魔族の地に追い払われた聖女は貧乏吸血鬼一家に飼われる

黒月白華

エピローグ

数ヶ月後にタカエのお腹は大きく膨らみ出てくるのが待ち遠しい。リッちゃんとサオリの間にも子共ができていた。

「リッちゃんが父親か…。厳しそうだな」

「…サオリンの両親にも見せてやりたい。俺は何とか産まれるまでに魔術を極めて鏡越しにだが見せてやりたいと思う。上手くいけば会話もできるように…」

「それ、聞いたらタカエも喜ぶよ!頑張って!リッちゃん!」

「ああ。お前は領主の仕事をしろ。まだ村も出来たばかりだしな。やる事は山ほどあるぞ。俺は手伝わんがな」

「ひえ!なんて悪魔だ!」

「やめろ。俺は人間だ!!」
と言いつつリッちゃんは頑張って部屋に篭ってしまった。

書類の山や村への視察も俺1人かよ!!しくしく!

タカエ達妊婦に気遣いつつ、俺は代わりに家事をした。元々従者がいないような家で俺は手先が器用だったが、リッちゃんはダメだ。
元々リッちゃんは人間の国で貴族か何かだったから何もできねえし。
魔術だけは優れているが体力はねぇし好き嫌いも最初は多かった。
サオリの作ったものしか口にしなかった時もあるくらいだ。あの頃は警戒して魔族もあまり信用してなかったのだろう。

今は口汚いのは相変わらずな奴になったが本質は優しくなったとは思う。

「リッちゃんいつもありがとう…。家事や村の視察とかは俺1人でも何とかやるさ。リッちゃんはとりあえず引きこもってていいよ」
と優しく声をかけてやると

「気持ち悪いな!段々と気持ち悪さが増してきたな!お前もしかして老けたんじゃないか!?」
と言われて

「なんだっぺ!?老けてるわけねぇべ!俺はタカエが言うとこのイケメンだべ!美形だべ!!失礼なこと言うでねぇべ!!」

「じゃあお前一体今何歳なんだよ!?あ?このじじいが!!」
と痛い所を突かれる!
吸血鬼や魔族の寿命が長いのをいいことに。時々突かれるこれ!
タカエにだって言ってないというかもう自分の年齢なんか気にしてる魔族はあんまりいないつーのに!

「リッちゃん酷い!俺はまだ若い吸血鬼だべ!」
と言い合い相変わらず仲良く?過ごしている。

タカエに俺の歳のことを恐る恐る聞いてみたら

「見た目がそんなに若いしカッコいいから気にしたことなかった…。でも人間で言う所の19~20歳を少し超えたくらいに見えるよ」
と言ってくれたからタカエを抱きしめた。

「きゃあ、お腹の子が潰れる!」

「ああ、ごめんごめん!タカエが俺のことをカッコいいとか言うから!」

「え?カッコいいし実際…」
とキョトンとした。タカエのお腹を撫でて

「おい、俺はカッコいいらしいから安心して産まれておいで」
とお腹の子に話しかけた。


それからしばらくしてタカエは子供を産み落とす日になった。とても苦しそうな声が聞こえてきた。

しばらくしてオギャアと泣き声がして家族達は喜んだ!!赤ん坊の顔を見るととても小さな命がそこにあった。女の子だった。

それからリッちゃんは宣言通り鏡を通してこちらとあちらを繋ぎ…タカエは両親と会話をして子供を見せたりした。最初は驚いていた両親達は変わったタカエも受け入れていつまでも会話した。俺も参加したので

「ギルさん、貴恵をよろしくね!!ありがとう!タカエが幸せに暮らしてると解って良かった!」
と涙した。定期的に連絡し合いリッちゃんは疲れていたが頑張ってくれた。リッちゃんにも何かプレゼントしようかな。また気持ち悪いとか言われそうだけど。

産まれた子はリリカと名付けた。お祖母様はでろでろにひ孫溺愛を始め、なんかおもちゃいっぱい買ってきて焦った!使いすぎだ!!

「リリカや、ほら…魔界で子供に人気の可愛いお人形だよ?ここのスイッチを押すと目が光ったり髪が伸びたり奇声をあげたり、関節が変な風に曲がって首を回転させながら不気味に笑うよ」

『ケタケタケタケタ…お前ら皆●●!』
と赤い血のような汁を垂らす機能までついている最新の人形だった。
タカエは慣れなくて悲鳴を上げかけた!
怖いって言っていたからお祖母様は凹んで、俺がチクチクと縫った普通の一角兎人形をプレゼントしたらリリカは喜んで笑った。
母上もニコニコと意味の判らない壺を買ってきた。これを飾るとスクスク子供が育つとか騙されて!父上は子供の棺桶ベッドとかまだ大きくならなきゃ着れないようなフリフリの可愛い服とかも買ってきた。未来投資と言ってその金をどこから手に入れたのか怖くて俺は震えた。リリカが大きくなったらその服は流行じゃなくなるべ!

だから!金をたくさん使うの辞めろーー!!
これからも貧乏一族は苦労するが幸せに生きて暮らして行こうと思った。

先日魔族の画家を呼び、家族の絵を描いてもらった。その絵は売らずに飾る事にした。

絵の中の俺達も幸せそうだ。
リッちゃんやサオリが亡くなる頃…俺たちはとても悲しんだがリッちゃんはちゃんと自分の息子に引き継ぎを頼んでおいたし、最期に俺に

「くそギル…元気でな」
と掠れた声で言い、拳を上に振り上げたので俺はそっとそれに合わせて


「リッちゃんお疲れ様…こんなシワシワ爺になっちまって…」
と言うとリッちゃんはフッと笑い

「じゃあな…」
と拳がパタリと落ちて、眠るように皆に囲まれて逝った。その晩リッちゃんをお墓に埋葬した後、俺は1人地下に籠り朝中泣いた。リッちゃんが年老いても俺たちはずっと憎まれ口叩いてきた。
人間の友達の死を前にして俺が出来ることは無かった。

その後リッちゃんの息子達が代わりに仕えてくれたりしたが、こいつらのことも俺達にとってはもう家族同然だった。血を提供するのが面倒になったらいつでも人間の国やいろんな所で自由に暮らしていいと言ってある。

しかしリッちゃんの息子の長男のオリオンは笑って

「旦那様に代々仕えることを父は望んでおりました。父上からたくさん魔術も学びましたし…」
とオリオンはそう言う。
オリオンは魔族の女の子と結婚しているが、人間のままで、オリオンの子供も18歳くらいに成長していた。反抗期が遅く無口で部屋で魔術の研究をしているらしい。

リッちゃんの息子の次男のカースはだいぶ前に人間の国に行ってそこで暮らしている。手紙では宮廷魔術師になったとか聞いた。

異世界のタカエ達の両親もとっくに亡くなりその時はタカエも塞ぎ込んでいた。

サオリが亡くなった時もアユカが逝った時もだ。人間とはいつか別れなければならないが、繋いでいくものもある。オリオンやその子供達…転々と引き継がれ俺達はやはり家族だった。

いつか若い頃に描いてもらった絵をぼんやりと眺めていたらタカエがやってきて隣に座り頭を肩に乗せた。

月が少し昇って今は夜だ。
上から軽快なピアノのリズムが聞こえてきた。

「タカエ…ラジオタイソウだな!」

「そうですね。モーリッツさんも沙織さんもきっと天国でやってますよ!」

「そうかな…」

「さぁ、私達も!」
とタカエに手を引かれ家族の元へと向かった。
フランツは最近大人の姿になり妖精族の女の子のお嫁さんを貰った。近くに家を建て住んでいるがラジオタイソウの時間になるとうちに来て嫁さんとタイソウするようになった。

俺とタカエも今日も一緒にタイソウした。
在りし日の飾られた絵の中の俺達はまるで楽しそうにそれを見ていた。

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