魔族の地に追い払われた聖女は貧乏吸血鬼一家に飼われる

黒月白華

初めての大金におかしくなる長男

俺はフランツと人間に変身してとりあえずノートと言うものから紙を何枚か千切り、タカエに

「んじゃ、売れるか判らんが人間の街で売ってくる」
と皆に見送られる。

「私の制服も足りなかったらいる?上着脱ごうか?」
と上着を渡してこようとするタカエ。

「いや、タカエ…貴族には太った奴等はいるだろうが市井の者は皆痩せているからな。貴族には売れるだろうがややこしくなるから服はまた考えよう」
と言いとりあえず俺とフランツは霧になりさぁっと人間の街を目指した。

「ギル兄さん…この紙いくらで売れるかな?」

「人間の商人はケチだと聞くからなるべく高く売りつけるんだぞ!」
と言う。せめて屋敷が建て直せれるくらいになればなぁ…。無理かぁ。
こんな紙だもんなぁ。いくら紙が高級だろうとなぁ…。

ノートとか言うのはそんなに数がなかったような。それを数枚破ったくらいでうちの財政が建て直せれるわけがない。

と商会に向かった。



ロルバッハ商会。この街で大きな商会だ。
人間のフリをして中に入る。そこら中人間だらけだ。フランツは少しだけ怯えて俺の服の裾を持つ。

「どのようなご用件で?」
と従業員ぽい男がやってきた。

「ええと…珍しい紙を手に入れたからルートは明かせないが売りたいのだ…」
ととりあえず商談を持ちかけ

「ではこちらの商談室にてお待ちくださいませ」
と部屋に通され給仕のスラリとした女性がお茶を置く。当然手をつけない。フランツは女性を餌的な意味でチラチラ見ていた。

「おい!フランツあんまり見るんじゃない!!」
とボソボソ言うと

「だって…人間の女だよ?血が…」

「ダメだって!我慢しなさい!昨日いただいただろう?タカエから」

「う、うん…まぁね。あんなに栄養があるとは思わなかった。タカエと比べてどうかなって思っただけ」
すると眼鏡をした男が入ってきた。

「どうも、珍しい紙を手に入れたそうで…貴方は?」

「ええと…ビーンズと申します。なんて言うかお金が必要でして…こっちは弟のハーメルンです!」
と偽名を使う。

「えへへ…よろしくお願いします」
とフランツが言うと男は

「クレーメンス・ゲーアノート・ロルバッハだ。ここの商会の会長をしておる。早速品を見せてくれ。ゴミなら買えないがね」
と言い持ってきた紙を取り出して見せた。
するとクレーメンスは目の色を変えた。

「これは!!何という白さ!!それに薄く付いている線はどういうことだ!?珍しい!しかも表面はとても綺麗な仕上がりだ!

…どんな製法をしたらこんな風になるんだ!?ううむ!こんな紙見たこともない!!美しい!!書くのがもったいないほどに!

君これを何処で?」
と興味を持った!

「いや、旦那、それはちょっと言えない。そういう約束なので」
と言うとむむっと考える顔して金額を計算し出した。

そしてヒソヒソと言い合って

「では…な、何とかこれで一枚お売りくださるかな?」

「え?一枚?全部売りに来たんだけどお金なくて」
とフランツが言うと

「も、申し訳ないが今金庫にこれしか無いんです!!また来週来てくれんかね?金を用意しておくから!!」

と言いとりあえず1枚分の金を受け取る。小銭かと思ったらズッシリ重い!!
見たらなんと大金貨がビッシリ入っていた!!

「ぎゃっ…」
と叫びそうになるフランツの口を塞ぎ

「ははは!それではまた来週来ます!ありがとうロルバッハさん!」
とフランツを連れ俺は一目散に付けられてないかを確認して狭い路地裏に入り込み霧になり直ぐに家に帰る。


バン!と壊れるくらいの扉を開き帰って叫んだ!!

「ぎゃああああああ!!!」
「うわぁぁぁ!」
フランツと俺は変身を解いていきなり訳の判らない興奮した叫びを発したので居間にいた皆がギョッとした。

「おいどうした!何があった!?いつも冷静なギルがぶっ壊れてるぞ!」
と父が心配した。

「どうしましょう貴方。病院はお金がかかるわ」

「その辺の草でも煎じて飲ませとくかい?」
とお祖母様も言うと俺はバンと大金貨の袋を置いた。皆赤い目が光る。

「ひいっ!」
とタカエだけ怯えた。

「1枚だよ…あのノート千切った紙1枚でこれだ!!信じられない!!タカエ!!お前の世界の紙は何なんだ!?」
タカエに聞くとキョトンとして

「ええ?あー、なんか異世界って紙とか高級とか言うの読んだことあったなぁ。悪いけど私の世界じゃこんなのゴロゴロある消耗品だよ?百円で買えるし」
と言う。ヒャクエンと言うのはいくらか判らない。

「ええとまあ、すごく安いってこと!庶民が誰でも買えるくらい」

「な、なんだと?そっちの世界でそんな庶民が買えるくらい安いものが…大金貨がこんなに!しかも1枚!!」
俺はもはやクラクラして倒れそうになった。

「わー!ギル兄上が死にそうだ!!大金貨の袋を閉じて!」
とフランツが叫び叔母さんが閉めた。
そしてそれを懐に入れようとしたから俺は叔母さんに叫んだ。

「てめっこら何してんだ!おいっ!ざけんな!この泥棒クソ叔母!!」
とついチンピラみたいな叫び声をあげ袋を取り返しフシューとか言い威嚇した。
この叔母さんちゃっかりしやがって!!

「はい、すぃまてぇんでした…」
と小さくなる。

「だがそれだけあれば…高級人間血が買えるのではないかな?魔界の王都の高級街のあのバカ高い店に売ってる…」

「人間の血は貴重だからねぇ」

「どうやって売られてんだろう…」
とタカエは青ざめた。

「ねぇ?これだけあるなら新しいドレスを新調しない?貴方…」

「そ、そうだなぁ…」
と話す両親に俺はキレた。

「うがあああ!おめっ、こん…ほんまっ!何言っとるんだバガめがああ!!」

「ぎゃあ!ギル兄上が変な田舎言葉使い始めた!!」
フランツが叫んだ。

「相当興奮しとるんだよ。無理もない。生涯でこんな大金見たからいつもうちの家計簿を見て胃をキリキリさせていたギルには刺激が強すぎてしまったんじゃ」
とお祖母様が言う。

「お前らに金渡すとロクなことに使わねっぺ!!特に母ちゃ!!ドレスなんてそんなもん一つあれば十分だべ!」

「ええーっ!さ、流石に一つってのは…」

「うっせえべ!誰も母ちゃみたいなんて見てねえつの!」

「うわーん!酷いわーー!こ、この金の鬼ーー!」

「ふん、鬼だべ!吸血の鬼だべ!!」
何言っとるんだこの母ちゃは!!全くドレスなんか男は何も興味ないべ!!

あんなのただの布のひらひらを縫ってくっ付ければできんべ!!俺がドレス作る!!」
ととんでもないことを言い出した俺に皆が

「ええーーっ!て、手作りドレスとかダサあ!!」
とかプロに頼めとか言い出したから

「ふざけんな!!職人に頼む金なんて勿体なくて使えっか!このバカもんがぁ!節約が命だべ!!いいな?この金は…まんずこの家さ建て替えるのに大方使って残りは節約すんべ!!」

「で、でも紙があるからまた売りに行けばねぇ?」
と叔母さんがまともなことを言ったが

「ばっか叔母さん!!そんな何度も何度も同じ街に顔出したら俺たちの正体がバレて殺されっぞ!!

人間たちが本気だしたら弱点だらけの俺たちは死んじまうわ!

ただでさえあの商会には夜の閉店間近を狙って行ってんだべ!昼間に来れないと怪しまれてみろ!家燃やされるど!!家どころじゃない!魔族の住むこの森も魔物も一気に火の海さあああ!!」
と力説したところで俺は一回バタンと倒れた。皆、固まり静まりかえった。

そして起き上がりようやく冷めた頭で

「この金は1番欲のないタカエに預ける」
とタカエに渡す。
タカエはへっ?と目が点になり

「えっ私?えっ!?うそっ!?」
俺はにこりと笑い

「タカエがいるから俺たちは生きていけるし余計な殺生もしなくてもよくなる!タカエの餌代も何とかなりそうだし!タカエ頼むよ!君は俺たちの救世主でありペットであり、なくてはならないものだ!!信じているぞ!!」
とポンといい顔で手を置いた。

「ああ…う、うんまぁ…わ、わかりました…。とりあえず私の食べるものとか着るものとかも欲しいんだけど?」
と言った。
ああ、忘れてた。まぁまた明日人間に変身して買ってくるか。

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