【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

91.お爺ちゃんとだけは呼ばせない~ベルグルside

「がぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「よこせ!
よこせ!
よこせぇぇぇぇぇ!!!!」

 ガンガンと拳から血を撒き散らせながら2人の竜人が鬼気迫る勢いで結界を殴り暴れる。
彼らは突然現れた男によって手際良く透明の障壁で囲まれた空間に閉じ込められた。

 屋敷全体を魔石具で覆っていた結界を簡単に消し飛ばしたはずの魔術を何度も発動させているはずだが、全て防いでいる。
その上揺らぎ1つしない障壁を今なお維持させ続けている事からもわかるが、この男は間違いなく強い。

「もう!
久々に会ったんだからハグさせてよー」
「いやー!
だったら手のそれどっかにやってよー!」

 が、そんな事は忘れそうなくらいに男は軽い。

 フードを深く被り何かの丸薬を見せつけるように摘まんで見せびらかす軽さしか感じさせないこの男と、悲痛な叫びをあげながら追いかけっこを始めた半泣きのレン。

 必死の形相で逃げてるところ申し訳ないが、チビッ子と獣人の平均より少し高めの背をした男とでは勝負は見えている。
そしてレンよ、そもそも走るの遅いな。
そいつ、明らかに調を合わせて手を抜いてるぞ。

 こちらはあちらとは随分違い平和そのものだがレンは顔を赤くして肩で息をしているし、体調は間違いなく悪いだろう。
突然始まった追いかけっこをつい傍観してしまったが、いい加減止めないとまずいな。

「レン、いらっしゃい」

 あ、レイブが先に動いたか。
横からさっと抱き上げた。

「レイブさん僕と逃げてぇ!」

 レイブに縦抱きにされてまだ走ってるみたいに足をバタバタさせている。
発言は駆け落ちする恋人みたいでレイブの伴侶には聞かせられないな、と思いつつも熱が高いのか錯乱気味なのが気になった。

「レン、落ち着きなさい。
あなたまだ熱が高いんですよ。
こら、暴れない。
それと彼は誰です?」

 落ち着かせるようにぽんぽんと背中を軽く叩いてやりながら氷の魔術で冷やしてやっている。
少しほっとしたのか潤んだ目からほろりと涙が溢れたのをぐしぐしと手でぬぐう。

「うー、意地悪なおじさん!」
「え、酷い!」

 どうやらへそを曲げたらしい。
レンはキッと男を睨んでからプイッとレイブの首にしがみついてぐずぐずと鼻を鳴らし始めてしまった。
どうでもいいが、多分睨んだんだと思う?
多分····自信はないが。
熱が高くてしんどくなっているのか、そうしていると見た目の年相応だな。
グランの話では実年齢は14才以上らしいが····。

「あー、誰だ?」

 1分もないくらいだが、傍観してしまったのを申し訳なく思う。
レイブもそうなんだろう。
安心させるようにぎゅっと抱き締めてやる。
グランが見たら絶対殺気立つくらいめちゃくちゃしたり顔だな。

「ビビッド商会の商会員だよー。
ほら、ちょっと前に信号弾上げたでしょ?
紫の信号弾は副会長の迎えに行けって合図なんだよ。
あれ見てレンを迎えに来たんだ。
ほらほら、怪しくないからレンは俺と一緒に行こうよ」
「····それ、しまってくれたら」

 レンは未だにしがみついてこちらを見ない。

「えー、でも飲まないとまた倒れるよ?」
「····まだ平気だもん」
「副会長に怒られるよ?」

 さすがに兄弟子は怖いのか、ピクリと肩を震わせる。

「う、そ、れは····でも、でも今は嫌なの!」
「んー、いつもはそこまで拒否しないのに何で?
もしかして今って薬
吐きそうだったりする?
そういえばまだ誰にも治癒魔法使ってないね?」

 商会員の言葉にレイブと2人でレンの小さな顔を覗き込もうとしたが、レイブの首に顔を押しつけてしまう。

 今のところ暴れ狂う竜人もいつの間にか気を失って寝転んでる豹属も怪我をしたままだ。
どうでもいいが、心なしかレイブが嬉しそうだな。

「レン、ちゃんと答えてくれないか?」
「····そのお薬が嫌いなだけ····」

 俺の問いに嘘ではないだろうが、素直ではなさそうな答えが返ってくる。

「レン、私達は信用できませんか?」

 レイブは沈痛な面持ちで違う問いを投げかける。

「····レイブさん?」

 それに気づいたのか、レンはやっと顔を上げる。
目は潤んで顔は赤いし、熱が上がってきているのか少しぼうっとしてないか?

「私達はまだ出会ってからの時間は短いです。
ですが大叔父をお爺ちゃんと慕ってくれている事やあなたに助けられた恩を抜きにしても、私はあなたを守りたいと思ってここに来たんです。
あなたがたくさん秘密を抱えているのは薄々気づいていましたが、例えその秘密が人殺しであったとしても私が守ります。
騎士としてではなく、あなたの家族としてここに来ようと思ったんです。
誰かに甘えるのが苦手なのもあるんでしょうが、体がつらい時くらいは頼って下さい。
それともあなたは私達を頼りにならない大人にしたいですか?」
「····おじい」
「それは違います」

 レイブ、言葉ぶったぎるの早いな。
お爺ちゃん呼びだけは心底嫌なんだろうが、もう少し耐えても良かったんじゃなかろうか。

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