悪役令嬢は執事と婚約破棄の朝に巻き戻ります

黒月白華

番外編 闇落ち執事

ヨニー・フレードリク・フェルセンは男爵家の三男として産まれた。

幼少期…莫大な魔力を持ち、それを制御するのに必死で両親は僕に魔力を制御する魔道具を買った。高くて借金をした。

父や兄2人からは魔獣を見るような目で見られてどこか恐れられていた。
僕は…一生懸命たくさん本を読んだ。
たくさん勉強して魔力のことも勉強したけど…まだ幼い僕は魔道具があるから大丈夫だとたかを括っていた。


ある日…魔道具が故障していることに気付かなくて…兄が

「ヨニー…俺…明日から魔法学園に入学するんだ…へへ…やっと家を出て行ける。皆のことよろしくな?」
上の兄アルマンがようやく解放されるかのように明るい顔をしていた。次男エリクは

「いいなぁ…アルマン兄さん。僕も早く入学したいよ…」
とぼやいていた。
皆…僕の事を好きじゃないことは解る。いつも恐れた目でみている。大人でも難しい本を読む僕の事を気味悪がるし…メイド達は僕の噂で

「不気味な子よね…。可愛らしい顔はしているけど…本を読んでいる時は何か怖いの…。それに前にヨニー坊ちゃんの窓の下に黒い鳥が落ちて死んでいたわ」
と言う。黒い鳥か…ああ、召喚に失敗して死んだやつだと思いだした。後始末をしていなかった。

めんどうだな…。
なんだよ。
アルマン兄さんは嬉しそうに皆から入学祝いのプレゼントやらを貰っている。

そんなに僕から離れていきたいの?
誰も…誰も僕の事見てくれないの??
愛してくれないんだね?

何か感情も制御できず僕はガシャンと壊れた魔道具が落ちたのを父が見て

「ヨニー!!魔道具を外すなと言ったのに…」
その父の背後から黒い魔法陣が出現してシュッと父の首が飛んだ。鮮やかな赤が見えた。魔法陣はいくつも出来た。

制御出来ないし、怒りが僕を支配していた。

なんなんだよ?
うるさい!!
悲鳴が生まれ逃げ出そうとする奴は黒い恐ろしい魔獣達が喰い殺し母と兄達は震えて隠れた。

皆死ね!!
怒りが狂ったように暴れて僕は暴走していた。

同時に辞めろと言うもう一つの声もした。
そう…この日…もう1人の僕が生まれた。誠実で真面目で正しい事を言う僕…。

でも僕は止まらず屋敷の者を獣を使い皆殺しにした。最後に隠れている兄や母達を見つけた。

「ひ…!来ないで!!辞めてヨニー!!あ、あんたなんかやっぱり殺しておくべきだった!!」
錯乱した母は言う。

「くそ!ヨニー!何でだよ!!俺は…もうすぐこの家から出て行けると…お前から離れられると思ったのに!!」

「助けて!死にたくない!!ヨニー!許して!!」
と命乞いしたり悔しがったり睨んだり。


「あはははは!ひひひひひ!!母さん、兄さん達…僕の事やっぱり嫌いなんだね?震えて可哀想だね!!あはははは!!」
僕は笑いながら涙を流し壊れて行った。
気付くと兄さん達を魔獣達がガツガツと食べている光景をぼやんと見ていて…1人になると犬達も消え…
僕は屋敷に火を放った。
一人で外に出て証拠を隠滅した。

ゴウゴウと燃える火を眺めて泣いた。
皆僕が殺した…と譫言のように呟いて泣いていたら…父の学生時代の友人であるモーテンソン侯爵様に事情を話すと侯爵様は僕を受け入れてアンネットお嬢様の執事にしてくれた。

もちろん残忍な暴走をしたわけでなくコントロールが効かず暴走したと嘘をついた。

もしバレたらその時はこいつも殺してしまえばいいとさえ思っていた。

でも…美しいアンネット様にお会いしたら僕はそんなこと吹き飛んでいた。
こんなに綺麗で可愛らしい女の子は見たことがない。

うっとりと僕は惹かれていた。彼女に婚約者のアロルド王子がいて彼女が恋していることに落胆した。

僕は最初魔道具で魔力を制御していたけど、王立魔法図書館の書庫の禁忌魔法書が保管されている部屋にこっそり入り禁忌魔法を覚えていく。

あの黒い獣達が禁忌魔法である事を知った。最初から僕はそういう危険な存在だったのだ。
だから母達は恐れていたのか。

僕は次第に魔獣達を操れるようになった。コントロールに成功した僕はいつでも王子のことなんか殺せると思っていた。

でも…アンネットお嬢様がアロルド王子とカルロッタ伯爵令嬢と恋仲になって悲しみ怒り人を使い嫌がらせをするようになり、僕にもそれを命じた。可愛らしい嫌がらせだな。
僕なら殺してしまうだろうけど、お嬢様は嫌がらせ程度でいいのか。

「ヨニー!!ブロムダール伯爵令嬢の下着でも盗んできなさいよっ!!」
とお嬢様に言われる。お嬢様の下着なら歓迎なのに他の女の下着を盗めだなんて残酷です。お嬢様…。はぁ、好き。

僕の残酷な変態さも加速していく。盗めなかったらお仕置きが待っているし、わざとヘマをしたらいつもお仕置きされる。お仕置き部屋ではお嬢様と二人きりの時を過ごせるので僕はわざと失敗してお仕置きされる喜びを味合う。

鞭で打たれて痛がるフリ。幸せです。
もっと一緒にいたいけどもうすぐ卒業だし、王子が何か探っててアンネットお嬢様を卒業パーティーで断罪される計画を立てていることがわかった。

卒業したら…お嬢様ともう会えなくなるどころか、最悪娼館送りにでもされたらいろんな男がお嬢様の身体に触るなんて許せない。
こんなに僕の心に火を着けてアンネットお嬢様は本当に罪な人だ…。

卒業なんてさせない。永遠に僕のお嬢様を見ていたい。この恋が叶わなくとも…。
そして僕は…最大の禁忌魔法書を開いた。
そして…卒業式の前に寝ているお嬢様の部屋に忍び込み、時の魔法をかけた。
毎日巻き戻る魔法で、術者も次第に消えてしまう僕自身の命をかけたものだ。

腕に刻印が刻まれた。

これで僕が死ぬまで…お嬢様を見ていられる。
そして何度も巻き戻りお嬢様は泣いたり怒ったりして王子から断罪を受けたし、毎日家に帰ると旦那様に打たれて追い出された。

眠ったら全て同じ毎日を繰り返すことになるお嬢様。最初は戸惑っていたけど次第に慣れてきてうんざりして王子への恋心が覚めていくのを僕は感じた。

部屋で一人で荷物を詰めている時に

「なんなのよ!あの王子は!!憎らしい!!浮気しといてちょっと女に嫌がらせしたくらいで断罪とかあり得ない!!何であんなののこと好きだったのかしら!?」
と叫んでいたのを聞いた。
思わず笑みがこぼれ僕は嬉しかった…。
同時に僕の身体に異変が起きて胸の中心が透けてきている。まだ服で隠せる部分で良かったしまだ時間はある。

魔女の家で天球儀を貰ったりして、お嬢様は巻き戻りの犯人探しを犯人である僕とするようになった。

お嬢様と夜に街で隠れるあの家の者は事前に殺しておいてそこで僕が料理を作りお嬢様に飲ませたりして擬似的な夫婦みたいな真似事にドキドキした。

馬車で手を繋いだこととかも女らしく僕に次第に惹かれてくるお嬢様にも可愛らしく舞い上がったものだ…。
僕もようやくお嬢様が手に入りそうで…でも同時にここに来て罪悪感が酷く僕を襲った。
愛する人を騙したり、あんな脅迫めいた愛の告白をしてみたり…昔は変装して告白して振られたこともあったけど…全部自作自演する僕に気付かないお嬢様にヒシヒシと罪悪感が募るが一方でやはり残酷な僕も存在していた。

消えかかった身体を見て…消える前に自分で死のうと決める。

お嬢様と初めてキスをした時は天に昇るようで本当に死んじゃいそうだった。本当はその先を想像したが…服を脱ぐとこの刻印や消えかかっていることにも気付かれる。

もう少しだけ一緒にいよう。後少しだけ。

ごめんなさい。酷い事をして!怯えさせて!!
最期の日が来て…僕はやはり残酷な真実を告げた。
犯人は僕だと告白して刻印も身体も見せて更には目の前で忘れないように死んでやるとさえも言ったのに…アンネットは…

あろうことか自分から僕にキスしてくれた。

「酷いわ…私の心を弄んで死ぬなど。それなら私も一緒に殺しなさいよ!」
そう言う彼女が堪らなく愛しくなる。

「貴方を軽蔑して怖がり震えて恐るのを期待していたのかしら?…残念ね。ヨニー。私はどんな残酷な貴方でも好きになってしまったから…」
ともう一度キスされる。
信じられない。
こんな…残酷な僕でも…アンネットは初めて僕を愛してくれたんだ!

僕はアンネットの心を弄んだのに。
最後にキスを受け入れた後に
アンネットを突き飛ばした。

「きゃっ!!」

僕は黒い布を取り出してアンネットの目を隠しパチンと指を鳴らすと…黒い魔法陣で獣達を呼び寄せて命じた。僕自身を喰えと。獣達の唸り声が聞こえ、飛びかかられた。
血が舞い、こんなところ彼女に見せなくて良かった…。

「ああっ…お、お嬢様…アンネット…愛して…」
言えたのはそこまでで痛みも途絶えて暗い世界へ行く。

僕は愛していた。
ごめんアンネット…。もっと違う形で君とやり直したい。
もっと愛したい。ごめんね。アンネット。大好きだ。苦しめてごめん。僕が闇に落ちなかったら…君と未来を歩けていたかも。
途中で止めてくれたら……。

この罪と共に地獄に落ちるから…。
そして僕は完全に消えた。

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