前世が最悪の虐待死だったので、今生は思いっきり人生を楽しみます

克全

第36話:地下用水路

「セバスチャン、本当にこの大砂漠を耕作地にすると言うのか」

「はい、その通りでございます、イーライ様」

「魔術で水を創るのではなく、あの遠くに見る大山脈から、この大砂漠まで水を引っ張ってくると言うのだな」

「はい、それも地上に川を造るのではなく、地下に川を造って頂きます。
 前世は地下用水路と言われていたモノでございます」

「俺は小学校までしか行っていないので、前世の知識はとても乏しい。
 セバスチャンが教えてくれたことは覚えているから、地下用水路も分かる。
 だがなぜ地下用水路のするのかが分からない。
 そこまで大掛かりにするよりも、魔力で水を得た方がいいように思う。
 魔力なら必要な分量だけ水を創ればいいからな」

「イーライ様には何度も申し上げましたが、魔力を使わなくても人力でできる事は、できる限り人力でやれるようにしておくべきなのです。
 今はイーライ様がおられますので、大公家には有り余る魔力がございますが、イーライ様が千年二千年と生きられるわけではありません。
 イーライ様が亡くなられた後の事も考えなければなりません。
 それに、もし万が一王家や隣国と戦争になった場合、魔力に余裕がなくなって、作物を作れなくなったら大変でございます」

「そうか、魔力が大切で、魔力を使わない方法を優先するというのは分かった。
 ではなぜ近くの川から引かないのだ。
 大公領にはそれなりの川がたくさんあるから、そこから引く方が小規模の魔術ですむし、使う魔力量も圧倒的に少ないのではないか」

「確かに大公家の領内には少なくない川がございますが、足りません。
 この先も見えないほどの広大な大砂漠を、全て耕作地にするには全く足りません。
 もし領内の川から水を引く事になると、大砂漠の開拓が進めば進むほど、領内での水争いが激しくなります。
 それが分かっていて、領内の川から水を引くことはできません。
 足らなくなってから大山脈から水を引くくらいなら、最初からやるべきです。
 イーライ様の魔力が使えるうちに、やれる事は全てやっておくのです」

「そうか、よく分かった、だったら頑張ってやる。
 だがそうなると、あの遠くにある大山脈まで行かなければならないのではないか。
 行っただけではなく、地下用水路を造らなければいけないのだろう。
 とても時間がかかると思うのだが、子供たちはどうするのだ」

「子供たちには、力を合わせて大砂漠側から地下用水路を造ってもらいます。
 大砂漠を耕作地にできれば、子供たちが将来封じられる領地になります。
 その時の事も考えると、用水路の修理ができた方がいいですからね。
 魔力を使って修理する方法と、人力で修理する方法の両方を知っていれば、何かあっても用水路の水で困る事はありません」

「なるほど、そういうことなら修学旅行として子供たちを連れてきたのも分かる。
 だが普通の修学旅行は、二泊三日とか三泊四日ではないか。
 セバスチャンの言うやり方だと、ひと月くらいかかるんじゃないか」

「確かにそれくらいかかるかもしれませんが、いい実戦訓練になります。
 子供たちだけではなく、護衛騎士たちにもです」

「ふううう、最初から子供たちだけではなく護衛騎士たちも鍛える気だったのだな。
 それはいいが、従魔たちはどうするのだ。
 狩りができないと、従魔たちが苛立ってしまうぞ」

「イーライ様はまだ大砂漠の魔力探知をされていないのですね。
 大砂漠にも数は少ないですが固有の獣や虫がおります。
 大砂漠の中には、魔砂漠があると言う噂もございます。
 大砂漠の奥に踏み込めば、魔砂漠に出会えるかもしれません。
 それに、狩りができなくても、パートナーと騎乗訓練ができます。
 魔力のある食料さえ渡しておけば、苛立つことはないと思いますよ」

「セバスチャン、その言い方は凄く気になるのだが、はっきりと答えてくれ。
 遠くに見える大山脈は、魔の山なのか?!」

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