前世が最悪の虐待死だったので、今生は思いっきり人生を楽しみます

克全

第39話:竜盆地

 俺とセバスチャンが陸上歩行だけに退化した竜を見つけた場所。
 それは大山脈と呼ばれていた魔物の住む広大な山々の、かなり奥にあった。
 初日は飛行種亜竜の魅了しか行わなかったのだが、危険がないか確認するために、最大規模の探知魔術を展開した時に発見してしまったのだ。
 飛行種亜竜をはるかに超える魔力を持つ生物がウヨウヨといるのを。

 俺の独断で知った事を握り潰す事などできないから、セバスチャンに伝えた。
 探索しようと言うのは分かっていたが、それくらいなら危険はないと思ったのだ。
 セバスチャンと一緒に行動したとしても、防御魔術を展開すれば、どれほど多くの魔竜に攻撃されても、大丈夫だと判断していた。
 探知魔力で分かった亜竜の魔力なら大丈夫だと思っていたのだ。
 今思えば、少し自信過剰になっていたのだと思う。

 あんなに気持ち悪い姿をした亜竜がいるとは思っていなかったのだ。
 ヘビやワニ型の亜竜がいると知っていたら、いや、俺がこんなに爬虫類に拒絶反応を起こすとは、俺自身が知らなかったのだ。
 前世から爬虫類は嫌いだったが、あの時は精々二メートルのアオダイショウが相手だったから、気持ち悪いと思った時点で逃げれば済んだ。

 だがこの世界では、セバスチャンが騎乗訓練をすると言いだすのだ。
 あんな気持ち悪い生き物の背中に乗るなんて絶対に嫌だ。
 背中に乗るどころか、目に見える範囲に近づくのも嫌だ。
 その気持ちが影響したのだろうか、それとも最初から無理だったのだろうか。
 最初からどうしても魅了魔術を使う気になれなかった。
 だが魅了できなかった亜竜種がいた事で、食料の確保が容易になった。

 もし全ての陸上種亜竜が従竜になっていたら、食料を集めるのが大変だったろう。
 大魔境で従竜の食料になる魔獣と魔蟲を集めなかればいけなくなるからだ。
 集めなければいけない食料がとんでもない量となり、今度こそ魔境の魔獣や魔蟲が絶滅したかもしれない。
 だからこそ、俺はセバスチャンに提案したのだ。

「セバスチャン、この大魔山に大魔境の魔獣や魔蟲を移住させて繁殖させたいのだが、何か弊害があるだろうか」

「申し訳ありません、イーライ様。
 イーライ様に外来生物の悪影響をお教えするのを忘れておりました」

「外来生物の悪影響とは何なのだ」

「外来の生物が大繁殖する事で、元からあった生態系を破壊してしまう事です。
 今回の事に当てはめますと、大魔境の魔獣と魔蟲が大魔山で大繁殖する事で、元から住んでいた亜竜種が滅んでしまう状況でございます」

「それは、恐ろし過ぎるな」

「はい、大公家の大戦力になるかもしれない亜竜が数多く見つかったのです。
 その亜竜を自らの手で滅ぼすわけにはいきません。
 滅ぼすとしたら、利用価値のない小さな魔境にするべきでしょう。
 魅了して大魔山から出せる事になった亜竜を、小魔境に移住させるべきです」

「いや、そんな事を言っている訳じゃないし、小魔境とはいえ、魔獣や魔蟲を滅ぼしていいとは思っていないから」

「そうですね、確かに魔獣や魔蟲と言っても滅ぼしていいものではありませんね。
 では移住させる亜竜の数を限りましょう。
 大公家の家臣団を大魔境に連れて来て、家臣が従竜のできた亜竜だけを公爵城近くの魔境に移動させて、騎乗訓練をさせましょう」

「そうか、だが本当にいのか、そこまで俺の魔力を使ってしまって。
 今のままでも十分な戦闘力があるのだろう。
 必要もない魔力を亜竜のために使うくらいなら、保存のできる食糧生産と備蓄に使った方がいいのではないか。
 そのために地下用水路を造る事にしたのではないのか」

「これは、一本取られましたな。
 大好きな恐竜そっくりの亜竜を発見した事と、この世界でも伝説と言える竜を発見できた事で、舞い上がってしましました。
 確かに今の大公家が最優先にすべきことは、食料の生産と備蓄ですね。
 ただ、イーライ様だけには亜竜種に騎乗する訓練をしていただきますよ。
 爬虫類が苦手だとか怖いとかは言わせませんぞ」

 誤魔化そうと思っていたけど無理だったか。

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