見上げる月夜の照らす者

八つの蜜

27.第弐拾漆話 余波


大型のショッピングモールの柱の影から八城さんの様子を伺う。

「あ、鼠入くん!こっちこっち」

「お待たせ、ごめん待ったよね?」

「ううん。今きたとこ」

「じゃあ行こうか」

颯と八城さんは2人で並んで歩く。それはデートのようで見ているとカップルのようにみえる。

「追うわよ、凪くん」

「う、うん」

なぜ、2人のデートをつけているのかと言うと話は数分前に遡る。


買い物のため、大型のショッピングモールに来ていた俺はベンチに腰掛けている八城さんを見つける。
声をかけようとするがこの前の事故がフラッシュバックし、声をかけれずにいた。すると後ろから声をかけられる。

「凪くん?ここで何してるの?」

「え、あ!牛呂さん。俺は買い物をしに来たんだよ。牛呂さんは?」

「私も妹におつかい頼まれちゃって」

「妹に?」

「うん、まだ体が万全じゃないから。無理しないように身の回りは私がしてるの」


牛呂さんはお婆ちゃんが亡くなって頼る人がいない分、負担が大きいはずなのに…

「牛呂さん、力になれる事あったら遠慮なく言ってね」

「ありがと。それよりあれって琥珀よね?」

「ミタイダネー」

「凪くんってほんと分かりやすいわよね」

「そう?分かりにくいってよく言われるけどな…」

牛呂さんにも分かるくらいだ。きっとそうなのだろう。

「ね、せっかくならちょっとついてってみない?」

「え!?」

言葉を発したと同時に口を押さえられ、柱の影に隠れる。

「しー!声が大きいわよ」(小声)

「ご、ごめん。でもつけるってこと」(小声)

「あの感じだと誰かを待ってると思うのよね」

再び柱から顔を出して観察する。八城さんはこちらに気づかず、ソワソワとしている。

「あれは…デートかしら?」

「で、でーと…」

(いや、でも琥珀の好きな人は…)

でーと…デート…八城さんはデートをする相手がいたという事。それは事故とはいえ、俺の失態を意味する。

両者唸る。

そして、現在…

2人の尾行は順調?に行われていた。
ランチ、その後はモール内をぶらぶらと歩く。それを追う俺と牛呂さん。

「遠くて聴こえないね…」

「だね…」

二人が何を話しているのか結構距離が空いているため聴こえない。

チュウ…

「「?」」

チュウ?鳴き声の方を振り返るとそこには黒い小さな鼠がこちらを見ていた。

「「!?」」

「二人とも〜何してるのかな〜?」

「真季波くんと瑠璃ちゃん?」

「「あ…」」

鼠に気を取られ背後に忍び寄る影に気づかなかった。

「声かけろよな〜」

「「すみません…」」

牛呂さんと俺はベンチに座り二人は俺たちを見下ろすように目の前に立っている。

「二人ともいるからびっくりしたよ」

「「反省しております…」」

深々と頭を下げた後、疑問を投げかける。

「でも休日になんで待ち合わせ?」

「姉ちゃんがもう少しで誕生日だからプレゼント選びに付き合ってもらおうと思っててよ。でもちょうど良かったわ。凪たちも一緒に選んでくれよ」

「そう言う事なら任せなさい」

「うん、力になるよ」

俺は内心ホッとしていた。それがなんなのか全く分からないなぜホッとしたのか。

俺と牛呂さん、颯、八城さんは4人でゆっくりと見て回ったが颯がお姉さんのプレゼントを選ぶ事は無く、辺りはすっかりオレンジ色に照らされ出していた。

「みんなごめん。結局何も決まらなくて」

「そういう時もありますよね」

「即決するよりいいんじゃない?私はもう帰らないとだから」

「なら送ってくよ。凪は八城さんよろしく〜」

(ちゃんと仲直りしてこいよ?)ヒソッ

「!?」

さすがと言うべきか…颯は人の事をよく見ている。
2人を見送った後、俺と八城さんも横並びで帰路につく。

「「…」」

なに話してたっけ?静寂が息苦しさを増す。その静寂を破るように八城さんが口を開く。

「もう大丈夫…?」

「えっと…うん」

それは俺の気持ちの事を言っているのだろう。耐えられなくなり子供のように現実逃避し、八城さんにも迷惑をかけた。
彼女は立ち止まり俺の目を一点に見る。彼女の澄んだ目には心が覗かれてるような変な感じになる。

「嘘ついた…本当は全然大丈夫なんかじゃない…」

「うん」

「でも、前よりは穏やかになってる。だから大丈夫だよ」

「そっか」

彼女は安心したようにはにかむ。とても眩しかった。それは夕日が眩しかったのか彼女の笑顔が眩しかったのか、多分後者なのだろう。

(息苦しいな…)

「早く帰ろうか」

「うん」

先のような詰まるような息苦しさは既になくなっていたが、胸の中で違う息苦しさが姿を現していた。

(やばい…)

この感情は初めてのもので彼にはどうしていいものか分からない。ただ、彼女に自信の熱くなった頬を見られないために必死に前を歩いた。




「そうか…その娘が主の支えか…ならば」

鴉を通し、2人を観察していた老人は不敵な笑みを浮かべる。それは予期せぬ悪い予感を加速させるものだった。

「今度はなにを企んでいるんだい、ぬらりひょん?」

「主は辰川か…相変わらず自信の能力ゆえ見窄らしい姿よのぅ。して、何様かの?」

「悪さをする妖怪は退治しないとね。それと、戦友の仇かなッ!!」

言い終わると同時に肉弾戦に持ち込む。ぬらりひょんは肉弾戦向きの妖怪ではなく、他の妖怪を操る、もしくはその能力を使い計算で戦うタイプ。簡単に言えば質での攻撃。

「んぐッ…」

手加減などしない。殴る蹴る、一発一発に有りったけを込め。

「そう来なくてはなッ!!」

ぬらりひょんは自信の左腕を切り離す。その腕はみるみるうちに膨らみやがてー

部位爆破ぶいばくは

「ほほ、やはり一筋縄では行かぬか…」

部分竜化ぶぶんりゅうか龍鱗りゅうりん

「それはこっちのセリフじゃたわけ」

(先の爆破の威力は建物でも粉々に消し飛ばす威力なのだがな…爆破の直撃を受けても無傷…竜の鱗は想像以上に硬いのぅ…)

(肉弾戦のラッシュ、左腕の欠損、爆破による全身火傷も完治…治癒の速度が尋常じゃないな…)


時期に夜がくる。

「わしとお前、お互い早めに決着つけたいね」

「そうじゃな…」

“臨界解放・百鬼夜行絵巻ひゃっきやぎょうえまき

「この技は温存しておきたかったがそうも言ってられんからのぅッ!」

「星に人が住み、団欒と幸せを謳歌する。それは流れ後に衰退していくもの…わしらはそこに干渉してはいけない」

“臨界解放・星欒落花流水せいらんらっかりゅうすい

各々が各々の思いを胸に…両者間での臨界解放。その余波はその両者間に留まる。それは響也の結界術の作用、壊れる事でその余波は伝わらずその森は静寂に包まれる。その余波は感覚の鋭い者や一部の者にのみ理解される。

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