【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

21.治癒術~ベルグルside

「お前は、何者だ」

 冷や汗が出る。
本能が逃げろと忙しなく伝える。
しかし、背を向ければその瞬間に····死ぬ。

「答えてやる必要はない。
お前達も同罪だ。
そこにいる虫の息の獣共々塵にしてくれるわ」

 そうだ、レイブはまだ生きている!
死ぬ瞬間まで生きるのが掟だ。
そして俺は必ず騎士証を家族に届けてやらねばならない!

 青年の周りに黒い闇が広がる。
辺りは随分暗くなったが、その闇は格段に濃い。
俺は剣を構え、風の魔術を発動····

「····ちゃー····、····ァルー····たー」

 何だ、子供の声か?
遠くから呼ぶような声が聞こえる。

「····チッ、この時間に外に出るなと····」

 青年が苛立ち、ギリリと歯ぎしりする。
何だ?

「ウォンちゃーん、ファールー、月花もう咲いたー?」

 声が近づき、何を言っているのか聞こえた。
ただ内容が入ってこないほど口調が能天気だ。

「チッ、運が良い奴らだ」

 青年が大きくため息をつき、振り返って叫ぶ。

「レン!
この時間に1人でうろつくなと何度言ったらわかる!」

 状況が飲み込めない。
青年の雰囲気も完全に変わった。

「うわっ、何これ!
少し前のアレって地震じゃなかったの?!」

 青年の後ろから黒髪黒目の小さな少年がひょこっと出てきた。
場違いな程に庇護欲をそそる、人属の少年だった。

「あれ、誰かいる?」

 人属では夜目がきかないから見えていないのだろう。

「お前達は誰だ?」
「答えてやる必要は····」
「ねぇ、誰か怪我してる?
血の臭いがすごい····」

 青年を遮って少年が声を発した。
そのまま前進しようとする少年を青年が止める。

「やめろ。
侵入者が自然淘汰されるだけだ。
俺はまだ手をだしていない」

 いや、ワイバーンを殺したのはお前だろう。

「仲間がもうすぐ死ぬだけだ。
気にするな」
「まだ生きてる?」
「かろうじてな。
だが、もう手遅れだ」
「見せて」

 ずかずかと雪を踏みしめ歩み寄る。
青年が腹立たしげに、おい、と声をかけるが完全に無視している。

 剣を構える俺の前に来たが、全く剣先に気づいた様子もないので慌ててそれを下げる。
少年の目には輪郭くらいしか見えていないのだろうが、警戒心が無さすぎだろう。

 ひんやりした小さな手が手探りでそっと俺の手を取る。

「どこにいるの?」

 案内しろという事か。
そういえば照明灯をつけてやれば良いのか。
剣を置いて手の平に小さな光を集める。

「んん、眩しい!」
「う、すまん」

 ちょうど少年の顔の辺りを照らしてしまったようで、目が眩んだらしく後ろにたたらを踏む。
繋いだ小さい手を潰さない程度に力を入れて転ばないようにしてやれば、まだ良く見えていないだろう目をこちらの方に向けてにこりと微笑む。

「いた」

 目が慣れたのかレイブを見つけ、するりと手を離して走り寄る。

「良かった、まだ生きてる。
おじさん、ここ照らして」

 少年に言われるまま傷口を照らす。

「治癒術ではもう治らん。
苦痛を長引かせてくれるな」

 もうほとんど息がない。

「大丈夫だよ」

 少年が手を魔法で洗浄し、出ていた内臓をぐぐっと押し込む。

「おい!
何を····」
「おじさん、助けたいなら黙ってて」

 真顔で冷たく諌められる。

「内臓も傷ついてるね」

 小さな手の平を傷全体を覆うように押し当てて目を閉じた。
少年の手の周りを金の光が包む。

 ゆっくりと傷口をなでるように傷にそって動かす。

「嘘、だろ···」

 傷が消え、最後に光が消えた。
少年は血まみれの手をもう1度洗浄して、顔を照らすように指示を出す。

 手慣れた様子でレイブの脈を取り、下瞼の状態を確かめた後、コテリと首を傾げる。

 どうした?

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