前世が最悪の虐待死だったので、今生は思いっきり人生を楽しみます

克全

第52話:初恋

「イーライ様、さみしかったです」

 転移魔術で戻ってきた俺を見るなり、ベラがそう言って抱きついてきた。
 普通大公公子にこんなマネをしたら、重罪に問われるだろう。
 重罪に問われる以前に、護衛騎士や兵士に阻止されるだろう。
 平民が大公公子に抱きつくのを許したとなれば、護衛騎士や兵士は厳罰処分を受けて、もう二度と表舞台には出られなくなる。

 だが俺の直轄領となった大砂漠の耕作地では、そんな野暮なマネをする護衛騎士も兵士もいないし、遠慮しなければいけない相手も誰一人いない。
 だから俺の好き勝手する事ができるのだ。
 だからと言って、この歳て色恋に走る気などない。
 ただ、そう、ただ、子供たちともスキンシップを取りたいだけなのだ。
 従魔だけではなく、同年代の子供たちとも普通に仲良くなりたいだけなのだ。

「寂しかったって言っても、たった五日だけじゃないか。
 その五日も、毎日伝書魔術を送っていただろう。
 それに、ベラには母親も従魔のいるのだから、それほど寂しくはないだろう」

「たった五日ではありません、五日もの長い時間です。
 伝書魔術をお声を聞きことはできましたが、遠く離れてしまっています。
 母も従魔もいてくれますが、イーライ様もいてくださらないとさみしいです」

 何とも身勝手な言い分だが、まったく腹が立たない。
 それどころかうれしく感じてしまうのだが、なぜだろうか。
 前世では、あいつ以外に俺を心配してくれた奴はいなかったから、その反動か。
 ここまで執着されたら普通嫌になると思うのだが、むしろうれしい。
 これが恋だとは思えないが、何か満たされるものがあるのかもしれない。

「イーライ様、聞いてくださっていますか」

「ああ、ちゃんと聞いているよ、ベラ。
 そんなに俺の事を待っていてくれたのはとても嬉しいよ。
 でもいい加減抱きつくのは止めてくれないかな。
 嬉しいのだが、他の子供たちにも挨拶をしたいのだよ。
 放置していた畑も気になるし、オアシスも点検しなければいけない。
 狩りができなくて、ベラたちの従魔が苛立っていてもいけないしね」

「それは大丈夫ですわ、イーライ様。
 従魔たちとはたくさん騎乗訓練をしましたから、発散できています。
 魔力もイーライ様が置いて行ってくださった魔獣肉を与えていましたから、苛立つ事もなく満たされています。
 耕作地もオアシスも私たちで点検しておきました」

「点検しておいてくれてありかとう、ベラ。
 でもね、ここは俺の領地だから、留守をしたら必ず自分の目で確かめないといけないのだよ、それが領主の責任なんだよ」

「はい、分かりました、ご案内させていただきます。
 私がイーライ様を耕作地とオアシスにご案内させていただきます」

「ありがとう、ベラ、とても嬉しいよ。
 でもね、先にみんなの無事を確かめたいのだよ。
 子供たちと従魔たちの無事を確認しなければ、とても一緒に出掛けられないよ。
 分かってくれるね、ベラ」

「はい、分かりました、イーライ様。
 直ぐに従魔に命じて全員を呼び寄せますので、しばらくお待ちください」

 ベラがそう言うと、即座に側にいた下位の従魔十数頭が駆けて行った。
 炎魔狼から火炎魔狼に進化した従魔がベラの直ぐ側に残り、その少し外側に上位の従魔がベラを護るように布陣している。
 だが彼らは俺の側によることができないでいる。
 あくまでも俺の反対側に侍っているのだが、それもしかたがない。
 遥か格上に進化をした大和たちが俺の側にいるからな。

「ああ、分かった、ここでみんなを待たせてもらうよ。
 でも本当にもう抱きつくのを止めてくれないかな、ベラ。
 さすがにいい加減恥ずかしくなってきたのだが……」

「嫌でございます、イーライ様。
 五日もイーライ様の側にいられなかったのです。
 その分側にいてイーライ様の愛情を感じさせて頂けなければ、さみしくて死んでしまいますから、絶対にやめません」

「あああああ、ベラずるぅういぃいいいい」
「あああああ、ほんとうだぁあああああ」
「ベラがずるしてるぅううううう」
「わたしも、わたしもイーライ様の抱きつくぅううううう」
「「「「「ぼくもぉおおおおお」」」」」
「「「「「わたしもぉおおおおお」」」」」

 他の子たちが集まってきた後は地獄絵図だった。
 ベラだけではなく、他の子供たちまで俺に抱きついてきてしまった。
 俺より年上の聞き分けのいい男の子は抱きついてこなかった。
 だが女の子や小さい子たちは聞き分けてくれなかった。
 少しでも空いている所があると争って抱きついてくる。
 このままでは小さい子がケガをしてしまうかもしれない。

「止めろ、もう止めろ!
 このままでは小さい子がケガをしてしまう。
 順番に抱きしめてあげるから、一度全員離れなさい。
 ベラ、君か一番先に離れなさい!」

「はい、イーライ様、ごめんさない」

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