悪役令嬢は執事と婚約破棄の朝に巻き戻ります

黒月白華

第11話 覚えてない執事

また朝が来た。
今日は何としてでもパーティーで皆を危険から守らないといけない。怖がっている心を封印してのそりと起き上がる。

制服に着替えて用意していると控えめにコンコンとノックされヨニーが顔を出したから一気に心拍数が上がる。
ヨニーは普通に

「おはようございます。お嬢様。ちゃんと時計もアルファ様が魔法をかけておいてくれたおかげで手元にありますよ」
と昨日貰った時計を見せてくれた。
ただ、貰っても巻き戻ると消えてしまうのでアルファ様に魔法をかけてもらったので時計も所有者と一緒に巻き戻ったようだ。

それにしても…ヨニーは昨日のキスのことはすっかり忘れているから私だけ恥ずかしかった。
もじもじしているとヨニーが

「お嬢様?まだ体調どこか悪いですか?ショックでしょうけど卒業式にも出席しないとです」

「わ…わか…判ってるわよ!!」
と言うとヨニーは不思議な顔だ。

「ヨニーは天球儀に光りを集めた後のことは覚えていないのよね?」

「?はい…何かありました?」
と聞かれドキンとする。昨日の愛の告白からのキスが記憶に蘇り私は赤くなり

「なっ、何にもないわよっ!」
と慌てると

「えっ!?どうしたんですか?お嬢様?なんだか変です。顔も赤くなり…やはり熱が?」

「違うわ!大丈夫よ!は、早く朝食を食べて出かけるわよ!今日はしっかりするから!」
と私は誤魔化す。

「はぁ…」

朝食の後、ヨニーと少しだけ早めに馬車に乗り込む。ヨニーに手を引かれ乗り込む時もドキドキして仕方ない。こらから酷いことが起こるかもなのに。

チラチラとヨニーが視界に入る。向かい合わせだし。
ヨニーは

「お嬢様?やはりちょっと様子がおかしいです。やっぱりあの後…僕の知らない時に何かあったんですね?」
と追及された。

「何もないわよ!普通に眠ったわ。貴方は床で。ほんと、何にも無かった」

「えー?本当ですか?嘘でしょう?様子がおかしい」
とジッと見られる。
もうやめて!

ヨニーはコインを取り出し

「裏が出たら正直に。表が出たら黙っていてもいいですよ」
と言い私が待ってと言う間もなく少し上に投げて空中でキャッチしコインの入った手を差しだす。

「開きますよ?どっちかな?」

「や!表表!!」

「やれやれ一体何を隠しているのやら?」
と言い開くと…コインは裏だった。
ヨニーは勝ったとばかりに

「さぁ!白状を!」
と言う。私は

「無理よ。言えないわあんなこと…」
と赤くなり恥ずかしがるとヨニーがなんだか照れた。

「………あの…まさか…僕はお嬢様に手を出してしまったのですか?」
と言うから焦る。

「そ、そんな…こ…と」

「や、やっぱり!わー!ど、どこまで!?ちょっと!お嬢様!」

「やだ!言えないわ!言えないわヨニーのバカ!思い出させないで!」
ヨニーはそれを見て確信したようだ。

「お嬢様…僕は何をしたのです?まさかそんな…お嬢様の純潔を奪ったとか…!?」
いやそれはない。

「そんなことされてないわよ!ヨニーのバカ!えっち!」

「ええ!?…ああ。でもそこまではしていないと…」

「辞めてよ!覚えてないならいいじゃない!」

「お嬢様だけが昨日僕が何かしたこと覚えてるなんて不公平ではないですか!」

「しつこいわねっ!話すまでもない事よ!!」
と言うとヨニーはしょげた。

「わ、判りました。何かしたようですけどお嬢様…ごめんなさいと謝っておきます。失礼な事したんでしょ?殴ってもいいですよ?」
と言う。真面目なヨニーだから何か無礼を働いたと思っているのね。

「……話せるようになったら話すから」
とだけ言って俯いた。

「はぁ…」
ヨニーは申し訳無さそうにした。


僕は何をしたんだろう。
今朝巻き戻ってお嬢様の部屋に訪れると彼女は僕の顔を見るなり赤くなる。
熱でもあるのだろうか?
昨日は体調を悪くしていたし、やはりこれから皆の前に出て行くことが気がかりなのかも。
酷い惨劇を見たし。

馬車で何かしたのかと追求してみると明らかに様子がおかしい。昨日天球儀に光りを集めてからは僕の記憶は無くなる。もう少し集めるのを遅かったら覚えていられたのに悔しい。
それにお嬢様の様子…まさか、昨日の僕はお嬢様に無理矢理あんなことやこんなことをしたのではないのかと想像して赤くなる。
もしお嬢様の純潔を散らすようなことをしていたらどうしよう!!

僕だって男だし同じ部屋にいる好きな女性に襲いかかっていたら!と気が気でない。
幻滅されたらどうしよう。
今日は犯人を何とか見つけねばならないのに。もじもじするお嬢様が可愛くて仕方ない。何したんだろう?
お嬢様だけ覚えててずるい。
話せるようになったら話すとお嬢様が約束してくれたので気長に待とう。グイグイ行ったら嫌われるかもと僕は我慢することにした。

いつしか憧れのお嬢様から一人の女性として大好きになってしまったし。もう僕の心は止められない。
馬車で二人でいると何となく恥ずかしい。


ようやく学園についた。
馬車から降りて惨劇の場面を思い出し足が震えそうになるけど…私達はカルロッタ様とアロルド王子の机に事の端末を書いた手紙を入れておいた。二人が信じてくれるか判らないけど。
手紙にしたのはまだ少し二人の顔を見るのがショックだったからだ。二人が死んだ場面を思い出してまた気分が悪くなり壇上に立てなくなったら困る。

卒業生代表の挨拶なんてもはやどうでもいいとさえ思うけど。私は何とか挨拶を済ませて卒業式は無事に終わる。この中に犯人がいる。
私の挨拶を聞いている者が。
人を殺しておいてどんな気分でこの場にいるのかしら?

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