死にたい聖女がやってきた

黒月白華

第20話 世界樹の思惑1

しかし…この世界樹の森はちょっと散策したが本当に空気がいい。果物のなっている木があったので実を貰いりぼんと食べることにした。何か食べないとそれこそ死んでしまう…。

「というか、ここからは出られないのか?食べ物は何とかなりそうだが、休める場所を探さないと…」
見たところ危険な動物はいない。静かで鳥の声さえしない。

「私にも判らないです。精霊の気まぐれで連れて来られた??」

「なら帰るのも精霊達がいないとダメか…。ここでしばらく暮らそうにも家もないしな」
と森を見回す。するとりぼんが何かに引っ張られるように地面から少し浮いた!!

「りぼん!?」

「ら…ライさん!また!精霊ちゃん達が私を何処かに連れて行こうと!!」

「何!?」
そのままりぼんはスーッと移動を始めた。俺には精霊は視えないからともかく後をついて行く。

森を少し通った先になんと小さな小屋が立っている!!りぼんはそこで地面に着地した。

「なんだここは?誰か住んでいるのか?」

「判らないよ…魔女とかいたらどうしよう」
俺は剣を構えてとりあえず戸を叩いた。

「頼もう!!誰かいらっしゃるか?」
しかし返事はなく俺は思い切って戸に手をかけてみるとスッと開いて中に警戒して入るとなんと鼻腔をくすぐるいい匂いがした。

「ん?テーブルに食事が用意されている!?しかも暖かいスープだ!」
サラダやパンに卵や果物チーズと鶏肉のソテーみたいなのがあった。出来立てのようだ。

「何これ?精霊ちゃんが用意したの?……したんだって言ってる」

「喋れるのか?精霊と!」

「少しなら…この家は好きに使っていいみたい。世界樹様が私達をここに迎えてくれたって。世界樹様のご意志らしいよ」

「世界樹の意思!?世界樹には意思があるのか!?」
りぼんはうなづいた。

「ならここは一体どこなんだ?」

「うん…うん…。ライさん、精霊ちゃんがここは世界の中心なんだって!」

「なんだと!?やはり神話の言い伝えと同じじゃないか!?」

「異世界より召喚された聖女とその番になる者のみ立ち入りが許される…みたい。森にはちゃんと大人しめの動物も隠れて住んでいて、必要なら私達のご飯にもなるらしい…」
えっ!?じゃあこの鶏肉は!!?
自ら命を差し出した鳥!?

ええーーー!?

「俺たちをここに呼んだわけは?」

「世界樹様は今のこの世界の人間が嫌いみたい…。だから、世界にたくさん黒い蜂の巣を作り…に、人間を一回滅ぼそうとしてるみたい!」

「んなっ!!?世界樹の仕業だったのか!?この国…いや、世界を滅ぼそうと!?」

「そうみたい…。それで…えっと、うんうん。…ええええ!?」
とりぼんが驚いたと思ったらチラチラ俺をみて赤くなり俯く。なんだ!?何を言われた。

「りぼん!話してくれ!世界樹は何を言ってる?」

「精霊ちゃんによると…その…私達がここで暮して…リセットされる新しい人間の命を産みなさいって!つまり…世界中の人々を一旦滅ぼした後、私達がこの楽園で過ごし子供を作り、世界を新たに作り替えるんだって!もうこれアダムとイヴじゃない!!」

「なんだと!!?」
アダムとイヴが誰か知らないが俺は青ざめた。世界中の人々を一旦殺す為に世界樹が自ら黒い蜂の巣を作っていた!人々を病気にして死なせていたとは!!

驚愕の真実を知ってしまった!
なんてことだ!そしてりぼんとここで俺たちだけ安穏と暮らして子供を儲ける?新しい世界!?

そんな…。

「ヨネモリ先生やユッキーナ様はどうするのだ?あの二人も異世界から来たではないか!?」

まさか巻き込まれて死ぬのか?酷い!!

「………私が望むならその二人も特別にこの楽園に呼んであげるって言ってる…」

「何…」
あの二人は助かるのか…。でも…この世界の人々が死ぬなんて!!助ける為に聖女を召喚したのにまさかこんなことになるなんて!!
俺は項垂れた。

たぶん世界樹はここから俺たちを出さないし、ここの場所を知る者もいない!世界の中心…きっと結界が何かに守られており今まで誰にも見つからなかったのだろう…。なんてことだ!

どうしたらいいんだ!

「ライさん…。私…世界樹に辞めてって頼んでみたい…」

「できるのか?りぼん…」

「ライさん辛そうだし。当たり前だよね。私はこの世界…本当はよくわからない。じっと閉じ込められてたけど。何が世界樹の機嫌を損ねて人々を殺そうとしてるのか判らない。

でも…自分の世界がなくなるのなんて辛いよね?私は死にたがりで…元の世界が嫌だった。帰りたいとも思わない…。こっちに来て初めてライさんが優しくしてくれた。人の暖かさを知った。

……私もここで生きたい」

「りぼん!!生きたいと言ったな!!?」
俺は思わずりぼんの細い肩を掴んだ。
りぼんはボロボロ泣いた。

「うん!は、初めて私こんなに生きたいと思えた!!ここがとても空気が良くて綺麗な場所だからかな?思考がクリアになる!世界樹の力なのかもしれないけど!………でもライさんが辛いならきっと世界樹の方が間違ってる!
私頑張って世界樹と話してみる!」

「そうか…ありがとう!りぼん!世界を救えるのはやはりりぼんだけだ!君は本当に聖女なんだ!兄上が酷いことをしてすまない!」

「ライさんのせいじゃないでしょ?……それより食べよう!なんだか私変なの!とてもお腹が空いたの!普段ならそんなに食べたいと思えないのに!」

それも世界樹の力か!?俺達をここで暮らさせようと…。楽園か…。

「判った…食べようか」
と俺達は食事についた。
一口スープを飲むと

「ぐあっ!!美味い!!なんだこれは!!」
物凄い美味しかった!!ひい!世界樹め!こんな美味い料理をだしてますます俺達をここに置いて子孫を作らせる気か!!?
新人類の始祖として俺達をまんまと利用する気だ!

りぼんはもはや物も言わずに食べている。
こんなりぼんは初めて見た!大丈夫か!?世界樹の洗脳でもされていたら…。

お腹がいっぱいになると勝手に皿が浮いて片付けられていく。精霊の仕業か。するとりぼんはまた引っ張られるように浮いて移動し始める!

「りぼん!!どこに!?」

「わかんないいいい!?」
しかし寝室に連れて来られただけであった。俺も一緒にいれられなんと鍵をかけられた!!
りぼんがベッドを見て赤くなった!!
まさかここで世界樹の思惑通り子作りに専念しろというのか!?

いやいや流石にいい加減にしろよ!!
と言っても休まないといけないし!!
しかし手を出すわけにはいかない!
世界樹の思惑に乗ってはダメだ!

「りぼん…ベッドを使ってくれ。俺は床でいい」
ここには少し広めのベッドがあるがソファーなどは無さそうである。

「そんなっ!床なんて!ライさんは王子様でしょ?そんなことダメだよ!」
うぐっ!!

「やめてくれ、りぼん。これは世界樹の誘惑なんだ!判るだろ?君と一緒に布団に入ることはできない!」
と拒否すると悲しそうな顔をして

「なら私が床で寝るよ!私庶民でしょ?王族を床で寝かせられない!」

「バカ!りぼんはまだ完全に治っていない!硬い床で寝かせられない!」

と押し問答が続く。これでは夜通し寝れないではないか!
仕方なく俺は折れた。

「よし判った!とりあえず同じベッドで寝よう。しかし俺は手を出さない。絶対にだ。りぼんとその…添い遂げるのは俺の世界が平和になってからだ!!」

「わ、判りました…」
とコクリとりぼんはうなづいたが何か顔を赤くしてモジモジして俺をとろりと見つめている。

…それに俺もりぼんが先程から可愛く見えて仕方ない!!うぐううう!!ま、まさか!あの料理に媚薬みたいなものでも入っていたのか!!?くそ!やられた!世界樹め!!やりおる!!

いやいや負けないよ!絶対に俺は耐えて見せる!!舐めるなよ!女経験歴ゼロの俺を!!なんだかんだとモテたがかわしてきた!

とりあえずベッドに入りりぼんもスルリと入る。好きな女性が隣にいるということに反応しない男はいない。くそっ!俺は負けるかとりぼんを背にして目を瞑った!

朝まで耐えてやる!!
世界樹この野郎!お前ほんと覚えてろよ!まじ!許さないからな!

しかし…りぼんが

「ら…ライさんどうしよう…」
後ろから泣きそうになる声がして思わず

「どうした?何か問題でも?」
トイレか!?

「ライさんが凄くカッコいい!!いやいつもカッコいいんだけど今日はなんか倍くらい素敵!!何か凄いキラキラオーラが視えるの!エフェクト盛り盛りだよ!!」

「りぼん…落ち着け!エフェクトとはなんだ!?これはさっきの食事に媚薬みたいなものが入っていたんだろう。なんとか我慢するんだ!世界樹の罠だということを忘れるな!」
と俺も必死で言う。

「うううう!そんなぁ!!何なのほんと!!ふううう!!手!手だけ!繋いでライさん!!」

「ダメだ!!繋いだらもうダメだ!!」

「えええー!?手だけだよ!?」
りぼんダメだからね?手なんかで終わるわけないだろ!?男を甘く見過ぎだし、俺ももはやこんな気持ちになったのは初めてだ。
頭おかしくなるほどりぼんが好きだ!正直言うとさっきからやらしい展開が頭に入ってくる!
しかしこれも世界樹のせいだと思い、耐えている!
負けるかーーー!!!邪念を振り払い無になれ俺!!

しかし先に負けたのはりぼんの方だ。

「も、もうダメ!!ライさん!!」
と俺の背中に抱きついてしまった!!
ひっ!!
好きな女性に抱きつかれ喜ばない奴はもう男じゃない!俺は耐えていたがもはや限界に近い。

「りぼん、ダメだから!が、がんばれ!!」

「ひいいっ…ライさん!ライさん!!助けて止められない!好きです!!」
ギャーーー!バカ!この状況で耳元で好きとか言うなって!!ひいいいい!!破壊力が!!

「くっ!!」
俺は起き上がり寝室の扉をガチャガチャ回したがやはりガッチリ鍵はかかり蹴破ろうにも何かの力が働いていてびくともしない!!
世界樹と精霊この野郎!!

りぼんはもはや恍惚になってこちらを見ている。そして俺があげたリボンを首に巻いた。

「ら、ライさん…こっちに来てくれないとわ、私死ぬから…」
と恐ろしいことを言い出した!!

「やめろ!もはや世界樹に洗脳されてるぞ!正気に戻れりぼん!」
すると今度は頭にリボンを巻いた。

「どうですか?可愛い?」
畜生!なんだこのハニートラップ!!
めちゃくちゃ可愛いに決まってんだろうが!!
耐えろ耐えろ!
俺は耐える!

「ライさん…好きです…好き!」
とりぼんはもはや正気を失っている。
瞳を見ると当たり前だが俺しか映っていない。

それに頭がおかしくなり俺も洗脳されそうだ!ダメだ!ここで負けては!!
しかしフラフラとベッドに近寄っていく。

可愛い。俺も好きだ。
しかしだめだ!というストップの心と葛藤している。もしかしてりぼんもそうなのかもしれない。判っているがなんだこの力は??

「も、もうダメだ…」

俺はリボンを抱きしめた。
痛くないだろうか?
少し離れると上目遣いという強力な武器で心を鷲掴みにされる。くっ!もってかれる!!(いや何がだよ!?)

自分で突っ込みつつも上目遣いを辞めない可愛らしいりぼんに俺はとうとうキスをした。

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