ってきた。

「20xx年だってさ!りぼんやあーしの異世界転移から大体10年経ってるってことだね。まだご両親は生きてんじゃね?」
と言った。望みはある。
しかしある問題にぶつかった。それは…

「「お金がない!」」
だった。
そりゃそうか。りぼんたちはずっとウィンガルドにいたのだから。

俺はポケットに入っている金貨や宝石の袋を取り出した。

「換金できないかな?」
りぼん達は顔を見合わせて

「一つか二つで良くない?」

「そうだね。あまり沢山持ってくと宝石強盗か何かと疑われるかも」
と話し合い、とりあえず質屋を調べてそこに向かい、ユッキーナ様が一人で店に入り、数分後にお金を持って

「とりあえず20万くらいで売れたわ」
と皆に5万ずつ配った。

「……諭吉じゃなくなってるね」

「10年経っていろいろあったんでしょ」
とユッキーナ様は言い、

「とりあえず…あんたの親達のところ行くわよ」

「うん。引っ越したならおばあちゃんちかな…」
と移動して俺たちはエキとか言う所に来てキップを買ってりぼんは機械にそれを入れてくぐった。俺とアシュトンもドキドキしながらくぐる。アシュトンはもたついて機械に挟まれてエキインとか言う人に助けられていた。

そして階段を降りた先に大きな鉄の箱の塊があり、ゾロゾロと人がそれに乗り込んでいく。デンシャと言うそうだ。

それに乗りガタゴトと走り出した。
流れる風景が恐ろしく早く過ぎていく。不思議な乗り心地だ。馬車なんか比較にならないほど安定している。別世界に来たのだとまた改めて思う。

しかもデンシャにトイレが付いていることにも俺は仰天した。男女のマークらしきものがあったから

「あれは何?」
とりぼん達に聞いたらトイレだと言った。信じられない。
この国のトイレは外にも中にも山奥でない限り案外多いのだそうだ!!

後に俺はニホンのトイレを使ったんだが、勝手に流れる仕様なのは驚いた。

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