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念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全

第1話:念願の異世界転生

「お爺様、私を戦わせてください。
 何もできない事は分かっています。
 ですが、何かしなければいけない事も分かっています。
 護衛の騎士たちの言う事を聞き、戦いの邪魔になるような事はしません。
 だから私に初陣させてください」

 俺は必死だった。
 今ここで戦わなければ、人生が詰んでしまう事になりかねない。
 念願の転生を果たしたのだ。
 魔力もなく、絶体絶命の危機に陥っていようとも、諦める訳にはいかない。
 最前線の城で魔族軍を止めなければ、領民が皆殺しにされかねない。

 前世の俺は家族や友人知人の問題で人生を諦めていた。
 最低限は働いたが、それ以外は人との接触を極力避けていた。
 そして現実から逃避して、アニメやラノベの世界にのめり込んでいた。
 自分が異世界に転生できたら、こんな事がやりたい、あんな事もしたい。
 そう思う事で、嫌な毎日の仕事を何とかこなしていた。

 異世界に転生できる事を前提に、色々な準備をしていた。
 ありとあらゆる知識を持っていきたくて、ノートパソコンを買った。
 ノートパソコンには考えられるすべての情報をダウンロードしておいた。
 非常用の電源として、携帯用の太陽光発電パネルを購入した。
 水力発電キットも手回し充電器も買ったし、剣鉈や工具類も買った。
 全て持ち運べるようにリュックサックを買った。

 非常用持ち出し袋では小さいので、登山ような大きなリュックを買った。
 異世界転移も想定して、常に、寝る時も身につけて寝ていた。
 大型の登山リュックを背負って眠るのはとても寝苦しかったが、耐えた。
 だが、異世界転生では持ち物が無意味になるから、必死で全部覚えた。
 でも、情けない話し、記憶力がよくないうえに、年々忘れっぽくなる。
 怠惰な性格に叱咤激励し、物忘れにあらがいながら、知識を詰め込んだ。

 60歳で死ぬと思っていたのだが、何故か88歳まで生きる事ができた。
 いや、生きるてしまったと言った方がいい。
 60歳の方がまだ記憶が鮮明で、忘れていない事も多かったのだ。
 今こうして転生する事ができている以上、60歳で死んだ方がよかった。
 まあ、自殺する勇気など鼻くそほどもなかったけれど。

 念願の転生だが、なんと俺は辺境伯家の直系だった。
 愚か者たちが召喚した魔王を斃した英雄が、俺の曾祖父だというのだ。
 しかも曾祖父は、莫大な資産と素材を専用魔法袋に蓄えている。
 さらに自分が死んだ時の事を考えて、汎用魔法袋も大量に作ってくれている。
 子孫の事を考えて至れり尽くせりだった。
 俺が生まれる年までは……

 曾祖父は魔王と刺し違えて死んでしまった。
 この大陸にいる全ての魔術士と共に、魔王とその眷属である魔族を斃すために。
 だが、強大な魔王と魔族は皆殺しにしてくれたが、比較的弱い魔族は残った。
 愚か者が召喚した魔王と一緒に瘴気がこの世界に入り込み、人間を魔族にした。
 だから大陸の人間の1割が魔族に変化してしまっていたのだ。
 そしてその魔族が人間を襲い喰らった。

 人類は激減し、今生き残っている人間はドラゴン辺境伯領の30万人だけだ。
 確かめたわけではないが、ドラゴン山脈と大魔境にはさまれた、ドラゴン辺境伯領以外に人類の安住の地はないと言われている。
 ドラゴン辺境伯領は年々状況が悪化していった。
 曾祖父亡き後、跡を継いだ祖父は、その頃はまだ残っていた、ドラゴン山脈西側のドラゴン辺境伯領の本拠地で戦っていた。

 まだ生き残っていた人々を助け、安全なドラゴン山脈東側に移住させるべく、ドラゴン辺境伯の総力を結集して魔族と戦っていた。
 だが魔族はひっきりなしに襲いかかってくる。
 いかに曾祖父の残してくれたドラゴン素材の武具があっても、消耗はする。
 しかも悪しき皇太后が変化した魔族、オーククィーンが大規模侵攻をしてきた。
 20万もの強力な魔族の侵攻で、祖父たちは本拠地を捨てざるを得なかった。

 敗戦はドラゴン辺境伯家の求心力を著しく低下させた。
 人々を自暴自棄にさせ、治安の悪化につながってしまった。
 暴行や略奪、暴動や叛乱にまで発展した。
 祖父は反抗的な領民を討伐して、強権的に統治をおこなうしかなかった。
 だが1番問題だったのは、祖父や一族に取り入って権力を手に入れようとする、佞臣が辺境伯家の入り込んで来る事だった。

 そもそも邪悪な心を持っていた者は瘴気で魔族化している。
 人間の姿を保っている人々は善男善女のはずだった。
 だが曾祖父や祖父の優しさが完全に裏目に出ていた。
 偶然発展された事だが、瘴気によって魔族化した人間は、ドラゴン山脈の魔境地区に入り、魔素の影響を受けると人間に戻れたのだ。
 曾祖父や祖父は魔族を人に戻して領内に保護したのだが、それが悪手だったのだ。

 元々魔族化するほど性根の腐った悪人たちなのだ。
 人間に戻したところで、その性格の悪さや悪辣さが矯正されるわけではない。
 彼ら元魔族は、人間に戻っても元々領内に住んでいた善男善女を襲い奪い殺した。
 俺だったら最初から救わないし、救うにしても隔離して管理した。
 曾祖父は英雄だが、人間として甘い所があったのだと思う。
 祖父は偉大な曾祖父に近づこうと、魔術以外の部分を真似ているが……

「そうか、カーツの決意と勇気はとても称賛に値する。
 本当ならば手放しでほめてやり、最前線に送るべきところだ。
 だがブラッド城は魔族を止める大切な拠点だ。
 ろくに戦の事も分からない、若輩者に任せるわけにはいかん。
 ドラゴン辺境伯家の嫡孫がいるだけで、兵士には負担になる」

「私がいる負担は、護衛騎士たちが軽減してくれます。
 何より私には、辺境伯家の一員として白銀級魔法袋が与えられています。
 その物資を使えば、ブラッド城の籠城に力添えできます。
 それにアレキサンダーがいれば、城代の負担を軽減することができます。
 鷹匠のジャクソンがいれば、空からの偵察網が厚くなります。
 狼使いのカーターがいれば、夜の策敵も厚くなります。
 どうか初陣の許可をください」

 祖父は日々の政務と責任で消耗しているのだろう。
 目の下のクマを化粧で隠そうとしても、隠しきれていない。
 祖父はドラゴン辺境伯家が置かれていく状況を正確に理解している。
 俺が死ぬような事があれば、辺境伯家が後継者争いで自壊する可能性がある。
 だからこそ、俺を危険な最前線に行かすのは反対なのだろう。
 だが、俺がブラッド城に行けば、祖父の心労は増えるが、士気は確実に上がる。
 決断してくれ、二代目ドラゴン辺境伯ジャック。

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