ショートストーリーあれこれ
或る男の話―初恋は実らない・・・?
私の初恋は幼稚園の時、隣にいたA子だった。彼女とはウマが合ったのか、何かと一緒になる事が多かった。小学校に上がっても6年間同じクラス、勉強に遊びにと同じ時間を過ごした。単なる友達だった二人が、恋人同士になるのには6年は十分な時間だった。しかし、二人が別れ別れになる日が来た。
小学校の卒業式の日。A子は地元から離れた私立中学に進学、私は地元の公立中学に進学する事が決まっていた。式が終わった後、私とA子は校舎裏の桜の木の前にいた。
「お別れだね・・・遠くに行っても、僕の事を忘れないでね。」
「うん。・・・ねえ。大人になったら、また逢えるよね?」
「逢えるさ。その時はまたここで・・・」
(それから20数年後・・・)
40歳になった私は、転勤で久方ぶりに地元に戻ってきた。地元の大学を卒業した後、中堅どころの商社に就職。転勤族になったが故か、私はとんと女性に縁がなくなっていた。いや、正確に言うとA子への想いを断ち切れないでいた。卒業式の日以来、私はA子に逢っていない。噂によると彼女はキャリアウーマンとして東京で就職、地元には帰っていないらしい。
「また、A子ちゃんに逢いたいな・・・でも、きっともう旦那さんがいて、子供の一人や二人・・・」
私は静かに呟きながら、ふと卒業式の日に交わした約束を思い出した。今度の休みの日にでも言ってみるか、そう思い立った。
休みの日、私は20数年ぶりに母校に来ていた。校舎こそは建て直されていたが、約束を交わした校舎裏の桜の木は残っていた。やっぱり居ないか、そう思いながら立ち去ろうとした時だ。
「ねえ・・・私君?」
聞き覚えのある声に、私は振り向いた。そこには、私と同じ齢を経たA子が居た。年齢こそは重ねたものの、少女時代の面影を感じさせる顔つきだった。
「もしかして、A子・・・?」
「うん・・・元気そうだね。」
「ああ。転勤族だから、未だに独り身だけとね。A子は?」
「私も同じよ。ただ、私の理由はちょっと違うけどね。」
「えっ・・・?」
「私、私君の事が忘れられなくて・・・お付き合いした男性もいたし、お見合いも何人かとしたわ。でも、結婚迄は至らなかった・・・」
「それって・・・」
「私君に逢いたかった。私には、貴方しかいないの・・・私が人生を共に過ごすのは、貴方しか・・・」とここまで言ったところで、A子は泣き始めた。そんな彼女を、私はゆっくりと抱きしめる。
「僕も同じだよ。共に人生を過ごす相手は、君しか居ない。A子、僕に付いてきてくれるかい?」
その言葉に、A子は静かに頷いた。幼稚園の頃から抱いていた恋心は30有余年を経て、実りの時を迎えたのだ。
(初恋は成就しない、っていうけど・・・それは違う。想い続ければ、恋はいつか愛になるんだ・・・)
私は心で呟きながら、再び彼女を抱きしめた。桜は私達を祝福するように、花びらのシャワーを私達に浴びせていた。(終)
小学校の卒業式の日。A子は地元から離れた私立中学に進学、私は地元の公立中学に進学する事が決まっていた。式が終わった後、私とA子は校舎裏の桜の木の前にいた。
「お別れだね・・・遠くに行っても、僕の事を忘れないでね。」
「うん。・・・ねえ。大人になったら、また逢えるよね?」
「逢えるさ。その時はまたここで・・・」
(それから20数年後・・・)
40歳になった私は、転勤で久方ぶりに地元に戻ってきた。地元の大学を卒業した後、中堅どころの商社に就職。転勤族になったが故か、私はとんと女性に縁がなくなっていた。いや、正確に言うとA子への想いを断ち切れないでいた。卒業式の日以来、私はA子に逢っていない。噂によると彼女はキャリアウーマンとして東京で就職、地元には帰っていないらしい。
「また、A子ちゃんに逢いたいな・・・でも、きっともう旦那さんがいて、子供の一人や二人・・・」
私は静かに呟きながら、ふと卒業式の日に交わした約束を思い出した。今度の休みの日にでも言ってみるか、そう思い立った。
休みの日、私は20数年ぶりに母校に来ていた。校舎こそは建て直されていたが、約束を交わした校舎裏の桜の木は残っていた。やっぱり居ないか、そう思いながら立ち去ろうとした時だ。
「ねえ・・・私君?」
聞き覚えのある声に、私は振り向いた。そこには、私と同じ齢を経たA子が居た。年齢こそは重ねたものの、少女時代の面影を感じさせる顔つきだった。
「もしかして、A子・・・?」
「うん・・・元気そうだね。」
「ああ。転勤族だから、未だに独り身だけとね。A子は?」
「私も同じよ。ただ、私の理由はちょっと違うけどね。」
「えっ・・・?」
「私、私君の事が忘れられなくて・・・お付き合いした男性もいたし、お見合いも何人かとしたわ。でも、結婚迄は至らなかった・・・」
「それって・・・」
「私君に逢いたかった。私には、貴方しかいないの・・・私が人生を共に過ごすのは、貴方しか・・・」とここまで言ったところで、A子は泣き始めた。そんな彼女を、私はゆっくりと抱きしめる。
「僕も同じだよ。共に人生を過ごす相手は、君しか居ない。A子、僕に付いてきてくれるかい?」
その言葉に、A子は静かに頷いた。幼稚園の頃から抱いていた恋心は30有余年を経て、実りの時を迎えたのだ。
(初恋は成就しない、っていうけど・・・それは違う。想い続ければ、恋はいつか愛になるんだ・・・)
私は心で呟きながら、再び彼女を抱きしめた。桜は私達を祝福するように、花びらのシャワーを私達に浴びせていた。(終)
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コメント
音羽ゆえ提督
うるうる良い話だねえ(;_;)