【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

89.侵入~レイブside

「それではジェロム殿が起動、ラスイード殿が城内を探索させてから私が引き継ぐのでよろしいですね」

 その場の全員が頷きます。
ジェロム殿は魔法の発現は不得意なようですが、実は内にある魔力は多いのです。
精霊魔法には他人の魔力を使った高位の治癒魔法があるので触れて発動させれば他人の魔力量を知る事が必然的にできるようになります。
治癒できるのは魔力を供給する本人だけなので、自己治癒魔法とも言われていますが。

 ラスイード殿が実は魔石具を発明するのが趣味らしく、このとんでも魔石具は発動させられれば他の人に引き継いで使う事ができる事に気づいてくれました。

 中に組み込まれた魔導回路と呼ばれる魔力を動力に変換する複雑怪奇な回路を見ている時の顔が嬉々としていましたから、根っからの魔石具好きなのでしょう。
中のクズ石を質の良い魔石に変えたら、とか、伴侶と居を構える屋敷にあるそこそこの攻撃魔法なら弾く結界用の魔石具を私の持っていた転移用の魔石具に嵌めてある高品質の魔石を嵌めたら、とか自分の世界に入ってブツブツ言い出した時にはジェロム殿が頭を軽くはたいて現実世界に帰還させていましたが、恐らく魔石具が絡んだ時のいつものやり取りなのでしょう。
時々いる魔石具バカの適切な帰還方法ですね。
副会長がいつもの口調で「何や自分ら仲ええやん」と言うと2人揃って全力で否定してましたが。

 そんなやり取りをしつつ、とうとう神妙な面持ちで片手に乗せた魔石具をもう片方の手で覆ってジェロム殿が起動させました。

「ぐっ、うっ、これは····やべぇな····」
「ジェロム」

 副会長が言う通りかなりの魔力が強制的に魔石具に吸い取られているようで、前屈みになりながら崩れるように片膝を床につき、次の引き継ぎに備えて目の前にいたラスイード殿に両肩を手で支えられながら額に汗を滲ませて堪えます。

「ラスイード、次だ」

 やがて安定したのか両膝を床について支えていたラスイード殿に震える手で魔石具を手渡し、そのまま腰を下ろして座り込みました。

 どうでも良いですがコレ、下手したらうちの騎士団に試作品として回ってきかねませんよね?
ベルグルを横目で見たら、彼もそれを考えてたんでしょう。
いささか顔を引きつらせた彼と目が合いました。

(絶対、拒否しましょう)

 2人して頷き合いました。

「なるほど、引き継ぎさえできれば大分魔力消費は抑えられるようですね。
ですが····」

 初めは魔石具バカらしく目を輝かせていましたが、探索した途端、辛そうな顔に変わります。

「この城にはいないようです。
レンの居場所と繋がった瞬間に魔力消費が一気に増えました。
恐らく方向的には私の屋敷の方、城下の西の方角です」
「なるほどな。
せやったらこのまま俺以外が転移で城の出口あたりに移動するんがええやろ。
そこで竜人の兄さんとおっちゃんはぼんく、やない、ザガド様と合流、そっちの2人はそのまま城下に出てレンちゃんを捜索っちゅうんでどうやろか」

 ····ぼんくらって言いそうになりましたね。
まぁ気持ちはわかります。
恐らく全員そんなような事を思ってるだけで口には出しませんが。

「いや、俺はここに残る。
どのみち今は脱力感が凄くて出ても邪魔にしかならねぇ」
「レンカちゃんの話やったらおっちゃんは連中に捕まらん方がええんちゃうの。
ここに残る方が悪手やわ」
「それなら厨房の隠し通路に転移しましょう。
ジェロム、あなたこっそりザガド様の厨房に隠し通路作ってましたよね」
「····何でバレてんだよ」
「モンテが教えてくれました。
お陰でこの城の地下牢に幽閉されていたジスランとヒスカを私の屋敷に連れて行けましたから」
「····薬漬けになったあいつらをどうやったらお前1人で助けられたのかと思ってたが、ちゃっかりあの3人巻き込んでたのか」

 何やら自嘲気味に話してますが、どうやら隠し通路とやらに転移になりそうですね。
ジスランとヒスカというのは話の流れからして愚か者ザガドの元護衛でしょう。

「となると必然的に場所知ってる2人のどっちかが転移の軸になるんやけど、どう干渉し合うかわからへんから今そっちの魔石具使ってる兄さんやなくておっちゃんになんねんけど、動けるん?」

 副会長の言葉に1度ゆっくりと深呼吸してジェロム殿が腰を上げた。

「立って転移の軸になるだけなら問題ねぇ。
魔力はごっそり持ってかれたみてぇだが、体力まで持ってかれたわけじゃねぇからな」
「タフやな(だな)」

 ぼそりと呟いたのはベルグルと副会長ですが、私もそう思っています。
普通は魔力の8割ほどを失った時点で体力も含めて無くなります。
9割失えば枯渇状態となって意識を昏倒させかねなくなりますから、ジェロム殿は今8割減といったところでしょう。
立って歩くのも辛いはず。

 しかしラスイード殿も現在進行形で魔力を消費しているはずですから、さっさと行動した方が良さそうですね。
チラリとベルグルを見れば彼もそう思っていたようで、すぐに行動に移すよう呼び掛けました。

「商会の人間が既に城下に入ってるはずやから、レンちゃん見つけたらその信号用の魔石具に火を付けてや。
人属用の薬も持たせてあんねん」

 そう言いながらベルグルに小さな魔石が嵌まった細長い筒状の魔石具を渡しました。
再び内ポケットで寝ていたらしいキョロが眠そうな鳴き声を出してジェロム殿の頭に乗っかり、暗い隠し通路に転移しました。

 にしてもこの魔鳥、鳴き声の感性が豊かですね。
あの魔狼といい、レンの側には変わり者が多いように思います。

 それぞれの竜人から魔石具を受け取り、魔力を激減させた2人の力になるようキョロを待機させて私とベルグルは城下へ向かいます。

 この魔石具、探索機能は昔より遥かに高性能になってますが、とにかく対象にさっさと近づかないと魔力消費が酷いです。
なので針が示す方向へとにかく一直線に走りました。

 障害物は精霊術や馬鹿力のベルグルのお陰で何のその。
とにかく一直線に進んだだけあって1時間ほどで到達地点とおぼしき屋敷に到着。
レンにかなり近づいた為でしょう。
魔力消費が嘘のように少なくなりました。
副会長に渡されたあの魔石具にベルグルが火をつけ、ヒュン、という高温と共に紫色の信号光が上空に3つ上がったのを確認します。

 そして正攻法で門を叩いてみるか、どこかから侵入するかを相談しようとした時です。

 ゴゴゴゴ····ドゥゴーン!

 地鳴りのような音が徐々に大きくなったかと思ったら、何かが地面の中で爆発したような、低くこもったような爆発音が屋敷の奥から聞こえ、兎属の私の耳には微かな悲鳴が届きました。

「行くぞ!」
「ええ!」

 すぐに精霊術で私達の足元に風を練り上げ、2人同時に跳躍して高い塀を越えて侵入したのでした。

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