【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

34.魔石の作り方

「魔獣の魔石はどうしてできるのか知ってるのは常識?」
「諸説あるが、非常識だな」
「····そう」

 へにょりと可愛い頭が項垂れる。

「レンが非常識なんじゃないぞ。
知らないだけだ。
俺がちゃんと教えていく」
「そもそも魔の森が非常識地帯やから、気にしたらアカンよ」
「う、そんな地帯なの、ここ。
ちゃんと教えてね?」
「もちろんだ」
「黒竜が少しでも出してくれたら色々教えれんのやけどなぁ」
「その必要はない。
調子に乗るなよ、虎」

 突然ファルが現れた。

「もう来たんか。
そんな殺気向けんといてや。
レンちゃんの番は2人揃って怖いんやから。
薬は飲ましたけど、あと1回飲ま····」
「飲まない!
2回は飲んだもん!
ちゃんと大人しくするから、ね、ファル!」

 レンが隣に腰かけたファルの服の裾を思い切り引っ張る。
····必死だな。

「····本当に大人しくするか?」
「する!
しばらく魔石も作らないから!」
「しばらく?」
「····1年くらい?」
「2年は駄目だ」
「そんなに?!」
「飲むのか?」
「····2年ね。」

 渋々了承したレンの頭をファルがぽんぽんとなでる。

「本当に魔石を作れるのか?」
「あぁ。
よりによって母が原理を教えた。
本当に作るとは思って無かったようだが、初めて作った魔石をレンが義父に贈った途端に倒れた。
番にマジギレする獣人を見たのは初めてだったが、母も実物見て相当焦ったらしい」
「俺も師匠が普通に焦ってるん見たんは初めてやったわ。
あと兎はホンマに怒らしたらアカン。
夢で魘された」
「····あの後あの薬を僕の口に放り込んでくお爺ちゃんは清々しいほど笑顔だったよ」

 トビとレンは深いため息をつきながら遠い目をする。
仮にも騎士団団長を務めた方だ。
さぞ恐ろしかったんだろう。

「それで、魔石はどうやってできるんだ?」
「獣人なら獣気、竜なら竜気があるでしょ?
それに比べたら少ないけど人属にも気が体にはあるよね。
魔獣にもそういうのがあって、それと魔素と魔力が心臓やそういう役割をしてる生体の核に凝縮してできるの。
だから魔力が強い、もしくは食べる事によって他の気をたくさん取り込んだ魔獣ほど大きな魔石を内包するんだよ。
魔素は濃い方ができやすいんだけど、魔素が影響するのは魔石ができる時だけだからそこで大きさや魔力量は決まらないみたい」
「レンはどうやって作るんだ?」
「なるべく周りの魔素が濃い時に風を使って集めつつ魔素だけを凝縮して、魔力を混ぜた血を火精にお願いして固めていくの。
魔石ができてきたら徐々に魔力の濃度を上げながら魔石に込めていって、作りたい大きさか込めたい魔力が入るまで血を混ぜながら育てていって、最後に周りを血で薄く固めたら終わり」
「····無茶苦茶だな」
「でも魔石が魔獣の体内でできるのを具体的に再現しただけだよ?
僕が作れるのは獣気や竜気みたいに全身にくまなく宿る気と違って人属の気は血に宿り易いってお婆ちゃんも言ってたから、魔石は人属のが作り易いんじゃないかな。
ほら、血は加工しやすいし採りやすいけど肉片は加工しにくいし採るのはちょっと痛そうでしょ」

 思わず絶句する。
気が血に宿り易いなんて関係ない。
間違いなくただの人属は魔石なんか作れない。
レンの魔力量と想像力が計り知れない。
というか涼しい顔して肉片····ちょっと痛そうとか、やっぱり俺の番は時々ほんのりえげつない香りがする。
まぁ可愛いから仕方ないか。

「それで貧血になるんだな。
俺に血をわけた後、魔石を作ったのか?」
「亡くなった騎士さん達のは本当に手持ちのだし、ベルグルさんとレイブさんに渡した物は侵入した竜人が持ってた大きいやつを魔力補填しただけで、ホントに作ったのはグランさんのだけ。
あの時青竜が派手に血を振り撒いて死んだから、周りに飛び散ってた血の中の魔素に惹かれて森の魔獣が出てきちゃいそうだったの。
グランさんに血をわけるついでに魔石作って魔素を薄くしたんだ。
最初の魔素が濃かったから作りやすかったし。
魔素が青竜の物だから、風と水の魔法や精霊とは特に相性いいよ」
「····俺の知らない所でどれだけの事をしてくれているんだ。
あの魔石は大事にするが、もう無茶はするな」

 やばい、レンが愛おしい。
俺は小さな番をぎゅうぎゅう抱きしめた。

「グランさん苦しい····」
「レンがいじらしいのが悪い。
それよりも魔石を作れる話は今後誰にもしては駄目だ。
もちろん俺にも。
下手をすれば人属狩りが起こりかねない」
「人属狩り?」

 きょとんとした顔が堪らない。
にしても、やっぱりそこまではわかってないようだ。

「ああ。
我が国も含めて多くの国で今でこそ奴隷を廃止し、人属を保護の対象としているが昔は非力さや孕み易さから人属は特に奴隷として狩られてきた歴史がある。
未だに奴隷制度を設けている国や闇商人もあって人属への人権への配慮は希薄な獣人も多いのに魔石を作れる事が知られればレンだけじゃなく人属全てに関わってくるんだ」

 すると少し間を置いて小さな体が強ばって震える。

「····人属····全てって····僕····そんなつもりじゃ····」

 蒼白な顔で俯いて両膝に置いた手が白くなるほど握られる。
可哀想には思うが、事の重大さをちゃんと理解しなくちゃな。

「わかっている。
レンが秘密にしようとしたのを聞き出したのは俺だ。
レンは何も悪くない」

 そう言いながら今度は優しく抱き締めて慰める。
あー、この震えてるとこが小動物みたいでたまらない。

「何や見せつけてくれるなぁ。
でもそろそろ解放してやってんか。
こっちも外に卸す薬貰わんとな」

 くそ、それなら仕方ない。

「····あ、と····そうだった。
トビ君袋持って地下の作業部屋来て」

 まだショックから抜けきれていないのだろう。
ゆるゆると膝から下りたレンと、皮の大袋を持ったトビが奥の地下階段を降りていった。

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