前世が最悪の虐待死だったので、今生は思いっきり人生を楽しみます

克全

第65話:ご機嫌

 セバスチャンがとても機嫌よく日々を過ごしている。
 他の人間には分からないだろうが、俺には分かる。
 たぶん父上も分かっておられるだろうが、スキップしかねないくらいだ。
 恐らくだが、父上が一皮むけられた事がうれしいのだろう。
 それと、自分の好き放題、魔力と魔術の実感ができる事がうれしいのだろう。

「イーライ様、今日は従獣に魔晶石を埋め込む実験をいたしましょう」

 またセバスチャンがとんでもない事を言いだした。
 マッドサイエンティストそのものだな。

「セバスチャン、そのような実験をする事が、後に悪影響を及ぼさないか、ちゃんと父上に確認したのか、確認していないのなら絶対にやらないぞ」

 うわ、一気に表情が悪くなったよ、また確認せずに突っ走ってしまったんだな。
 あれほど沈着冷静で、謀略に長けていたセバスチャンが、一気に愚かになった。
 もしかしたら、父上が成長されたので、油断してしまっているのだろうか。
 それとも、これも父上と俺を鍛えるための演技なのだろうか。
 以前のセバスチャンを考えると、演技だと思うのだが、違う気もする。

「直ぐに確認したいので、大公城までお送り願えませんでしょうか」

 セバスチャンにそう言われてしまったら、断る事などできない。
 今のオアシス周辺では、どうしても俺が必要な事はほとんどない。
 勉強も狩りも耕作も、後回しにしても構わない。
 本当にどうしてもしなければいけない事は、従魔従竜に魔力を与える事だけが。
 いや、それも、俺が創り出した亜空間に移動させれば何の問題もなくなる。
 魔力を充満した魔核や魔石をベラに預けてもいいのだ。

「分かった、では直ぐに行って直ぐに戻ってくるぞ」

 だが、どうしてもやらなくてもいい事でも、俺にとってはとても大切な事がある。
 ベラたちと一緒に学び遊び仕事をすることを、とても大切に感じているのだ。
 その時間を確保するためなら、大公城での役目を放り出したくなることがある。

「おお、いい子だ、いい子だ、元気がいい事が何よりだぞ」

 大公家のプライベート空間に転移すると、父上と母上がオードリーとサバンナの相手をして遊んでいた。
 本来なら政務に忙しい父上と母上なのだが、最近は執事補佐が育ってきたようで、絶対にやらなければいけない仕事が激減している。
 父上と母上が四人で過ごす時間を確保している原因が、セバスチャンの献策のせいならば、それに加担しまった事に胸が痛む。

「おお、よく戻ってきてくれた、イーライ。
 お前もオードリーとサバンナを抱きしめてやってくれ」

「はい、父上の、この後は特になにも用事がありませんので、二人が眠るまで遊び相手を務めさせていただきます」

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