悪役令嬢戦記:死ぬしかない悪役令嬢に転生したので、無双を目指す事にしました。

克全

第60話:豊作

 作物を実らせるには魔力が必要になるのがこの世界です。
 王侯貴族が圧倒的な力を持つのもそれが理由です。
 私はこの国を捨てた貴族の代わりに平民出身の魔力持ちを登用しました。
 彼らの大半はごくわずかな魔力しか持っていませんから、領地を豊かにする事には役立ちませんが、戦争の時にはそれなりに使えます。
 亜竜素材の武器や防具を貸与すればという前提はつきますが。

「クローディア、作物の収穫はどうですか」

 私は一番気になっていた事を確認しました。
 王族派を捕らえる事なく逃がした事で凶作など起こしてしまったら、今は私の事を褒め称えている国民も、怨嗟の声をあげる事でしょう。
 公爵派の貴族達は、食料不足で暴騰した穀物を売り惜しむ事でしょう。
 この国はとんでもない混乱の中で皇国軍の再侵攻を受ける事になります。
 そんな事を予測して、老害王達を亡命させたのでしょうね、皇国は。

「ご安心くださいませ、お嬢様。
 王国直轄領と公爵領は大豊作でございます。
 通常の五分の一に期間で作物が実るなど、前代未聞の事と民達は狂喜乱舞し、お嬢様の事を神のように慕っております」

 最初からの計画通り、魔力で領地を大豊作に導きました。
 本当は穀物の生育期間までいじる気はなかったのですが、聖女カチュアの設定が変更されていたので、大量の魔力を使わせておく事にしたのです。
 私と彼女が分担して大地に魔力を満たせば、私は予備の魔力を蓄えつつ、聖女カチュアの魔力を消費させる事ができます。
 聖女カチュアが断罪ルートに入ったとしても、殺すことなく捕らえられます。

「領地を褒美に与えた貴族達はどうですか。
 ちゃんと新しい領地にも魔力を与えていますか」

 私が気にしていた事の一つに、味方だった公爵派貴族が、新しく得た領地を公平に扱うかがありました。
 新しい領地にまで魔力を与えられなくて、領民を飢えさせることが心配でした。
 彼らに領地を与える事は貴族として当然の事なのですが、凶作になって民が餓死したり、女子供が売り払われたりしたら、私の精神がもちません。

「はい、その点は大丈夫でございます、お嬢様。
 お嬢様が領地を与えられた時に、治められなければ取り上げると申されました。
 そのうえでの今回の大豊作でございます。
 お嬢様お一人で逃げた貴族達の領地を収められる事を証明されました。
 治められなくても取り上げられないと思っていた貴族達も、本気で領地に魔力を注いで回っております」

 魔力を公平に注いで回ったら、元からの領地は少し不作になるかもしれません。
 ですが領内に極端な差が生まれなければ、餓死するような事はないでしょう。
 少ない魔力で以前と同じ収穫量を得ようと思えば、広い農地が必要になります。
 王家直轄領と公爵領で移民を募集したら、国内の貧民が集まるかもしれません。
 彼らを傭兵団に入団させれば、皇国軍が侵攻してきた時には、以前よりも楽な戦いができるかもしれませんね。

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