死にたい聖女がやってきた

黒月白華

第5話 見舞いに来るイケメン達

私…本名小園りぼんは目覚めてからここは天国だと思っていた。傷跡もないしとても柔らかいベッドにいるし、見慣れない天井に部屋…。
間違いない!死ねた!!
引きこもり生活ももう終了!
天国で楽しく…。

と思ってたら可愛い系のイケメン執事みたいな外人の男の人と私は目が合い、おかしいなと思った。コスプレ?
最近は外人のレイヤーが多いとTVで見た気もする。

まさか…私生きてないよね?死んだよね?
いろいろ聞いているとどうも訳の判らないことを男が言う。聖女とか異世界召喚とか。何その設定!?

男の襟首を持ち睨むんでいると扉が開いてメイドコスプレ女と赤髪碧目のイケメン騎士のコスプレ男が入ってきた。腰の剣…流石に模造剣だよね。よく出来てる。なんのキャラのコスプレかは知らないけど。

私が騒いだのでイケメン騎士に縛られて口布をはめられた。ヤバイ!初めて貞操の危機を感じた。外人に押し倒され恐怖だ。
しかももう一人もベッドに上がってくるし!

もしかしてこの部屋って何かの撮影スタジオか?思い当たるのは一つ!誘拐され、いやらしい撮影をされる!!しかも複数プレイ!?

と思っていたら今度は部屋に金髪碧目の王子様みたいな外人が入ってきた。やだ、カッコいい、タイプ。女の子なら一度は憧れるタイプそのもの。後ろにはまた外人の緑の髪と金目のエルフみたいに耳トンがってる人。おお、よく出来たレイヤー。

というかやはりそういう設定のAVスタジオに違いない!カメラはどこだ!?

金髪の外人が皆を追い出した。ああ、この人が最初なんだ!!と思いもう観念した。イケメンでタイプなだけマシ!撮られて売られて不特定多数の奴等に見られても…。

しかしこの王子スタイルの外人は声もイケボだし、日本語上手いし何から何までカッコいい!
私のベッド横に椅子を持ってきてそこに座る。
いきなり押し倒したりはしないみたい。
まだ設定のことを説明してるけど…口布を外してくれたし。シナリオの内容でも教えてくれるの?先程の外人達も日本語上手かったし凄いな。

でも真剣に話してるし最先端の技術を見せられた。魔法とか言ってた。ライトノベルかよ?と思っていた。でもそういう設定のAVシナリオでもうどこかにカメラが仕掛けられこれからのシーンが撮影されるのだと思うと泣けてきた。

名前を馬鹿にされ苛めに会い、それでも名前如きでと言われ続けた苦しさは誰も判ってくれない。彼等は私と違うから判って貰えないのだ。親を恨んだりもした。友達なんていない。
全部嫌いで何かを食べるのも嫌で私は痩せていった。

ある日もういいやと思い死ぬことにしたのだ。
気付いたら血が出ており気を失ったけど。

王子に名前を聞かれついに言ってしまった。
一気に喋って疲れた。


「そ、そうだったのか?辛かったね。しかしここでは君を笑う者もいじめる者もいないから」
王子はそう言ってくれた。
ちょっとときめく。
優しくされたから?同情かもしれないけど。

でもAVのことを知らないと言い、ここまでの流れでそれはないだろうと思った。AVも知らない男がこの世にいるなんて?絶対嘘だ!
初めて異世界なんじゃないかと思った。

何もしてこないし、食事を勧められて私の名前も言わないと誓ってくれるイケメンにクラクラした。

コスプレ入院施設?いや、聞いたことない!

少し様子を見て見ようと思った。
ライさんの言うことなら何か信用できるような気もしたけど…。

私はやはりこれが現実ならまだ自分が生きているなら死にたいと…そう思っていた。

それからは大変だった。



私はカールの双子の妹ジェシカ・エセル・ノース。聖女の身の回りの世話…主に着替えやお風呂など、男性が手伝えないことをやることにしている。借金まみれの我が伯爵家の為だ。我慢しよう。カールが聖女を誑かし結婚でもしてくれたら我が家はきっと話題になる!結婚したもの勝ちよね。カール頑張るのよ!それに私はあの王子様にちょっと気があるのよね。女なら皆王子様には憧れるし。もしも落とせたら王弟妃の座は私のもの!

聖女に食事を運び、カールがとりあえず目覚めた変態さを隠して優しく…

「聖女様…ほらあーんして?」
と甘い声でスプーンを持つが聖女が…口を開けようとしないのだ。

それどころか嫌そうだ。

「聖女様?食べてくれないと死んじゃうよ?いいの?」
とカールが言うとコクリとうなづいた。

「参ったなぁ?貴方に元気になってもらわないと…僕とても寂しいです…。元気になってまた僕を攻め…いや…少しずつでもいいから…お願いしますぅ!」
と懇願しついに聖女は口を開けた。
やった!
さっさと食えよ!!
と内心は思ったが、なんと聖女はゴホゴホっとベッドの上に吐き出した!!
ゲッ!!きったない!!
誰が掃除すると思っているのよ!!
カールも一瞬嫌な顔をしたけどすぐに元に戻った。


直ぐに神官長と王子が飛んできた。私は毛布を変えた。うえっ。

神官長はヒーリングを施し王子は心配した。

「まだ、胃が弱っているのかもしれません!ヒーリングともっと、飲みやすいものからとにかく水分を取らせましょう。吐きたくなるかもしれないけど…」
と神官長は言う。王子も

「ジェシカ頼む!もっと飲みやすいものだ!」
と命令され厨房に急いだ。その前に手を洗った。

「くっ!伯爵家令嬢の私がゲロの始末とか冗談でしょ!?聖女じゃなきゃ!…」
と言いかけ辞めた。王宮で誰が聞いてるか判らない。厨房に急いだ。


壁の影からあのジェシカと言う聖女付きの侍女が愚痴ってるのを聞いてしまった。
自分は王宮魔術師のアシュトン・レイモンド・ナサニエル・ブラッドショーだ。
自分も人の悪意で気持ち悪くなり吐いたことはあるから聖女が少し可哀想になった。

そっと聖女の部屋を通りかかりウロウロしてると聖騎士のパーシヴァルくんが

「魔術師アシュトン様。何か?王子ー、アシュトン様ですよー!」
と声をかけた!ひっ!
自分は別にそんなつもりではないと言うのに!
仕方なく入室する。

「アシュトンどうした?」

「あ、ああの聖女様の容態は?」

「ああ…聖女よ…ゆっくりでいいから食べてほしい」
それに聖女はうなづいた。
横の執事はプクーと頰を膨らませている。

「あの人は?」
と聖女が聞いた!!どうしよ!この世界に呼んだのが自分だと知れたら!

「王宮魔術師のアシュトン・レイモンド・ナサニエル・ブラッドショーだよ。彼が君をここに呼んだのだよ」
と言うと聖女は

「アシュトン・レイモンド・ナサニエル・ブラッドショー…貴様の名前覚えたからなっ!」
と睨まれた!!
ひいいいい!!

それに王子が

「ちょっ!待てよ!アシュトンの方が俺よりめちゃくちゃ長いのに何でそっちは覚えられるんだよおおおお!!」
と叫んだ。

「アシュトン・レイモンド・ナサニエル・ブラッドショーは私が死ぬのを邪魔したからとりあえず呪いたい」
と言った!!ひいいいい!!聖女様が自分を呪う!?

た、確かに自分だって知らない世界に突然呼び出されたらそいつを呪うかもしれない!!

「ご…ごめんなさいいいいい!!」
とりあえず自分は謝った。

「はい、落ち着こうね?一旦落ち着こうね?ほらスープが届いたよ。これなら少しずつでも飲めるね。よし俺が飲ませてやろう」
と侍女からスープを受け取る王子。

「ライさんが!!自ら!?」
聖女は驚き、照れて侍女はプクーと頰を膨らませた。

「ああ、嫌ならジェシカに…」
と王子が言うと聖女はモジモジしつつも

「ライさんがいいな…」
と言う。
王子は子供を見るような目で聖女に笑いかける。貴方それ自覚してないですよね?王子の微笑み…恐ろしい破壊力です!
側にいる侍女ジェシカの魔力も乱れ出してる。
彼女は王子が好きなのだろうか。

「ふーふー…熱いから気を付けて」
と王子が冷ましたスープを聖女が食べた。
さっきまで食べようとしなかったのに!まるで雛鳥に餌を与える母鳥だ!!
スープを全部飲み干した聖女に王子が

「よくやった!聖女!このスープは回復への一歩だな!」
と褒めた。聖女は自分を手招きしたから側に行くと

「アシュトン・レイモンド・ナサニエル・ブラッドショー…手を出して。両手で救うように」

「?は、はい…聖女様」

言われた通り手を差し出すと聖女様が

「うっ…うええええええ!!」
と自分の手の上にスープを吐き出し、収まりきれなかったものが溢れた。自分の目は濁り泣きたくなった。

全員この光景を無言で見ていた。

王子が気の毒そうな顔をして

「やはり…最初からは無理だったか…聖女も無理して飲まなくてもいいのに」

「ごめんなさいライさん……つい…あ…アシュトン・レイモンド・ナサニエル・ブラッドショーごめん。暇そうだったから…こっちにビニール袋もないし…」
ビニール袋がなにか判らないが袋の部分は自分にも判る。つまり自分は受け皿だと。
王宮魔術師で随一の魔術を誇る自分が聖女のゲロの受け皿!!

侍従のカールが

「大丈夫ですかぁ?アシュトン様ぁ?(ぶっ、マジ笑えるこいつ何しにきたの?だっせ!)」
という心配と反対の黒い声も小さく聞こえて自分はショックで泣きながら

「ぶああああっ!!」
とゲロを持ったまま廊下を走っていった。

「アシュトンーーーーーーー!!!!」
王子が叫んだが自分はしばらく引き籠った。

          

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