悪役令嬢は断罪され禿げた青年伯爵に嫁ぎました。

黒月白華

第22話 春の季節と恵み

長い冬がとうとう終わりを迎える頃…何と…旦那様の後頭部の禿げに髪が生え出した!!
これには屋敷中の使用人が歓喜した!もう笑う者はおらず

「旦那様!良かったですね!!新芽のように育つと良いですね!!」
とジョルジュが言うのでアグネスさんとディーンさんは揃って肘鉄を喰らわしていた。

ローレンス様は照れ

「いえ、セシリアさんが来てからストレスをほとんど感じなくなったからきっと彼女のおかげかと!」
と私にお礼を言うから照れる。

「ローレンス様…」
と見つめ合うとアグネスさん達もそっと席を外すことが多くなる。

そう言えば髪が生えたら子作りの約束をしていたような気がするけど今更恥ずかしくて堂々と言えない。どうしよう…。
今や私はローレンス様が大好きになっているけどこの冬は顔を合わせるだけで幸せ過ぎだったもの。
その先なんてまだ考えられない…。

どうしようかと思っているとローレンス様が紅茶を入れてくれ

「春になるとアグネスさんは…旅に出てしまい、足が治ったリネットさんが戻ってきます。…エルトン王子は狼に頭を酷く噛まれたことで記憶が混濁しており何故かセシリアさんのことをすっぽり忘れてしまったと陛下からの手紙にありました」

「そうですわね…そんな都合よく忘れていただけるなんてもう奇跡としか思えませんわ。…ローレンス様の髪も生えてきましたし…」

とカップを置く。
ローレンス様はテーブルを挟み私の少し冷たい手を温めるよう握った。手を握る習慣は毎日続いていたけどローレンス様からは結構珍しくドキドキした。

「セシリアさん…あ、あのう…僕とのあの例の約束…子作りのことは…セシリアさんの気持ちが固まるまで僕は待ちます。何年でも…ぼ、僕は地味なんですが…い、一生懸命貴方に好きになっていただけるよう頑張りますから至らない点があれば仰ってくださいっ!」
と赤くなりペコペコ頭を下げる。
どうしよう。別にない。むしろ好き。

むしろ前に一度キスをしたけどあれからいつもの挨拶の頰にキスと手を握ることしかやってないので夢かと思われているのかも。王子のドタバタもあったし。
そもそも私の気持ちを伝えなくては。
で、でも伝えてしまったら…どうなるのかしら?

「ローレンス様はこの家に来た時とは見違えて元気になられましたわ。私1人のせいだけじゃありませんわ。ローレンス様自身が頑張られた結果ですもの!大勢の前で喋ったりダンスも間違えず踊れたし、領民達とも仲良くなって…禿げまで完全に治ったらローレンス様もおモテになられるかもしれませんわ…」

「ええっ!?僕なんか髪が戻ってもただの地味な男です…。まだまだ伯爵としても情けない限りですよ?セシリアさんがいないととっくに僕はダメになっていたし…」

「そんな…私もローレンス様と出会えて本当に良かった。結婚できて良かった…。寝所は共にしたことはなくとも…充分幸せですわ…」

「セシリアさん…」
と手を握る強さが少しだけ増す。
変な汗をかいていないかしら?

でもこれだけは伝えないと!

「ローレンス様…遅くなってすみません。私…私も貴方様をお慕いしております。これからは私ローレンス様の言うことならなんでも聞きますわ」

「そそ、そんな…僕こそセシリアさんの言うことは何でも聞きますよ!!そ、それに僕のことを想っていただいたりして光栄です!ありがとうございます!!」
とローレンス様は赤くなりつつもお礼ばかり言うからおかしくなる。

「うふふ。ローレンス様…では今してほしいことはありますか?」

「セシリアさんこそ…」
と2人でドキドキ見つめ合う。

「一緒に言いましょう」

「は、はい…」
と顔を近づけると至近距離で

「せぇの!」
と共にお互い顔を寄せ答える代わりにキスをした。
とても優しいキスをしばらく交わし離れるとお互い赤くなり言う。

「セシリアさんと毎日…こうしていたい…」
絞り出すようにローレンス様が良い。

「私も…ですわ」
と何とか言うとローレンス様は一層赤くなり

「ああっ…僕にこんな日が来るなんて!本当に何というか僕でよろしいのか、これは本当に現実なのでしょうか?」
とおろおろつねったりしている。

「落ち着いてください。現実ですわ!…そうだわ、今日から寝所も共にしましょう?」

「えええっ!?ししし寝所…も!?」
とびっくりしもはや赤いところがなくなるまで全身真っ赤になって聞き返すローレンス様。

「うふふ、夫婦が共にしないのはおかしい話ですわ。今日から一緒に眠る練習をしましょう?別にまだ子作りはしなくても良いのですよ?ただ側で眠りたいのです。もう1人は寂しいですわ」
と言うとローレンス様は

「ああ…僕また緊張で禿げてしまいそうです…」
と言うからまた笑う。

「うふふ。禿げていてもローレンス様も好きですわ!」

「!!セシリアさん!!ほ、本当に?」
と言うからコクリとうなづくと嬉しそうな顔をしてローレンス様は私の銀の髪を耳にかけて優しく頰を撫でたので私は返事の代わりに微笑むとお互いにまた顔を寄せたのだった。


春になりアグネスさんは旅支度を始めリネットが戻ると入れ替わるように出て行くことになる。

「弟を探す旅に戻ります…。旦那様…奥様今までありがとうございました!!」
と頭を下げて別れの挨拶をしているとダダーっと走ってくるジョルジュは荷物を抱えて

「旦那様!!ご、ごめんなさい!お暇をください!!じょ、女性の一人旅なんて危険です!俺がアグネスさんを守らないと!」
と言うのでアグネスさんは驚き

「何を言ってるんですか?また腹を殴りますよ?」
と言うとローレンス様は笑い

「まぁ、いいよ。ジョルジュはアグネスさんに殴られるのがどうも好きになったようだから」
と言うとジョルジュはちょっと嫌な顔をした。

「ええ?そ、それはちょっとなんか俺が特殊な趣味してるみたいで嫌なんですけど!?」

「あら?いつも殴られているから私もそうなんじゃないかと思っていたわ?」
と言うとジョルジュは

「奥様まで!そりゃ奥様に殴られたらちょっと幸せかもしれませんが!」
と言うとアグネスさんが渾身の一撃でドスンと重いものを喰らわしジョルジュはまた魂出そうになりながらもアグネスさんに首根っこ掴まれ

「それではお世話になりました!皆さん!!」
と頭を下げてズルズルと荷物とジョルジュを抱えてパワフルに去って行った。

リネットはもう少ししたらニールと結婚式を挙げるし、お兄様達も結婚式を挙げるとの連絡がこの前来たのでローレンス様とお祝いはどうしようか悩んだり、また領民達とも春のお祭りの準備などでてんやわんやしている。


そんな忙しい日々だけど夜は一緒に何もせずに眠る事がすっかり板についた。ローレンス様の髪はもう禿げていない。きちんと綺麗に生えて今は普通になってしまったので少し禿げが懐かしいとボヤいたら

「折角元に戻ったのに寝ている間にむしっちゃダメですよ?」
と焦るのが可愛く思えてお休みのキスをする。

「今日もお疲れ様でした。セシリアさん…」

「ローレンス様もお疲れ様ですわ。明日もお祭りの準備ですか?」

「ええ…領民達も祭り開催では美しい旦那様の奥さんが見れるとはしゃいでいますよ?まるで女神扱いです。セシリアさんは…」
とちょっと頰を膨らませた。

「セシリアさんは僕の…い、いや何でもないです!お休みなさい!」
と布団を被って顔を隠すから私は続きが聞きたくて

「僕のなんです?」
とグイグイ布団を引っ張る。
すると恥ずかしそうに目線を彷徨わせ

「ううっ!セシリアさんの意地悪!こ、こんなとこで言えませんよ。貴方に手を出してしまう…」
と流石に困っているので

「ま、まぁ…ローレンス様…も、もう手を出しても構いませんのに…私逃げませんわよ?」
と言うとローレンス様は

「!!」
驚いてこちらを見てバッチリ目が合った。
慌ててまた布団を被ろうとしたけどそれを私は止めて…

「ローレンス様…観念なさってください!」
と言うと恥ずかしそうに

「はっ…はい…。セシリアさん…どうか僕の…僕のものになってください!」
と言い私は優しく包まれたのだ。


結婚式・祭り・結婚式・夜会といろいろ慌ただしく過ぎていく中、伯爵家の庭も綺麗な花が咲き…そして夏が来ようとしていた。

庭から少し離れた所に芝生があってそこに敷物を敷いて寝転ぶと気持ちが良い。
最近疲れていたから旦那様も一緒に寝転んで昼寝した。

「ローレンス様…幸せですか?」

「はい…とても」
ローレンス様は私の膝の上で目蓋を閉じて眠りかけている。

「実は私お子ができたかもしれません」
と言うといきなり起き上がり驚き

「ええええええ!!!」
と叫びおろおろしだした。

「いや、まだ医者に診て貰わないと判りません。ただの勘違いかも…」
と言うとローレンス様は

「い、医者を呼んで来ます!直ぐに!!あっ!」
と滑って転びよろよろしながらかけていく。大丈夫かしら?
また心配をかけてしまい禿げないかしら?とちょっと思ったけど彼なら禿げていても構わないと思うくらい好きなのだから仕方ない。

最初は禿げた旦那様に嫁いだけど
これからも幸せな家庭を築いていきたい。

          

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