【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

60.謁見2~ペネドゥルside

「まずは花茶を確認頂けますか。
ついこの間作った物になります」

 私とエトラン副会長は互いの従者を後ろに控えさせ、対面に座った。
どうでもいいが、言葉使いは丁寧なのに商人独特の口調でこうも受け手の印象が変わるのが面白い。
差し出された花茶を確認すると月花がふんだんに使われている事に驚く。
香りも芳醇で、真新しい物だ。

「良い香りだ。
月花も月夜花も採取して差程経っていないな」
「さすがペネドゥル様。
月花が絶えて久しいこの国でようわかってますやん」
「貴様····」
「ラジェット、黙れ」

 男の挑発した物言いに誇り高い竜人が反応しすぎだ。
ギリリと歯噛みして黙ったのを確認して小さくため息をついた。

「元々は我が国の物。
嗜みとして当然の事」

 侍従に渡された花茶を渡し、淹れさせる。
ややもすれば室内に花茶の薫りがたちこめ、鼻をくすぐる。
ガラスポットの中で花開いた花茶も美しく、品がある。

「他にも幾つかの茶葉を混ぜているな。
花茶は作り手によって味が違うものだが、これは私が嗜んだ中でも1番旨い」
「ありがとうございます。
作り手の身元は明かせまへんけど、一国の王族からそないに褒められたと知ったらさぞ喜びますやろなぁ」

 素直に褒めてやれば、それとなく牽制してくる。

「心配せずともこれ程の作り手ならば協力を求めても害する事はせん。
我が国の月花の事情については当然秘匿させているのだろう?
開国後の経済事も考えねばなるまい」
「さすがペネドゥル様。
お目が高い。
そもそも月花を何処で仕入れたとも話しておりませんし、依頼の際には魔法契約で縛りを設けるのを私の商会では常としてますから、秘匿については安心して下さい」
「信じよう。
花茶は全て買い取る」
「まいどです。
ほな100を納品致します」
「いいだろう」

 そこで一区切りして花茶を一口楽しむ。

「それで、魔の森とエトラン副会長、いやビビッド商会との繋がりは何だ?」
「繋がり、ですか?」

 ふん、とぼけた顔をしても無駄な事。

「月花が採れるとすれば今は魔の森以外あるまい。
魔の森には何度も我が国の者を侵入させたが、誰1人として帰ってきてはおらぬ。
そなたか、或いはビビッド商会の誰かが繋がっておらねば実現せぬ。
そちらと繋がっているのは黒竜か、それともその番か?」
「番と言いますと?」
「まだ惚けるか。
番をこちらで保護してあると言えば?」
「保護、とは?」

 ふん、察しが悪いのか、ただ惚けているのかどちらであろうな。

「第1王弟にして我が兄ザガドが危害を加えようとしていたのを魔の森近くでたまたま見かけてな。
奴は黒竜を我が国に連れ帰りたかったのか何度も侵入しようとしておったのだが、よもやあのような幼子に危害を加えようとは思わなかった。
奴がそなたと共に城へ戻ったのはその件があったからでは?」
「確かに番様とは面識がありますけど、今その方はどちらに?」
「ふふ、どこまでも惚けるか。
ザガドの宮に連れ去られているだろうに」
「残念ながら今回の件、寝耳に水とはこの事ですわ。
もしくは入れ違いになったんちゃいますかね」
「なる程。
ならばそういう事にしよう」

 まぁ副会長も本当の所は私の話が嘘だと気付いているか。

 花茶を一口含む。
やはりこの茶は質が良い。

「花茶だけでなく花びらと根も買い取りたい」
「かまいませんけど、根まで卸すとなったら見返りは必要ですよ?」
「この国の専売権。
ならびにそなたをこの国の幹部として取り立てる」
「ペネドゥル様?!」

 ラジェットか慌てて近づくが、手を上げて黙らせる。

「これはまた、えらい厚待遇ですね。
理由をお聞きしても?」
「そなたが気に入った。
その物怖じしない肝の据わった気質も、恐らく戦わせればこのラジェットと張り合える程の手練れだろう所も。
それに副会長とはいえビビッド商会は実質そなたが主で動いている。
大方、姿を表さない会長は資金を最初に投資した程度の名前貸しのようなものなのだろう。
言い替えればここ10年の商会の実績はそなたあってのもの。
商人としての情報収集力とそのコネクションも今後私に役立つはずだ」

 副会長が神妙な顔つきになり、考え込む。
月花の根ともなれば慎重になるのも致し方ないか。

「返答期限はこの城に滞在している間としよう。
専売権については名ばかりとはいえ、さすがにそなたも商会の会長と話さねばなるまい。
色好い返事を期待している。
それから城の部屋については私の宮に移ってもらう」
「わかりました。
番様と1度話したいんですが、可能ですか?」
「ザガドが抵抗しないのなら番も私の宮に滞在させ、面会させよう。
そなたは後ろの従者達とこのまま私の宮に行け。
番については追って対処する」
「でしたら番様と面識のあるこの侍従達に迎えを同行させてもらえますか。
万が一誘拐したであろうザガド様が抵抗しても番様がこの者達を選べば素直に手放してくれますやろ。
番様も拐おうとしたザガド様を選ぶはずありまへんし、わざわざ魔の森に新入してまで黒竜に接触しようとされたなら番様が嫌がる事は表立ってせえへんはずですから。
それに番様は人属の中でも特に体の弱い方ですから扱い慣れた者でなければすぐに怪我や熱を出して黒竜の不興を買いかねまへん。
これからも月花を採取するのにこちらとしてもそういうんは是が非でも回避したいんです」

 副会長は立ち上がり、礼を取ってから熊と兎の侍従達を置いて部屋を後にした。

 なるほど、繋がりは副会長と番か。

「ラジェット、あの番をそこの者達と連れてこい。
発熱から2日も経過しているのだ。
人属とはいえそろそろ熱も下がっただろうが、言われてみれば人属の中でも脆弱な部類に入りそうだった。
それからザガドは黒竜の番の誘拐嫌疑がかかっているとして、自室から出すな。
私はこのまま自分の宮に戻る」
「はっ」

 短い返事を聞いて私は1人自分の宮に向かった。

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