【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

61.滲んだ血

「待て。
突然来て私の客人に手を出すとは無礼にも程がある」
「この者は連れて行きます」

 ザガドが制止するが、突然入ってきたラスイードと良く似た男がレンに手を伸ばした。
レンは薬が良く効いているのかこの騒ぎにも起きる気配はない。

「この人属はありがたくもこの国の王弟であり、摂政でもあるペネドゥル様の正式な客人です。
対してザガド様は何の役職もなく王族としての役目を果たしていらっしゃらない。
それに加え、ザガド様にはペネドゥル様が迎えたこの人属の誘拐の嫌疑がございます。
誤解だとおっしゃるなら自室にて待機し、疑われる事のなきようにと言付かっております」

 口調こそ丁寧だが、王弟であるザガドを馬鹿にした目で一瞥し、一緒についてきた竜人の騎士達を部屋に呼ぶ。

 恐らくこいつがレンの言ってた牢に入れろ発言男だ。

 折を見て絶対ぶちのめす!

 だが····今は我慢、だ。
俺はこれからザガドと行動を共にするのが任務だ····そう、任務····レン、すまない····いや、しかし、レン····。

 俺は握り拳がぶるぶる震えるのを感じながら葛藤する····。

 やっぱり嫌だぁ!

 この状態のレンから離れるとか、離れるとか!
離れるとかぁ!!

「誘拐?
笑わせる。
拐ったのはペネドゥルの方だろう。
その子はまだ熱がある。
人属の子供の体調が急変してお前達が対処できるのか」
「ご安心を。
こちらもそうおっしゃる事は見越して顔見知りだという商会の侍従を連れてきたのですよ。
入ってこい」

 団長と副団長だ。
団長がレンに近づき、そっとレンを抱き上げた。
レンはほんの少し眉をひそめたが再び寝入る。

 くそ、予定通りとはいえ団長のすました顔が腹立つ!
何で侍従役が俺じゃないんだ!
くそ、レンの首筋の汗を舐め取りたい!

「番様の事はこれから副会長含め私達商会が面倒を見ますから、ご心配なく。
人属の薬も用意してございます。
しばらくはペネドゥル様の離宮にて滞在致しますので、商会の取り扱い商品で気に入られた物が····」
「おい、勝手に喋るな!」

 お前こそ声がデカイんだよ!
俺の可愛い番が起きたらどうしてくれる!

「····ございましたらお声かけ下さい。
ラジェット様、私達は商会の者であることはペネドゥル様も含め周知の事実。
こちらには商売の為に登城した事をお忘れなきよう」
「ちっ、行くぞ」

 一度遮られても強く言い切った副団長は、何でか残念な者を見るような目で俺をチラリと見やるとそれとなく威圧の気配を混ぜつつ商売を強調する。
これで商談と称してペネドゥルの離宮を少なくとも団長達は行き来する面目を作れた。

 俺とザガドを残して全員去った後、2人きりになると同時にザガドが俺の肩をポンと叩いた。

「番を見送るのをよく耐えたな。
そろそろ握った手を弛めろ。
血が滲んできている」
「····ああ。
ああ、そうだな」

 俺はゆっくり息を吐きながら拳を弛め、目を落とす。
爪が食い込んで血が滲んでいた。

「心配だろうが、ここに来てから1度も休んでいないだろう。
どのみちすぐに事は動かない。
仮眠を取って次の行動に備えろ。
俺も兄上達の結界を確認したら寝る。
あの部屋に見張りは定期的にしか来ないから心配なんだ」

 そう言うとザガドは部屋を出て行った。

 俺はレンのいたベッドに横になり、先ほどまでいた番の匂いに意識を集中する。
焦る気持ちを何とか抑えて目を閉じた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品