ショートストーリーあれこれ
楽園という名の地獄
私はかつて、お笑い芸人として一世を風靡した男であった。その頃の私は傲慢で、怖いもの知らずで、何事も自分の思い通りになると思っていた。
しかし、人気というのは永遠に続くものではない。私は次第と飽きられ、忘れ去られ、消えていった。たまに仕事は来るが、端役程度でほぼないに等しい。私は焦り始め、我を忘れて売り込みをしたがかつての傲慢さが災いして、相手にもされなかった。
そんな時、その男は来た。男は薬の入った袋を見せながら一言。
「これはあんたを楽園へ連れて行く薬だ、これを使えばあんたはこの世の物とは思えない楽園に行ける、もう一度栄光の舞台に戻れる。さあ、どうする?」
それ以来、私はかつての栄光を取り戻し始めた。トークのキレは戻り、芸の幅も広がった。かつての傲慢さは影を潜め、昔を知るスタッフは「あいつ、変わったなあ。」と驚きの表情を浮かべつつも称賛していた。ただ、一部には「あいつ、何かヤバいな。」というヤツも居たが。
薬を使い始めて数週間後。私の元に来客があった。その客は手帳を示しながら、尋ねるような口調で話し始めた。
「○○さんですね?」
「はい・・・」と、私は憔悴しきった顔で答える。実を言うと、最近薬の副作用―所謂禁断症状だが―で眠れない日々が続いていたのだ。
「我々が来た理由は分かるな?」
「はい。」
「○○、麻薬及び向精神薬取締法違反で緊急逮捕する。」
そういうと客―警官は、私の手に冷たい手錠を打った。
警察署へ向かうパトカーの中で、私は憔悴しきった顔で静かに呟いた。
「あの男は楽園へ連れて行く天使だったのか、地獄へ連れて行く悪魔だったのか・・・」
私にその答えは見つからなかった。今はただ、静かに眠りたい。そう思うだけだった。(終)
しかし、人気というのは永遠に続くものではない。私は次第と飽きられ、忘れ去られ、消えていった。たまに仕事は来るが、端役程度でほぼないに等しい。私は焦り始め、我を忘れて売り込みをしたがかつての傲慢さが災いして、相手にもされなかった。
そんな時、その男は来た。男は薬の入った袋を見せながら一言。
「これはあんたを楽園へ連れて行く薬だ、これを使えばあんたはこの世の物とは思えない楽園に行ける、もう一度栄光の舞台に戻れる。さあ、どうする?」
それ以来、私はかつての栄光を取り戻し始めた。トークのキレは戻り、芸の幅も広がった。かつての傲慢さは影を潜め、昔を知るスタッフは「あいつ、変わったなあ。」と驚きの表情を浮かべつつも称賛していた。ただ、一部には「あいつ、何かヤバいな。」というヤツも居たが。
薬を使い始めて数週間後。私の元に来客があった。その客は手帳を示しながら、尋ねるような口調で話し始めた。
「○○さんですね?」
「はい・・・」と、私は憔悴しきった顔で答える。実を言うと、最近薬の副作用―所謂禁断症状だが―で眠れない日々が続いていたのだ。
「我々が来た理由は分かるな?」
「はい。」
「○○、麻薬及び向精神薬取締法違反で緊急逮捕する。」
そういうと客―警官は、私の手に冷たい手錠を打った。
警察署へ向かうパトカーの中で、私は憔悴しきった顔で静かに呟いた。
「あの男は楽園へ連れて行く天使だったのか、地獄へ連れて行く悪魔だったのか・・・」
私にその答えは見つからなかった。今はただ、静かに眠りたい。そう思うだけだった。(終)
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