【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

74.主の怒り~ラジェットside

「ちょっと、はよ起きて下さい。
何があったんです?
番様はどこにいらっしゃるんですか?」
「····ぐっ、ここは?」

 独特の話し方を不快に感じながら体を起こす。
途端にとんでもない頭痛と眩暈に襲われて体がぐらついた。
それを副会長が床に片膝をついて支えるが、下等な種族に触れられるのはやはり不快だった。

 思わず支えてきた手を叩き落とそうとして我に返る。

「····おい!
あの人族はどこだ!
はっ、ペネドゥル様は!?」

 暗闇での空間で感じた憎悪をそのままにあの下劣な人族を探そうとして、己の主が倒れていた光景を思い出した。

「王弟殿下でしたら先に気づかれて出てかれましたわ。
何やふらついてましたけど、お1人で大丈夫や言われてしまいましたからそのまま見送りましてん」
「そうか」

 主の一先ずの無事に胸を撫で下ろすも、すぐにあの憎々しい人族の顔がよぎる。

「それであの下劣な人族をどこに匿った!?」

 副会長の胸倉を片手で掴んで引き寄せると肉食獣人のくせに私に恐怖したのか血相を変えて慌てふためく。

「えぇ!
番様はおたくらにどこか別の部屋に連れて行かれたんとちゃいますの!?」
「何だと!!
隠し立てするつもりか!?」

 今度は両手で掴み、頭痛を物ともせずに立ち上がって揺さぶる。

「ちゃいますって!!
私が商会に連絡するんに部屋から出てる間にお2人が連れ出したんちゃいますの!?
私がこの部屋戻ったら番様はおらへんし、代わりにお2人がそこで寝転がってましたやん!
何か疑ってるんやったらラスイード様に聞いて下さい。
早朝しか時間が取れへん言われてたからお買い上げ頂いた商品の代金請求と城下への通行許可証もこの通り受け取りに行ってたんです!
とんだ濡れ衣ですわ!!」

 副会長がすぐ横の机に置いていたらしい通行許可証と兄のサインの入った受領証を必死な形相で見せる。
嘘ではないようだが信用はしない。

 ふとそこに書かれた日付を見てあの闇に閉じ込められた時間はせいぜい数時間であったことに気付き、あの人族に時間の感覚を狂わされていた事に更に憤怒する。

「疑われるような事をするからだ!
今後は気を付けろ!
それとあの人属は見つけ次第拘束し、牢へ繋ぐ!
この目で主に危害を与えたところを見た!
あの下劣な人属は我らが王族に危害を加えた罪人だ!
場合によっては拷問も行う!
たかが商人風情が匿えると思うなよ!
もし匿えばお前も商会もこの私が潰してやる!」

 掴んでいた胸倉を離して勢いよく突き飛ばす。
しかし少したたらを踏んだだけで転びはしなかった。
意外に鍛えていたらしい。
その事にすら怒りを覚えるが、主のお抱え商人である事を自らに言い聞かせて部屋を出る。
すぐさまその足で主の居室へ向かった。

「ペネドゥル様!」

 主の居室の前にいつもの近衛兵はいなかった。
人払いをされたのか?
扉を叩いても反応が無い。

 主は時折部屋で1人の時間を楽しむ事もあり、そんな時は人の気配がする事を好まない。
竜体にもなれる御身は魔力量も多く力も強い。
加えてまだ国王とはなっていない為尊く守られるべき王族ではあるが人払いは珍しくなかった。

 しかし恐らくあの下劣な人属のせいで倒れていただろう事が不安を誘う。

 中の気配を扉の外から伺うと、微かにだが確かに気配がした。

「入ります、わが主!」

 断りを入れ、場合によってはお叱りを受ける覚悟をして返事を待たず中に入り、主を求めて奥の寝室へと進んだ。

 全てのカーテンは開けられ、日の光が注がれている。
そんな中、日に煌めく藍色をした主はベッドに腰掛け項垂れていた。

「ご無事でしたか!!」

 思わず駆け寄り、目の前で膝を着く。
しかし様子がおかしい。
いつもの覇気や王族らしい威厳が感じられず、項垂れたままこちらを見ようとしない。

「ペネドゥル様?」

 気後れしつつも呼びかけながらそっと両肩に手を添え、項垂れた上体を起こして差し上げるが、その目を見て思わず息を飲んだ。

「ペネドゥル様、何があったのです!?
あの下劣な人族が御身に何をしたのですか!?」

 いつもは芯のある光を宿す藤色の目も、その凛々しい尊顔も虚ろに支配されていたのだ。

「····ぁ、ラジェット····私は····どれくらい闇に····ザガド····兄上はもう即位を····?」

 呟く声はとてもか弱い。

「何をおっしゃっているのですか!?
まさか私と同じようにあの人属に闇に閉じ込められていたのですか!?
しっかりなさって下さい!
我々は下劣な人族の幻術に謀られていたに違いありません!
せいぜい数時間経った程度。
あの無能なザガドが即位など有り得ません!!」

 叫ぶように訴えると藤色の目には僅かに光が灯り始めた。

「謀られた····数時間····げん、じゅつ····」

 両肩に添えた手に振動が伝わり、その形相から私同様、いや、それ以上に憤怒に駆られている事が伺い知れ、同時に高圧の獣気がほとばしる。

 瞬間、俺達を中心に水刃が渦巻き上がる。

 窓は割れ、寝台やカーテンは水刃によって刹那に切り刻まれ、床は大量に飛び散った水で水たまりができた。

「あの下等生物を探し出し、必ず生け捕りにして私の目の前に引きずり出せ。
生きていればどれ程の傷を負わせようとかまわぬ。
ザガドもザガドの元の側近の料理長もあの宮も疑わしい者も場所も全て調べよ。
もしザガドがあの人属を匿っているのならあやつを殺してでも捕まえろ。
兵に関わる権限はお前に与える。
もしもの見落としも匿う事もないようにラスイードはあの商人と共にあの客室に軟禁しておけ。
この私を小賢しい幻術で騙した事を後悔させながら殺してやる」

 あぁ、やはり我が主は覇気を纏った姿が一番凛々しく美しい。
もちろん俺は恭しく一礼して勅命を承った。

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