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秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ

嵐華子

67.眼福

 お出かけする前のいつも通りの日常をやり過ごし、僕達は馬車に揺られてる。
僕の専属侍女であるニーアも最初は一緒に乗ってたんだけど、心地いい春風を感じながら過ごしたいとかで御者台に座ってる。
他の侍女や侍従はいないよ。
向こうでお世話係はいるし、何より僕達は基本的に自分の事は自分でできる。

 え、転移魔法で移動しないのかって?

 今回は昼間の狩猟祭と夜の晩餐会っていう名の慰労会で荷物が多くなるから馬車移動だよ。

 それによく出入りする場所は自分の魔力の残滓やイメージ力で魔力消費量や魔法発動時の魔力の歪みを抑えられるんだけど、今回の目的地は義父様ですら10年ぶりの訪問らしくて魔力0の魔力耐性が低能ポンコツな僕を安全には転移させられない。
魔力の大きい歪みに耐えられないばかりか、万が一時空の歪みに挟まれたりしたらバラバラ死体に即変わりだ。
魔法って便利だけどちゃんと対処できないと危険なんだ。
特に転移魔法みたいないわゆる高位魔法の類はね。
後は単純に今回の目的地との距離。
辺境のグレインビル領から普通の馬車で5日はかかる山と海に囲まれたこの国のもう2つの辺境領地の1つ。
さすがに遠くて義兄様達でも魔力量がかなり必要になるアビニシア領。
狩猟は山で、晩餐会は海を一望できる隣国との境に砦を持つ辺境城で開催される。

 グレインビル領もそうなんだけど辺境領ってね、田舎ののどかな領地って勘違いされやすいんだけど、国境を守る領地なんだ。
今でこそグレインビル領もアビニシア領も落ち着いてるけど、それはそれぞれの隣国と同盟を結んだここ20年くらいのお話で大きな戦いが無かっただけのこと。
国境の砦付近の小さな争いはずっとあるし、辺境の山は魔獣だってよく出るみたい。
だから気を抜けばいつだって戦争の脅威に貪られる。

 その事を平和な世代にも知らしめる為に5年に1度、国内の3つの辺境領と国が共同主催して国王陛下と王族を招いて狩猟祭と晩餐会が催される。
戦える人を集めて魔獣の数を減らすのと、各貴族達の実力を競い合うのが目的だから手も抜けないし、隣国への牽制の意味もあるみたい。
まあこの10年近くは義母様の件と辺境地の割りに大きな魔獣も少なくなったし、何より栄えてきちゃったグレインビル領は主催してないんだけどさ。
優先開催地は色々な意味で安定してない辺境領地だからね。

 僕は正面に座るレイヤード義兄様をチラリと見る。

 義兄様、寝てるんだ。
少し伸びた前髪が顔にかかってるのがうざったいのか眉間に皺が寄ってる。

 ちなみにバルトス義兄様は王族の護衛からは抜けられなかったんだって。
まぁ5年に1度しかない大会の護衛を王宮魔術師団副団長が抜けたらビックリだよ。
ご飯食べてあの日常をこなしたら転移でお城の寮に戻って行った。
実は帰って来たのも数週間ぶりで、今回のイベントの調整でお仕事忙しかったみたい。
暇を見つけては通信用の魔具で連絡くれてたからそんなに会ってなかったとは思わなかったけど。

 レイヤード義兄様も実は忙しかったみたいで、会うのは2週間ぶり。
卒業式や最終学年への生徒会の調整してたんだって。

 そんな義兄様もとうとう背が180を超えたし、体格も良くなってきて顔つきも大人の男性に近づいてると思ってたけど、寝顔はまだ少年のあどけなさがある。
白金髪が日の光に反射して顔面偏差値を更に押し上げてるからとんでも美少年だ。
もう少しで17才になるんだけど、こうしてると年相応で可愛らしいな。

 僕は広くて逞しい大人の男性のお胸に側頭部をくっつけてもたれ、くふふふ、と忍び笑いしてしまう。

「アリー、起きてたのかい?」

 頭上から耳に馴染む低音ボイス。
もちろん僕のダンディな義父様だ。
僕は義父様のお膝に横向きに座っててグレインビル領から出て数時間、ずっとこうしてるよ。

 この馬車は僕の希望で揺れ軽減のスプリングや背の高い義父様達仕様に設計しつつ、座面のクッション機能を色々改良しただけに止まらず、空間収納の原理を応用して外からわからないように中は広くしてある。
使ってる材料も強度はそのままに軽量化させてるから普通の馬に引かせても3日あれば着くと思う。

 今この馬車を引いてくれてる、僕が手塩にかけてグレインビル領で育てた5才になる魔馬と竜馬の血を引くあの3兄妹ともなれば間違いなく明日の昼頃には着く予定だよ。

 魔馬は軍馬でよく見かける気性が猛々しい魔力耐性と持久性に優れた外見は獣人さんが乗ってもびくともしないくらい大きい馬。
竜馬は俊敏性が高くてと足腰がしっかりしてる足に鱗が生えた魔馬と普通の馬の間くらいの大きめの馬で怒らせなければ大人しいよ。
どちらも1度主って認定したら絶対服従だけど、そこはもちろん個体差が大きい。

 兄は魔馬の外見で竜馬の気質、妹は生粋の魔馬みたいな子と兄と真反対の子。
だから妹達は気性が荒いけど、兄を怒らせて何度か痛い目見てるみたいで兄がリーダーみたいになってる。
どっちにしても僕には可愛らしい愛馬達なんだ。

 急ぐ必要はないしさすがに夜通し走らせるのは僕の体調の面からしても、御者のお爺さんからしても大変だから余裕をもって旅程を組んだよ。
お爺さんは僕と一緒にお馬のお世話もしてくれてる僕のお馬の師匠みたいな人。
高難度ダンジョンでしか取れない希少な茸を採取して晩酌の肴にするのが趣味のA級冒険者でもあるから、盗賊や魔獣が出ても安心だ。
時々茸のお裾分けを貰ってて、末永く冒険者生命が続くのを僕はひそかに願ってる。
あの茸、めちゃくちゃ美味しいよ。

 余談だけど愛馬のポニーちゃんは今回お留守番。
いつも一緒の弟妹分達を連れて行く時の寂しそうなつぶらな瞳が忘れられない。

 ごめんね、帰ってきたら一緒にお散歩しようね。

「うん、レイヤード兄様の寝顔見てるんだ。
起きてると格好いいけど、こうしてると可愛いよね」
「そうだな。
私の寝顔も可愛いだろう?」
「もちろんだよ。
僕の家族はカッコ可愛い人達で眼福だね」

 顔を上げて視線を合わせると、とっても満足そうな義父様のカッコ可愛い顔があった。
眼福、眼福。

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