【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

56.元側近

「眠ったか」
「はい」

 団長に頷きながら、ベッドに寝かした可愛らしい番の頭をかがんでそっとなでる。
いつもは穏やかで頬もほんのり桃色、唇もむしゃぶりつきたくなるほど瑞々しいが、今は青白い顔で眉をしかめて唇も少しかさついている。
正直痛々しいが、やっと俺の手元に戻って来たと思うと安堵と共に嬉しさがこみ上げる。
熱が無ければ常に腕の中に囲っておきたいくらいだ。

「まだ顔がしかめっ面ですね」
「それすらも可愛らしいでしょう」

 かがんだ俺の上からのぞき込む副団長が苦笑するが、俺の言葉とドヤ顔に残念そうな目を向けるのは何故だ。
誰が何と言おうと可愛いが過ぎているじゃないか。

「かつてないほどご機嫌斜めちゃんやから、落ち着くまではそっとしときよ。
冗談やなく下手したらこの城くらい簡単にぶっ飛ばすで」
「どんな人間兵器だ」

 トビの言葉に顔をひくつかせたザガドがつっこみ、やれそうなところが恐ろしいとぼやく。
もう吹き飛ばしてしまってもいいんじゃないかと密かに考えるが、無関係の者にまで怪我をさせるのはレンも望まないだろうと思い直す。

 その時、侍従が声をかけてきた。

「ザガド様、ペネドゥル様よりビビッド商会を謁見させるようにと言付かりました」
「わかった」

 俺達は頷き合ってトビ、団長、副団長が出て行った。
それを見送ってからザガドが改めて俺に向き直る。

「レンは何者だ?
黒竜の番というだけではないんじゃないか?
魔力拘束具をはめられて自力解除するのも、あの治癒魔法も有り得ない事ばかりだ。
人属で異能など聞いた事がないが、そういう事なのではないか?」
「それは是非とも私達にも教えていただきたいものですね」
「誰だ?!」

 ザガドの背後から魔力の揺らぎを感じた瞬間、聞き覚えのない声がした。
当然だが揺らぎを感じた時点で俺はすぐにレンを背後に庇っている。
ザガド、反応遅いぞ。

「ラスイード、ジェロム」

 深緑の髪に深紅の目の細身男と、赤茶の髪に深緑の目の大柄なジェロムが立っていた。

 パッと見、対照的な外見だな。

 ラスイードという男から魔力の残滓が見えるから、転移はこの男のものだろう。
この部屋はザガドの許した者以外入れないと聞いていたが、ザガドの態度からしてこの男は許されているのだろうが高位魔法の転移を使えるとは油断ならない。

「本当に転移魔法が使えるようになったのかよ」
「ここ最近城内で過ごしていたので私の魔力残滓が方々にあってやり易いんです。
私がよく知っている場所でよく知った魔力を持つ人がいる場所に限ってなら、その魔力を辿って2人までなら2日に1度使えるようになりました」

 感心するジェロムに男はまだまだだと話す。
確かに限定的だが、それでも魔石具無しでやってのけるのは至難の技だ。

 ザガドは扉に施錠し、周囲には盗聴と盗視の結界を張った。

「なぜラスイードまでここに?」
「ザガド様達が厨房から出た後入れ違いでこいつが坊主を探しに来たんだ。
坊主が黒竜の番なのは聞いた」
「なぜ君が探していた?」

 この2人が気を許していても、俺はそういう訳にもいかない。

「初めまして。
私はラスイードと申します。
元ザガド様の側近で今はこの国の第2王弟殿下の側近です。
倒れたその子を城の客室で看病していましまが、私が目を放した隙にいなくなっていたので探しておりました」
「じゃあレンに魔力拘束具を使ったのは君なのか?」
「必要な措置でしたから」
「おい、ふざけるなよ」

 バキッという音と共にラスイードが勢い良く倒れる。
しかし魔法で防御したのか外傷はない。
ちなみに俺は手を出していない。
そこはかとなく腹は立ったが····。

「さすがにそれは聞いてねぇぞ。
こんなちっこい坊主にこの国の魔術師トップがやる事じゃねぇ。
人属だからって奴隷扱いしてんじゃねぇぞ」

 ジェロムが拳を握ったまま静かだが凶悪な怒りを滲ませてラスイードを睨み付ける。
しかし次の瞬間霧散した。

「おじさん····怒ってる?
その人悪くないよ?」

 弱々しい声がジェロムに呼びかけた。

「レン、起きたのか?
水飲むか?」

 俺は振り返り、頷いたレンの横に腰かけてから体起こしてやる。
用意しておいた水を差し出すとコクコクと喉を上下させた。

 やばい、口元についた水舐めとりたい。
コップに添える小さい手舐め回したい。

「グラン、顔が残念すぎるぞ」

 ザガドの引き気味の顔なんぞ知らん。

「レンというのですね。
私はラスイードです。
まともに話すのは初めてですが、私を覚えているんですか?」

 立ち上がったラスイードがベッド脇にかがんで話しかける。

「うん。
あの藍色の人が牢に入れようとしたのを庇ってくれたのも、お水飲ませてくれたのも覚えてるよ。
手枷は僕が魔法で威嚇しちゃったから仕方ないし、はめる時も僕が落ち着いたら外すって言ってくれてたの」

 俺達に向かって説明した後、すまなさそうな声で緑の竜人に謝る。

 くっ、そんな庇護欲そそる声を他人に向けないでくれ。

「あの部屋勝手に出ちゃってごめんね。
お兄さんがいない時にお兄さんに似た人がきて、僕が起きたら牢に入れ直しておくように命令してたの聞いたから。
寝たふりしてて僕が聞いてるの気づかれなくて良かった」
「そうでしたか。
恐らく私の双子の弟ですね。
陛下が眠りペネドゥル様が政務を摂り始めてから特に人属への差別意識が酷くなってしまったようです。
貴方には怖い思いをさせて申し訳ない」

 それを聞いて今度は緑がすまなさそうな顔をするが、レンと全然違って何もそそられないぞ!
レンも緑と見つめ合うなよ。

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