【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

106.内乱裏話3~トビドニアside

『ねえ、
4つ目の約束を反故にするのは許さない。
番以外にも側妃を迎えて早々に子供を作り血筋に正統性を持たせる事。
舌を切られて拷問されて、使えなくなったと身勝手な理由で見捨てられても、奴隷に落とされても必死で生きてきた子供をお前達の番主義身勝手な道具に決してしない事』

 レンカちゃんは俺に抱き上げられたまま、ジロリと虎属と犬属の2人を無表情に一瞥する。

『反故にするならお前の番はむしろ邪魔だから私が今すぐ消す』

 小さい指で器用にパチリと指を鳴らすと犬属を囲むように火柱が上がる。

『うわぁ!』
『や、やめろ!』

 飛びかかろうとした虎属は側にいた師匠に頭を鷲掴みにされてそのまま地面に押しつけられた。

『君には絶望をたっぷり与えてから、別の誰かに君専用の伴侶紋を刻んで狂わせずに慰めさせてあげるよ』
『そんな····』

 美しい笑みの中に狂気を宿した師匠の言葉に虎属も犬属も絶句する。

『自分の子供より番を優先する行為を否定はしない。
それもお前達のさがなんだろう?
だけどそれと子供を道具にするのは話が別だ。
お前も1度は復讐の為に納得して私と取り引きしたんだ。
受け入れなよ。
それとも今すぐ私達は手を引こうか?
そうすれば仲良くただのクーデター扱いになって周辺国から攻め込まれて伴侶も仲間共々殺されるし、この国が周辺国に蹂躙されるきっかけになったお前達を国民の大半は憎むだろうよ」 

 さっきは4つ目をはしょって話したけど、ホンマはレンカちゃんは俺の事を最初から含めてあの男に交渉してた。

 そっから先は俺に抱っこされたレンカちゃんが俺の耳を小っちゃい手で押さえてて聞こえへんかった。
子供は大人の黒い話を聞くもんやない、言うて抱き上げられてる5才児に言われたけど、少しずつ俺の体温で温まる小さい手の温もりが心地よくて素直に従った。

 いつの間にか火が消えてて、あの番は泣きながら俯いてたけど師匠が何かの魔法陣を体に浮かべたら涙が引いて複雑な顔を浮かべてた。
その後番は側妃に、数年後に国が安定してから正妃を政略結婚によって別に迎えたと行商してた時に知った。

「レンカちゃんはその夜、今度は別の悪夢を国中にばらまいた。
国民には逃げた貴族達を見つけて憎しみの感情に突き動かされて殺した結果、血の賤民と呼ばれて他国から蔑みを受ける自分達を。
貴族達には自分達が殺したり貶めたりした人らが責め立てながら自分達を生きながら食らう、痛みも感じる禍々しい悪夢。
やから国民は見つけた逃亡者に多少の怪我はさしても死者が出んかった。
大半の貴族達は当時の皇帝含めた皇族、貴族達の悪事の証拠の在りかも茫然自失状態になって口を割った。
これがあの内乱の裏話や」

 しばらく誰も口を利かへんかった。
俺も誰かが喋るまで待つ事にして、あの後城の一室でレンカちゃんが眠りにつくまでの会話を思い出す。

『トビドニア、レンを頼む』
『頼むって、レンカちゃんはどうなるんだ?』

 俺は師匠に言われて抱いたままやったレンカちゃんをベッドに降ろそうとして、そのまま腰かけた。
何となくもう会えへんような、そんな気がして離したくない。

『寝る』
『いつ起きる?』
『もう起きない』
『それは····嫌だ』
『どうしようもない』
『それでも嫌だ。
だったら寝るな!』

 俺は今にも瞼が閉じそうな小さい体を揺する。

『····おい』

 不機嫌そうに眉を寄せても無視する。

『いい加減にしろ!』
『いたっ』

 ガツンと眉間に小っちゃい拳を食らわされて反射的に額を押さえる。
でもしょせんは人属の5才児だから大して後には響かない。

『嫌だ!
もっと話す!
レンカちゃんが舌を治したんだから責任取れ!』

 ぼろぼろと涙がこぼれる。

『全く、何の責任だ。
ほら、泣くな。
眠るまでは何か話をしてやるから、それで我慢しろ』

 呆れたように言いながら服の袖でごしごしと涙を拭われ、背中まで回りきらへん短い腕でコアラ属みたいな抱きつき方されてぽんぽんと慰めるように、安心させるように子供にするみたいに叩く。

 俺が落ち着いてきた頃に腰かけたまま後ろに倒れた俺の胸元を枕にしながらぽつぽつと話し出す。

 舌の調子はどうだ?から始まって、好きな食べ物とかホンマどうでもええ事ばっかりやった。
せやけどシイカが誰かだけは聞きたくなかった。

『レンカちゃんはレンちゃんとは違うのか?』
『違う、とも言えないが、大方は····違う』
『どっちだよ』
『根底は、同じだ。
でも思ったのと、違う、現象が起き、た、から····中途半端に別々、なった。
今は私の自我の、方····強いから、その気になれば····ん····レンを眠ら、せて私が主導権を握る事もできなくはない。
でもそれは、私が、望ま····な····』
『どうして?』

 少しずつ預けてくる体重が重くなってくる。
声がだいぶ眠そうだ。
約束を守ろうとかなり頑張ってくれてんのがわかる。
それでも話しかけるのをやめられへん。

『私はもうとっくに、死んだ、はずで、わざわざ主導権を奪っ····生きる、には····ふぁ····悔いがない。
レンは生きる、事、望んでいるし、と、レンと、生き方が決定的に····違う、から。
それなら····小さ、な命の、成長を····ん、ねむ····見守る··いい····』

 最後は寝息と一緒にかき消えた。
それから15年、忘れた頃に現れるし、またまた俺の手をすり抜けて好き勝手するんやから困った人やわ。

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