【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

35.商人の情報網

「トビめ、しくじったな」

 ファルがレンのベッドに横になりながら不意に呟く。

「どうした?」
「今レンが治癒魔法を使った。
怪我でもしていたんだろう」
「そんな素振りなかったぞ。
軽いものか?」
「レンがわざわざ治したのなら骨折くらいはあったはずだ。
血の臭いはしなかったから、大方そんなところだ」
「レンの体は大丈夫なのか?」
「あの薬も飲んだし、しばらくは様子見だ。
改善しなければまた飲ませる。
全力で拒否されるだろうが」
「そんなに不味いのか?」
「人より味覚の鈍い俺でも余裕で不味い」
「どんなんだよ」
「レンが何度も味を改良しようとして諦めた突き抜けた不味さだが、味わうか?」
「····やめておく」

 ファルの目がマジで不味いと物語っている。
何かすまん、レン。

「いやぁ、レンちゃん寝てしもたわ」

 トビが右手にレン、左手に袋を抱えて上がってきた。

「治癒魔法を使ったようだが?」
「何や黒竜気付いたんか。
森に入る前にちょっと油断して肋骨折ってもうてたんやけど、レンちゃんに見抜かれてな。
でもそれで倒れたんちゃうよ?
薬の副作用と血がまともに回りだしたんと、最近の睡眠不足も手伝って寝ただけやで。
ほら、あの薬って胃で溶けてる間は胸焼けすごいやん?
その間寝て過ごせる方が楽やから誘眠作用のある薬草混ぜてるんよ」

 突き抜ける不味さに物凄い胸焼けって、大丈夫なのか。
ついレンの顔を確認するが、寝顔は穏やかだ。

 ファルがレンを引き受けベッドへ運び、トビは俺の前に座る。

「襲われたんじゃないのか?」
「ふーん、随分鋭いやん」
「トビは何だかんだで強いだろ。
隙がないんだよ」
「さすが騎士さんやな。
森に入る時に竜人に襲われてん。
せやけどただの竜人とちゃう。
俺も師匠がおった時に1回見ただけやけど、あれはワルシャマリ国の1番目の王弟や」
「何でそんなやつが?!」
「気付いてないかもしれへんけど、この森の周りは黒竜の感知結界で囲まれてるんや。
それに気付いて俺を隠れ蓑に入るつもりやったんちゃう。
俺も王弟に気付いて一戦交えてたんやけど、打撃食らった瞬間に黒竜が中に引き込んだからその後どうなったかまではわからへん。
気付いたら小屋の前に立ってたし、入った途端レンちゃんに抱きつかれた時に何か痛いなぁ思てたら、2本いってもうてた」
「抱きつかれた、だと?」
「ちょっ、また殺気!
ホンマ兄さんも大概やで。
レンちゃんは気心知れるまでが軽くて早いし、人属のくせに獣人大好きな子なんやから仕方ないやん。
それに付き合いは黒竜よりも師匠についてた俺の方が長いんや。
レンちゃんが黒竜に会うまでは俺と爺さんとで森の外に連れてったりもしてたんやからな」
「森の外?!
本当なのか?!」
「何で嘘つくん。
ま、でもその時色々あってな。
黒竜がこの森の主に代替わりしてからは1回も出てないんちゃう。
あ、兄さんに会った時に出たんか?
いうてもすぐ側やったんやろうけど、それでもびっくりやわ。
詳しくはレンちゃんが話したくなった時に聞きや。
勝手に話されるんも嫌やろうし、まだ知り合ってそんなにやろ?
レンちゃんは警戒心無さそうでも自分の懐にはなかなか入らせへん。
黒竜かて爺さんと比べたら全然や。
兄さんも慌てて距離詰めようとして拒絶されんようにしいや」
「随分詳しいんだな」
「俺と師匠がそうやったからな。
拒絶した時のレンちゃんはホンマ徹底して拒絶するで。
あの時は師匠と2人で泣いたわ。
爺さんおらんかったら今でもそのままやったんちゃうかな」

 ははは、と乾いた笑いをもらす。
一体何をしたんだ。

「それはそうとな、花茶やけど」
「花茶?
いきなり話が変わったな」
「外の誰かにあげるんか?」
「ああ、副団長だが、どうした?」
「信用できるんか?」
「その爺さんの親戚だ。
もちろん信用できる」
「せやったら、飲む場所も茶殻捨てる時も細心の注意をしときや。
レンちゃんの花茶は月花を使っとるやろ。
あれが誰かの目に触れるんはかなりまずい」
「····月花がこの森で自生しているのは少し前にこの国の陛下達の耳にも入ったが、まずいか?」
「いや、花茶に月花が入ってるんがまずいんよ」
「何故だ?」
「黒竜が花茶を作ると思うか?」
「絶対ないな」
「てことは誰かが魔の森におるかもしれんて推察されへん?
あの国に自生する月花はもうほとんどないみたいやし、花茶作れる竜人なんか聞いた事ない。
実は白竜に番がおったんはあの国では知られてる事なんや。
師匠も黒竜も昔あの国の山に住んでたからな。
最近は魔の森から帰還した騎士の話も商人の間では多少出てる。
黒竜が番を住まわせてて、番が情けかけたって知られたらまずい。
黒竜の後、最上位の色持ちの竜は生まれてへん。
あの国が狙ってるんはこの森の麻薬だけやなくて、黒竜もや。
人属の番なんかおったら間違いなく黒竜の餌として狙われるで」
「おい、何でそんな事お前が知ってる!」
「これでも商人やってるんや。
各国の情報くらいは抑えてへんと生きてかれへんわ。
あの国かて国交は断ってるけど、商人の出入りまで皆無やないからな。
今1番きな臭いんは間違いなくあの国やし、王と王弟達で政権分裂の危機ちゃうかって噂が密かに出始めてるけど、まだ一部の商人の間だけや。
商人かて信用は命に関わるから、ホンマに危ない情報については口も堅なる。
これが更に広まりだした時には早くて何かしら起こる直前や。
せやけど今1番目の王弟が他国をうろついてる事自体あり得へんから嫌な予感がすんねん。
黒竜もレンちゃんの事ちゃんと守りよ、って、おらんのかい!」

 そういやベッドに寝かしたレンの頭なでるだけなでて消えてたな。
トビはこっち向いて座ってたから気付かなかったか。

 にしてもまさかこんな所でワルシャマリ国が出てくるとはな。
つくづくレンの周りは非常識だ。

 俺はこめかみを押さえてため息をついた。

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