悪役令嬢戦記:死ぬしかない悪役令嬢に転生したので、無双を目指す事にしました。

克全

第22話:弱い魔蟲

「食ったらさっさと次の獲物を狩りに行くぞ」

 クローディアがまるで男のように乱暴な言葉遣いで、傭兵候補の貧民を追い立てて、次の狩場に移動させます。
 今回冒険者ギルドから依頼を受けたのは、牙鼠だけではありません。
 魔蟲に分類される油蟲や蝉蟲も狩って欲しいと頼まれているのです。
 ですが油蟲や蝉蟲は、素材としての価値などなく、買い取り対象ではないのです。
 補助金もわずかで、慈善事業で狩りをしていなければ、絶対に狩らない魔蟲です。

 油蟲と蝉蟲はとても繁殖力が強くて、年々数が増えて来ています。
 魔境の食物連鎖で最下層に位置する油蟲と蝉蟲は増えると、それを食べているほんの少し強い魔蟲や魔獣が増えてしまいます。
 それが繰り返される事で、魔境に強大な魔蟲や魔獣が生まれてきてしまうのです。
 だから冒険者ギルドは、多少の補助金を出して駆逐しようとするのですが、ギルドが出せる補助金には限界があるので、年々魔獣が強大化しているのです。

「お前達でも油蟲や蝉蟲なら狩れるだろう。
 農地を頂いた時の事を考えて、油蟲や蝉蟲を効率よく斃せるようになっておけ。
 油蟲は大切な作物を食い荒らす害虫だ。
 蝉蟲は果樹の生命力を吸って枯らす害虫だ。
 新たに開墾する農地は、どうしても魔境に近い場所になる。
 魔境からさまよい出てくるような、弱い魔蟲や魔獣くらい自分で斃せないと、農民には成れないぞ。
 それに、斃した油蟲や蝉蟲は食料にも肥料にもなる。
 知識と経験があれば、貧民街から抜け出す事も不可能ではない。
 この機会に色々学ぶのだ」

 口にする言葉は厳しいですが、クローディアはとても優しいのです。
 貧民達が、特に孤児達が、人並みに生きて行けるようにしてあげたいと思っているのを、私は知っているのです。
 魔境はとても危険な場所で、孤児達が単独では入れるような場所ではありませんが、魔境からさまよい出るような、弱い油蟲や蝉蟲は子供達でも斃せるのです。
 そして、それなりの豊かな人でも、魔蟲を食べるのです。

 私は食べた事がありませんが、油蟲は海老の尻尾のような味だそうです。
 友達が悪乗りして創った設定ですが、油蟲は素揚げにすると結構美味しいのです。
 ですが、貧しい民に油を用意する事などできません。
 当然ですが、てんぷら粉をつけて揚げる事もできません。
 頭を取ってお腹に塩を詰め、直火で焼くのが適当でしょう。
 それでも狼や山狗の肉よりは美味しいと聞いています。

 蝉蟲も同じで、素揚げやてんぷらが美味しいのですが、貧しい人は直火で丸焼きするか、素焼きして粉末保存する方がいいと聞いています。
 毎日必ず仕事や食料が手に入るとは限らないのが貧民です。
 飢え死にしないようにするには、食料を保存しておくことが大切です。
 人間が生きていくため絶対必要な塩と混ぜて、蝉塩にするのがいいと友達が言っていましたが、私は絶対に食べません。

 私が油蟲や蝉蟲を確保したかったのは、回復薬を作るためなのです。

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