死に損ないの私は孤独なネクロマンサーに拾われる

黒月白華

第13話 囮になります

バルトルトは勝手に村に来た私に心底怒っているがさっき頭を撫でてくれたし心配かけたのかもしれない。
殺人鬼は怖いけど…、ジッとバプティスト様の男爵邸で待っているだけなんて嫌だった。

「ともかくお前は村長の家にいろ!一歩も外に出るな!」
と苛々しながらバルトルトは言う。

「でも…早く犯人を捕まえて村の人達を安心させてあげたいですよね?犯人は茶髪の処女ばかり狙うなら私が囮になりましょうか?」
と言うとめちゃくちゃバルトルトが睨んでくる!!怖い!!

「お前はアホなのか!?殺人犯だぞ!?それにお前みたいな背の高い女は男と思われて襲われん!大人しく家に篭ってろ!!」
と言われて流石にムッとする。

「まぁまぁ…ヨハンナ様。バルトルト様は貴方が心配だと言っているのですよ」

「言ってない!一言も!」
確かに言ってない。

「わ、私だって茶髪だから少しは役に立つかと思ったのに…」
するとバプティスト様は困ったように

「残念ですが今回ばかりは…私もヨハンナ様の身の安全を考えると同意しかねますよ…。危険過ぎます」
と言う。

「………わかりました…。大人しくしておりますわ…」
と告げるとようやく二人は村長の家まで私を送る。そして…村長さんが出てきた。

「どうも…村長のジェフリー・シェパードと申します…」
と小太りのおじさんが出てきた。
そして奥から茶髪の綺麗な娘さんが現れた。
足が悪いのか木製の車椅子に乗っている。

「この子は娘のブリトニーでございます。この通り…足が悪くてね…」
と村長は言い…

「例の連続殺人でこの子も狙われるかもと思うと恐ろしくてね」
と震える。

「犯人は必ず捕まえてみせるから安心なさい」
とバプティスト様が言い、

「ところで例のモノは用意できたかな?」
と聞いた。

「例のモノ?」
と私が不思議がるとバプティスト様がクスリと笑い村長が女物のワンピースとカツラを用意している。
これは!!?

「ふふふ、いやー、ネクロマンサー様自ら女装をして犯人を捕らえるそうです!」

「えええっ!?」
驚きでバルトルトを見ると怒りでキレそうなくらい血管が浮いとる!!
そうとう嫌と見た。

「っち!伯爵様あ。こんなことをさせて…覚えてろ…報酬は倍にしてもらう!!」
と睨んだ。

そしてしばらく奥で着替えてきたバルトルトを見て恐ろしい美少女が出てくる。

「っち!あんまり見るな!!」

「「わー!可愛い!!」」
とバプティスト様と二人で褒めると

「てめえら…許さんからな!面白がりやがって!!」
と言い怒った。
それから二人は出かけていき私はブリトニーさんとお茶を飲むことにした。

「あの方は…ネクロマンサー様は貴方の恋人か何かでございますか?」
とブリトニー様が言うので私は

「まさか!何もありません!!まぁ、命の恩人ではありますけど…ああ見えて強いというか一応。ヒョロっとして青白い顔ですけど…」
と言うとクスリと笑われた。

「まぁ…お好きなのですね。お顔に出ていますよ?ヨハンナ様…」

「ええっ!!?まっ!まさか!!むしろ向こうが私に変なプロポーズはするし、かと言って別に何もないのだけど…」
と慌てると

「うふふふ、やはりですね。…ヨハンナ様は幸せ者ですね。私とは違って…」

「…ブリトニーさん」

「私のこの足…治らないし、義足も合うものが中々手に入らなくて…私も歩きたい…。この村の私と同じような髪の女の子は…皆楽しそうに恋人を作り結婚したり家庭を持てるけど…私にはそれができない。

「一生この車椅子の上…」
と言うと私を見た。
え?
すると何故かくらりと視界が歪み、身体が揺れる。
何?
まさかお茶に何か!?嘘でしょ!?
床に手をつき座り込む。

「あっ…くっ!まさか…貴方…」
すると口元を歪めて言う。

「でも…村の娘達は…処女で…」
と言うと…

「ふふふ…それは直接私が手を下したわけではないもの。私のペットがやったことよ」
と車椅子を翻し本棚の本を少し押すと隠し扉が現れて…扉から大きな男が現れ、顔にも醜い傷痕がある。

「彼はね…孤児なのよ。私が匿ってあげているの…。ふふふ。私の言うことなら何でも聞くのよ?」
とブリトニーは狂気の笑みを浮かべ

「ヨハンナ様…連続殺人犯が何故茶髪の処女を狙うかわかる?ふふ、私に欲情したこの子が私と思って茶髪の女を犯すの。もちろん処女を奪って殺すの。顔はその後潰すけど」
男がゆっくりと無言でこちらに歩いてくる!!

「ひ!!こ、来ないで!!」
まさかの殺人犯がここに…目の前にいるなんて…思ってもいなかった!!

ああ、どうしよう!怖い!!
バルトルトさん…助けて!!

すると…私の周りに黒いモヤが現れ取り巻いた!

「な、何それ?」
さらに足元の影からズズっと黒い人型のものが現れた!!

「きゃあ!」
私は驚き叫んだ。

「バケモノ!!何なのあんた!!?」
いやこっちが聞きたいわ。

「くっ!そんなバケモノなんて関係ない!殺すのよ!ウェズリー!!」
と命令すると大男がこちらに近づいて影と戦い出した!!私は扉をガチャガチャするが鍵がかかっていた!!

バンバンと扉を叩き村長を呼ぶが外から村長が言った。

「悪いね…娘の言うことは…叶えてあげたいんだ…」
お前もかーーー!
こいつら皆グルだったんだ!!善人の皮を被った悪魔達だ!
と思うと大男が影をぶちのめし影が壊れて消えて行く。そしてこちらにギョロリと恐ろしい視線で見て舌舐めずりした!!

「ひ!」
私には逃げ場はなく大男がこちらに歩み寄る!やだ!!私これからこんな恐ろしい男に犯され顔を潰され死ぬの!!?

「やだやだ!助けてえええええ!!!バルトルトさんっ!!」
と叫ぶと扉の外から村長が倒れる音がしてバリッと顔の横に穴が開き青白い手が現れた…。

「……無事か!?」
とバルトルトの手がワキワキ辺りを探った。

「何で手!!?」
と突っ込むと

「おい、伯爵様…さっさと鍵寄越せ!」
となんか外でモタモタしておりようやく鍵が開いた。
茶髪の美少女が現れ

「全くもって腹の立つ!こんな変装無駄だったな!」
と怒るが…大男が美少女バルトルトを見て

「うがあ!!」
と私を突き飛ばしてあろうことかバルトルトに覆いかぶさる!

「くっ!…てめええ、俺は…男だっ!」
と顔を殴るバルトルトだが…びくともしない。むしろ蚊のようなパンチ。

「……」
バプティスト様が呆れて

「おおい!!取り押さえろ!!」
と村の自警団を呼びドヤドヤと村長の家に入ってきて大男を取り押さえ、村長も縛られてブリトニーもあっという間に捕縛された。

「…大丈夫ですか?バルトルトさん」
と床に転がったままの彼を助け起こすと
カツラを脱ぎ捨て…

「当たり前だ!」
とちょっと涙目になっておる。
こうして…事件は解決した。



「いやあ、カッコよくヨハンナ様を助け出すと思ったのにめちゃくちゃカッコ悪かったですね!!」
バプティスト様はお腹をかかえて笑う。

「………」
もはや無言で睨みつけるバルトルト。

「俺は別に力が強いわけでないし、あの大男は何人も女を殺した悪魔のような男だ」

「そうですね。なんか…私の影から出てきた人形も主人に似て弱っちくて直ぐやられてましたし」

「うるせえええええ!それ以上言うな!あの大男が異常なんだよ!!獣はともかく魔術の効きにくい人間がたまにいるんだ。あいつみたいな奴だ。だからだ!」
と横を向いてしまった。

「村長の様子も少しおかしかったし、その娘も足が悪くて美しいからもう殺されててもおかしくないのに彼女は対して怯えた様子も見せないから変だとは思っていたんですよ。

本当はバルトルト様に囮をお願いしていたんだけど…ヨハンナ様がこちらにいらしてしまい…結果的に貴方が囮になってしまいすみません。バルトルト様は演技下手かなと思ってちょっと困っていたので…」
と言う。
え!?私…知らずに結局囮になってたのか!!

「とにかく…これで事件は終わりです!後で報酬をお渡ししますね?」
とバプティスト様はまだ取り調べがあるからと自警団の人とその場を後にした。
私とバルトルトは二人きりになった。




          

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