死に損ないの私は孤独なネクロマンサーに拾われる
第17話 新しいお仕事
ヨハンナとは微妙な距離感の訳の分からない関係が続いていた。
いや、わかっている…。
原因は自分だと。
男としてダメなことも自覚している。
でもヨハンナにその言葉が言えない。
軽々しく言えないのだ!
まだ俺には心に傷があった。どす黒く醜いその傷…。
女達に好き勝手触られた…時には男もいたか。
その時負った心の傷。不用意に言われるその言葉。それにはただ欲望を満たす為だけに使われていた。俺はそれに壊されたのだ。
おぞましかった。何もかもが。あの言葉も全部俺には受け入れる事ができない。
『好きよ』
『好きだよ』
『愛してるわ』
『愛してる』
『私のもの』
『僕のものさ』
やめろ…辞めてくれ!もう辞めて欲しい!!
渦巻くその言葉が恐ろしい。
「…さん?」
はぁはぁと俺は目覚めた!!
「だ、大丈夫ですか?凄くうなされていました!汗もすごい!着替えを用意しますよ」
「す、すまない…」
と俺は青ざめながら応えた。
ヨハンナは直ぐに綺麗に洗濯した寝巻きを持ってきた。
「あ、ありがとう…」
「……いいえ、悪い夢ですか?」
「ああ、すまない。時々こうなるんだ…。怖くて堪らない…」
するとヨハンナは背中をポンポンとさすり片手で俺の片方の手を取った。
「大丈夫ですからね。落ち着くまでこうしていますよ」
「ヨハンナ…」
優しくて温かいヨハンナに頭が上がらない。
すると机の上が光り、そこに手紙が転送されてきた。
「こんな夜中に…」
と何とか起き上がる。
手紙を広げて読むと新しい依頼だった。
「依頼ですか?どうかしたのですか?」
「ああ…新しい依頼だ。……最近死んだ娘の死体を綺麗に保管しているから…魂を入れて欲しいってさ」
「えっ!?そんな事…」
「まぁ、できるさ。俺はネクロマンサーだからな…だが…かなり魔力を使う…。本当はこういうのはいつもはあまり受けないんだが…金の為だしな…仕方ない…」
と俺は考え出した。
ヨハンナがミルクを入れてくれた。
「でも…どうしていつもは受けないのです?いくら魔力を使うと言ってもお金になるんでしよ?」
「……器があるとな…入れた魂が生き返ったと勘違いしちまうんだ。長く身体に魂を入れていると危険だ。身体は死んでるから食事は食えない。だが、錯覚で食いたいと思うようになる。
両親は娘が生き返って嬉しいだろうが…身体は保って3日というところか。それを過ぎると腐り始め…また、魂が定着し魔物と化す。血肉を求めるグールみたいな化け物になってしまう…。その前に魂を回収し冥界に返す…」
と俺はヨハンナに聞かせてやると…
「まぁ…凄く大変そう…。なら私もついてっていいですか?どの道部屋に篭ってるだけなら外に出て3日の間買い物でもしましょう!街は嫌いだろうけど少しは慣れないと!」
「……っち!お前を一人にするとろくな事なさそうだ。安全に気をつけると約束できるんだろうなぁ!?」
と俺が睨むとヨハンナはコクコクとうなづいた。もう誘拐とかうんざりだぞ!?全く!
*
そうして数日後私達は死霊の馬車に乗りメイナード伯爵家に向かった。
屋敷は暗く沈んでいるような雰囲気だった。出迎えた老執事が案内し、私達は応接間でメイナード夫妻とお会いした。
沈んでいて私達が来ると歓迎した。
「私はスタンリー・エイブラム・メイナードだ。ようこそお越しくださった!ネクロマンサーどの!」
「ああ…」
と素っ気なくフードを深く被ったバルトルトが返事をする。全く愛想笑いでもできたらいいのに!
「娘は2日前に死んだばかりでまだ棺桶に入っておりますの…病気で苦しんでいて最後は私達も辛くて…娘がまた動いてくれるならこんなに幸せなことはありません!」
と妻のキャロライン・アグネス・メイナードは手を合わせた。
「言っておくが…3日だけだ。それ以上は俺も責任は取れない。3日経つと娘は化け物になる恐れがあるからお別れはその間に済ませておけよ?強制送還してでも冥界に魂を戻す」
「もちろんです!3日も娘と一緒に入れるなら本望!」
と旦那様が言う。その後前払い金額を半分いただいた。
娘の安置された部屋に通された。成る程、ここの主人は氷魔術に長けているようで部屋が寒い!!
「すみません。少々寒いのですが娘の体を保つために…我慢していただけると…」
「事情はわかった…では魂を呼び戻す儀式を行う…」
娘はまだ子供で年は10歳くらいだった。
「よろしくお願いします!!」
と夫婦は懇願する。
ヨハンナや夫婦を下がらせて俺は降霊術を行い更に娘の死霊の魂を身体に入れる作業をする。
『再びの時をしばし味わいたまえ!!ネクロマンサーの名の元に命ずる!!』
娘の魂がスウッと身体に入った。
そして閉じていた目がパチリと開いた。
「アンジェラ!!」
「ああ、アンジェラが生き返った!!奇跡だ!!」
と夫婦は喜んで娘を抱きしめた。
「おい、生き返ったんじゃない!動く死体だ!俺が言ったこと覚えてるよな?絶対に食い物を与えるな!水もだ!!わかったな?」
すると夫婦は
「ああ!わかっています!3日だけでも娘と一緒にいられる!ありがとうございます!ネクロマンサー様!!」
「お部屋は好きに使ってください!!夕飯も豪華なものを運ばせますわ!」
と奥さんが言い、メイドに指図していた。
俺とヨハンナは荷物を部屋に置き、買い物に出ることにした。
*
「わあ!!街ですよ!バルトルトさん!!」
見渡すと賑わう市場や珍しい異国の品も売っている。
「この前も行ったろ?」
「それは違う街ですから!!ここは向こうに海も見える港町ですし活気がいいですよね!!風も気持ちよく吹いてます!」
と私が言うとバルトルトはフードが風で飛ばぬよう押さえて
「寒い!海風は塩でベタつく!嫌だ!」
とブーブー文句垂れていた。
近くの海鮮レストランに入った。
海の男達が騒いで昼間から酒を飲み交わす人が多くいた。
私達はパエリアを注文した。
料理を運ぶ若い女の子がミニスカートでパンツも見えそうな格好で料理を置いていく。
海の男達が口笛を吹いて嬉しがっていた。
しかしバルトルトは不快らしく明後日の方向を向いて女の子が去るのを待った。
「大丈夫ですか?」
「ん…さっさと食おう。そして一刻も早くここを出るぞ!」
と女嫌いのバルトルトはパエリアを食べ出した。しかし慌てて食べるから喉に詰まったらしく酷く咳き込んでしまったので私は席を立ち水を持ち背中をさすりコップを渡した。
ゴホゴホ。
「もー、急いで食べるからですよ!」
「うう…」
と唸っていた。
「おや大丈夫ですかな?」
と通りすがりの中年男性が声をかけた。
白衣を纏ってあるから医者なのかも。
「ちょっと食べ物が詰まっただけですからお気になさらず…」
と言うと男性はフードを覗き込み
「あっ!!?お、王子!?」
と驚いて目を開いたのだった。
いや、わかっている…。
原因は自分だと。
男としてダメなことも自覚している。
でもヨハンナにその言葉が言えない。
軽々しく言えないのだ!
まだ俺には心に傷があった。どす黒く醜いその傷…。
女達に好き勝手触られた…時には男もいたか。
その時負った心の傷。不用意に言われるその言葉。それにはただ欲望を満たす為だけに使われていた。俺はそれに壊されたのだ。
おぞましかった。何もかもが。あの言葉も全部俺には受け入れる事ができない。
『好きよ』
『好きだよ』
『愛してるわ』
『愛してる』
『私のもの』
『僕のものさ』
やめろ…辞めてくれ!もう辞めて欲しい!!
渦巻くその言葉が恐ろしい。
「…さん?」
はぁはぁと俺は目覚めた!!
「だ、大丈夫ですか?凄くうなされていました!汗もすごい!着替えを用意しますよ」
「す、すまない…」
と俺は青ざめながら応えた。
ヨハンナは直ぐに綺麗に洗濯した寝巻きを持ってきた。
「あ、ありがとう…」
「……いいえ、悪い夢ですか?」
「ああ、すまない。時々こうなるんだ…。怖くて堪らない…」
するとヨハンナは背中をポンポンとさすり片手で俺の片方の手を取った。
「大丈夫ですからね。落ち着くまでこうしていますよ」
「ヨハンナ…」
優しくて温かいヨハンナに頭が上がらない。
すると机の上が光り、そこに手紙が転送されてきた。
「こんな夜中に…」
と何とか起き上がる。
手紙を広げて読むと新しい依頼だった。
「依頼ですか?どうかしたのですか?」
「ああ…新しい依頼だ。……最近死んだ娘の死体を綺麗に保管しているから…魂を入れて欲しいってさ」
「えっ!?そんな事…」
「まぁ、できるさ。俺はネクロマンサーだからな…だが…かなり魔力を使う…。本当はこういうのはいつもはあまり受けないんだが…金の為だしな…仕方ない…」
と俺は考え出した。
ヨハンナがミルクを入れてくれた。
「でも…どうしていつもは受けないのです?いくら魔力を使うと言ってもお金になるんでしよ?」
「……器があるとな…入れた魂が生き返ったと勘違いしちまうんだ。長く身体に魂を入れていると危険だ。身体は死んでるから食事は食えない。だが、錯覚で食いたいと思うようになる。
両親は娘が生き返って嬉しいだろうが…身体は保って3日というところか。それを過ぎると腐り始め…また、魂が定着し魔物と化す。血肉を求めるグールみたいな化け物になってしまう…。その前に魂を回収し冥界に返す…」
と俺はヨハンナに聞かせてやると…
「まぁ…凄く大変そう…。なら私もついてっていいですか?どの道部屋に篭ってるだけなら外に出て3日の間買い物でもしましょう!街は嫌いだろうけど少しは慣れないと!」
「……っち!お前を一人にするとろくな事なさそうだ。安全に気をつけると約束できるんだろうなぁ!?」
と俺が睨むとヨハンナはコクコクとうなづいた。もう誘拐とかうんざりだぞ!?全く!
*
そうして数日後私達は死霊の馬車に乗りメイナード伯爵家に向かった。
屋敷は暗く沈んでいるような雰囲気だった。出迎えた老執事が案内し、私達は応接間でメイナード夫妻とお会いした。
沈んでいて私達が来ると歓迎した。
「私はスタンリー・エイブラム・メイナードだ。ようこそお越しくださった!ネクロマンサーどの!」
「ああ…」
と素っ気なくフードを深く被ったバルトルトが返事をする。全く愛想笑いでもできたらいいのに!
「娘は2日前に死んだばかりでまだ棺桶に入っておりますの…病気で苦しんでいて最後は私達も辛くて…娘がまた動いてくれるならこんなに幸せなことはありません!」
と妻のキャロライン・アグネス・メイナードは手を合わせた。
「言っておくが…3日だけだ。それ以上は俺も責任は取れない。3日経つと娘は化け物になる恐れがあるからお別れはその間に済ませておけよ?強制送還してでも冥界に魂を戻す」
「もちろんです!3日も娘と一緒に入れるなら本望!」
と旦那様が言う。その後前払い金額を半分いただいた。
娘の安置された部屋に通された。成る程、ここの主人は氷魔術に長けているようで部屋が寒い!!
「すみません。少々寒いのですが娘の体を保つために…我慢していただけると…」
「事情はわかった…では魂を呼び戻す儀式を行う…」
娘はまだ子供で年は10歳くらいだった。
「よろしくお願いします!!」
と夫婦は懇願する。
ヨハンナや夫婦を下がらせて俺は降霊術を行い更に娘の死霊の魂を身体に入れる作業をする。
『再びの時をしばし味わいたまえ!!ネクロマンサーの名の元に命ずる!!』
娘の魂がスウッと身体に入った。
そして閉じていた目がパチリと開いた。
「アンジェラ!!」
「ああ、アンジェラが生き返った!!奇跡だ!!」
と夫婦は喜んで娘を抱きしめた。
「おい、生き返ったんじゃない!動く死体だ!俺が言ったこと覚えてるよな?絶対に食い物を与えるな!水もだ!!わかったな?」
すると夫婦は
「ああ!わかっています!3日だけでも娘と一緒にいられる!ありがとうございます!ネクロマンサー様!!」
「お部屋は好きに使ってください!!夕飯も豪華なものを運ばせますわ!」
と奥さんが言い、メイドに指図していた。
俺とヨハンナは荷物を部屋に置き、買い物に出ることにした。
*
「わあ!!街ですよ!バルトルトさん!!」
見渡すと賑わう市場や珍しい異国の品も売っている。
「この前も行ったろ?」
「それは違う街ですから!!ここは向こうに海も見える港町ですし活気がいいですよね!!風も気持ちよく吹いてます!」
と私が言うとバルトルトはフードが風で飛ばぬよう押さえて
「寒い!海風は塩でベタつく!嫌だ!」
とブーブー文句垂れていた。
近くの海鮮レストランに入った。
海の男達が騒いで昼間から酒を飲み交わす人が多くいた。
私達はパエリアを注文した。
料理を運ぶ若い女の子がミニスカートでパンツも見えそうな格好で料理を置いていく。
海の男達が口笛を吹いて嬉しがっていた。
しかしバルトルトは不快らしく明後日の方向を向いて女の子が去るのを待った。
「大丈夫ですか?」
「ん…さっさと食おう。そして一刻も早くここを出るぞ!」
と女嫌いのバルトルトはパエリアを食べ出した。しかし慌てて食べるから喉に詰まったらしく酷く咳き込んでしまったので私は席を立ち水を持ち背中をさすりコップを渡した。
ゴホゴホ。
「もー、急いで食べるからですよ!」
「うう…」
と唸っていた。
「おや大丈夫ですかな?」
と通りすがりの中年男性が声をかけた。
白衣を纏ってあるから医者なのかも。
「ちょっと食べ物が詰まっただけですからお気になさらず…」
と言うと男性はフードを覗き込み
「あっ!!?お、王子!?」
と驚いて目を開いたのだった。
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